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他人の怒り、それとも



「私のムコになる人はこの腕よりもっとムゴいものを見る羽目になるわ。そんな私が、化け物を屠ることに躊躇いなんか見せると思うの? 全てが欠落した私が唯一満たされること、それが化け物殺しなの」


「………そ、れが…」



 おぞましい皐月姉妹の過去。狂わされた運命。焦土にわらい、血しぶきに歓喜する姉妹の過去。発狂してもおかしくない状況で、姉妹はギリギリのところで人としての正気を保っている。



「今でもたまに夢に出るわよ。あたり一面血とヒトの一部、そして何か薬品のようなものが焼けるニオイ。見渡せば血の海。私くらいのトシの女の子ならスィーツ(笑)な夢でも見てるんでしょうけど」



 嘲笑うように話す蘭。過去の己と、今の自分自身を嘲笑うように



「……ダメだ」


「は?」



 龍斗が蚊の鳴くような小さな声で言った。そして意を決したのか、大きく息を吸い込み話し出す。その目は揺ぎ無い光があった



「そんなのでいいのかよ……? 殺し続ければお前の心が化け物みたいになっちまう。殺し続ければお前の心が人でなくなる!」


「ずいぶんと詩的な物言いね、それがどうかしたの? 私の体はほぼ全身機械にすり替わってるわ。私の体はすでに化け物、そしてもちろん心もね。初めて会ったときの子と覚えてる? 私はアナタの前で平気で龍化者を撃ち殺したのよ?」


「違う!! 心まで化け物なら、どうして今まで恋を守ってきた?! 化け物ってのはな、ただただ本能でしか動けないクソ以下だ! 理性なんてあったもんじゃない! 


 だけどお前は違うだろう?! お前は、今の今までずっと! 恋を守り続けてきたんだろうが! 今だってそうだ! 自分のことは棚に上げて、まず恋を心配してた! 本物の化け物にそんな芸当はできるはずない!」



 バァン! と大きな音がする。蘭が義手を壁に叩き付けたのだ。壁にはヒビが入っていた。落ち着いていた蘭の言葉に怒気が混じりだす



「綺麗事ばかりほざかないでくれる? はっきり言って不愉快よ。言ったわよね、力なき正義は偽善だって。化け物に私の何がわかるって言うのよ!! 私が今までどんな思いで戦ってきたかなんてわかるはずもない!!」


「あぁ僕にはお前の考えてることなんてわからないさ! お前どころかここにいるみんなの考えてることもわからない!! でもお前が妹を想ってるってことくらいはわかる!! それが嘘偽りない本物の気持ちだってことも!」


「それがどうしたのよ! それじゃああなたに何ができるって言うのよ! もう私は戻れない、頭からつま先でどっぷり血の海に沈んでる! 私はクソはクソらしく生きたいって言ってるだけじゃない! 人の生き方にまで口出ししないで!」


「……確かに、お前の生き方まで否定はできない。でも、僕も恋を守ることくらいはできる! そして僕はお前より強い。お前の嫌う力無き正義なんかじゃない! 


 お前が自分を化け物って言うならその化け物に守られてる恋はどうなる?! 恋は少なくともお前を大切な家族として想ってる、お前はそれを踏みにじるのか!!」


「知ったような口を、いつまでも並べ立てるなッッ!!」



 二人の感情のボルテージが限界まで振り切ろうとしたとき、部屋の出入り口から落ち着いた低い声が聞こえてきた



「落ち着け青年、そして皐月蘭。その辺でいいだろう、大きい声を出してすっきりしたろうに」



 ソロモンが二人を嗜めた。忘れていた人物の不意を突いた登場で二人の心は徐々に落ち着きを取り戻していく



「そういや一緒に来たんだったな。忘れてた」


「…………忌々しいけど同じく」


「随分な物言いだな……まぁいい。君たちの喧嘩があまりにも激しいものだからな、少し周りを見てみろ」



 龍斗と蘭、そしてソロモン以外でその場にいた人物全員が泣いていた。それを見て少しばかり冷静さを取り戻した二人。と、二人の頭上からキンキンに冷えた冷水が降ってきた。頭は冷えた。物理的に



