業を背負いし火龍
さて、ここが主人公にとってのターニングポイント的なものになります。
名前にはそれぞれ意味がある、「業」火龍もまた然り
数週間後。江瑠弩荘に龍化関係者が一堂に集まった。
赤羽龍斗、茶倉光、黄泉川堺人、緋色百合、朱色花華。そして悪魔で普通の人間であり龍殺し代表ソロモン・レクター。
ソロモンは赤羽が呼んだ。それなりに彼らにも理解があり、組織内でも龍化者に救済措置を講じようとする第一人者でもあるからだ。
「まず初対面の奴らがいるから自己紹介から始めとこう。僕は赤羽龍斗、一応業火龍って呼ばれてるらしい」
「わっちは茶蔵光。一応電雷龍と名乗っておくか」
「私は緋色百合。緑神龍よ」
「私は朱色花華。この女と同じ緑神龍ですわ」
「俺様黄泉川! 黄泉w…」
「私はソロモン・レクターだ。特務機関龍殺しで極東支部の支部長をやっている」
「あれ? 係長とか言ってなかったか?」
確か前にソロモンと戦った時にそういっていた気がする
「前支部長はセクハラ事件起こして解雇された、繰り上がりやら推薦やらなんやらで私がやることになった」
「ご愁傷様……」
「話聞けぇぇーーー!!」
「「「「ハイハイ黄泉川黄泉川」」」」
黄泉川以外で大合唱。黄泉川号泣。男が泣くな、みっともない
僕は今まで数週間の経緯を話した。家出の訳、そこで戦った水龍、それを殺した龍殺しのメンバー二人。花華との戦闘、暴食龍との対決。色々あった。ずっと戦っていた。学校と両立しながら。こういうところで舞奈さんや皐月姉妹を尊敬してしまう。
女の子でありながら戦いに行き、そして普通も演じているのだ。本当に、強かだ。少なくとも僕よりも
「そんなことがあの数週間のうちに……なんでわっちらに言ってくれなかったんだ。すぐ一人だけで抱え込もうとする」
茶倉が怒ったようにぼやく。僕は言い分を述べた
「……もう、友達を戦いだなんだに巻き込んで無くしたくなかった。目の前で人が死んだんだ。さっきまで、分かり合おうとしていた人が……怖いんだよ……モノを失うより、僕が傷つくことより、誰かが僕のせいで消えていくなんて、嫌だったんだ…」
茶倉はそれ以上強く言い返してはこなかった。僕が頑固なことを彼女はよく知っている。どうしようもなく弱いのに、ここぞというとき強がる。孤児院時代はそんな僕を察して、いつも傍にいてくれたのだろう
「龍斗様……」
「ちゃんと主人公してたんだな」
一々茶化さないと気が済まないのか黄泉川というやつは
「うるさいぞ黄泉川。皆は僕が龍殺しに入ったことにあんまり驚かないんだな」
ヒイロが口を開く
「そこにいれば必然的に龍化者の情報が集まる、ヘタに個人で動くよりは効率的だし……どうせ龍斗サンのことだし、倒した龍化者から情報引き出して、あとは龍殺しが手を出せないよう保護なりなんなりするつもりでしょう?
そこの人も龍斗さんと同じような考えを持つ同志、といったところでしょうか。出なければその人外殺し専門機関の人がここにいるはずありませんから」
くいっ、と眼鏡を押し上げ考察を述べるヒイロ。凄い洞察力だ
「流石はヒイロ、するどい。まぁそういことだ。利用できるものは利用する、だが利用はされない。それでいい」
苦笑いしながらソロモンは僕をたしなめる
「私の前でそう言うのを言うのはどうなのだ青年」
「利害はあってる、そのための提携だろう?」
「道理だな」
「それで、今のところ龍殺し……でしたか? はどういう動きをしていますの?」
花華がソロモンに質問する。
「私が支部長になったからとりあえず過激派は何とか抑えている。裏でコソコソやっているようだが、私が直々に出ていけばおとなしくなる。問題は龍化者の方だ……最近不穏な龍化者が多い」
ソロモンは懐から資料を数枚取り出し、無造作にばさりと机の上に広げる
「まずは青年が戦った暴食龍。本名 大蔵委 祐大
各地を点々と渡り歩き、その土地に住む龍化者とどんどん戦っていっているようだ。我々が駆けつけてもすでに姿はなく、その土地に住んでいたであろう龍化者だったと思わしき残骸が転がっていることが多々ある。
そして気になるのは……彼の能力があまりにも不透明なのだ。監視班の追跡にもほとんど引っかかっていない」
戦ったものだからこそ分かる感覚。戦っていた時に感じていた怖気。彼の狂った笑いを思い出し、少しだけ身震いしてしまった
「あいつは……他とは違う、異質な感じがした。極限龍化から人型に戻ったりしたしな……しかも人型に戻った時の方が龍になった時より強くなっているように感じた」
「それについても現在調査が続いてはいるが……データがない以上、進展はないだろうな。現時点、青年に次いで重要人物だ。
次は白氷龍、本名 双葉 蒼太。氷系統の能力の持主らしい。ある龍化者を探しているらしいが、詳細は我々でも掴めていない。そしてここから大事なことになる。龍化者についてのことだ……我々が龍化者についての情報をまとめたときに引っかかることがあった」
少しソロモンが怪訝そうな表情をする。下の方の資料を引っ張り出し、取り出したボールペンでコツコツと要所をさす
「龍化者の多くは出身が不明だったり、青年と同じく孤児院出身が多い……そして孤児院育ちでないものはほとんどが何かしらの関係で朱色製薬が関わっている。
青年の出身の孤児院、そして先ほどの白氷龍出身の孤児院、その二つの孤児院の出資者は朱色製薬だ。暴食龍は父親が朱色製薬で働いている。母親も同じところで働いていたが、数十年前謎の事故で亡