「ソロモンさんお待ちどう! 頼まれてたキンキンに冷えた冷水、二人の頭上に転移させてやったぜ!」


「よくやった、黄泉川君。後でBBQの肉を多めにとる権利を上げよう」



 ジュウ、という音がした。龍斗の周りの氷水がどんどん蒸発し湯気として気化している。怒りの熱気、といったところか



「材料はお前らだ黄泉川、ソロモン」


「残念、BBQじゃなくてハンバーグになるわね」



 凄まじい怒気を発した龍斗が指をパキポキ鳴らしている。蘭の機械の腕が不気味にギギギと動いている。数秒後、二つの断末魔が海の家に響いた









「よくよく考えたら俺の能力ってチートじゃないですか。陰さえあれば瞬間移動もできるし、陰を物質化したりとかもろもろ。正直、ガチでやりあったら誰も勝てないんじゃないかなー」


「私も割りとチートなのだがな。瞬間移動したりとか、天候操ったりとか、あと悪魔開放デーモンバーストとか。私も私が負けるビジョンは浮かばんな」


「なんでこうなるんですかね」


「日ごろの行いだろう」



 大き目のゴミ箱に二人仲良く尻から突っ込まれたボロボロの黄泉川とソロモンが海の家の裏手にいた







「な、なんだと?! 10人前以上の肉が、たった数分で、全滅?!」


「まだよ、まだ肩ロース食べきっただけよ。次」



 久しぶり舞奈さんの食いっぷりを見て驚愕している守人先生。早く肉取らないと全滅してしまう。まさに戦場だった。トングが舞い、菜箸が鍔迫り合い、肉を我が物にせんと激しいぶつかりあいが続いている



「火力低いよ! なにしてんのりゅーとサン!」


「最大出力、焼っけろぉぉぉ!」


「肉の残量が持たん時が来ているのか……えぇい! 予備を出せ、僕が焼く! 君たちに、ひもじい思いをさせたくないからな!」



 龍斗が炎を起こしそれを維持、守人先生が絶妙な加減で焼き上げていく。ジュウジュウと美味しそうな匂いを漂わせるBBQ。肉ばかりが減りがちだが、野菜は焼きそばに混ぜることで着実に消費していっている。


 先ほどのケンカ騒動の直後、ソロモンと黄泉川が龍斗と蘭にボコボコにされている間に、守人先生と他一同が4人を放ってBBQを始めていたのだ。空腹に耐え切れなくなったのと、二人をボコすのに飽きた二人も参加した。


 そしてソロモンと黄泉川はゴミ箱に突っ込まれた




 つつがなく昼食は終わり、(結局ソロモンと黄泉川はわずか残っていた焼きソバをつまんでいた)各自ゆったりした時間を過ごしている。


 ある者はまた水と戯れ、ある者はパラソルの下でゆっくり昼寝に興じ、ある者は浜辺でのスポーツをしている。龍斗は砂浜の波打ち際に腰掛け、打ち付ける冷たい波の感触を楽しんでいた



「なにしてるんだ龍斗?」


「ん? チャクラか」



 龍斗の隣に腰掛けたのは茶倉だ。一番付き合いの長い龍斗の友人と龍斗は思っている。茶倉はそうは思っていないようだが。最近は照れから来る暴走はしていないが、虎視眈々と龍斗を狙っている



「サクラと言っとろうが……まったく。お前らしいな、何もせずボーっとしてるなんて」


「いいだろ、落ち着くんだよ。海初めてだし、こうやって堪能するのもいいじゃないか」


「そうだな」



 しばらくの沈黙。だが二人の間に気まずさはない、付き合いが長いと沈黙の時間は苦痛ではないのだ。龍斗は地平線を眺め、茶倉は手元の砂をいじっている。と、茶倉が唐突に話し出した



「お前があんなふうに感情を爆発させてるの、初めて見たな」


「ん?」


「今までは縮こまって震えて、流されるままに生きてきたお前があんなふうに他人を諭すなんて思いもしなかったよ」


「諭してなんかない。なんだろう、わめき散らしてただけなんじゃないかな。何言ったかもう覚えてないよ。ついカッとなってやったんだよきっと、今は反省してる」


「お前は変わったよ。いい方向にな」


「……変わったのは僕のほうなのか?」


「どういうことだ?」


「僕の中の龍のせいなんじゃないか? だんだん龍に感化されて来てんじゃないかな。いつか僕の人格がまた龍にのっとられて消えちゃうかもな」


「それはないな」



 思いのほかきっぱりと言い放つ茶倉。



「なんでさ?」


「お前が龍になるのを拒んでるからだ」



 経った一言だが、それを聞いてなにかがすとんと腑に落ちたような気がした龍斗だった

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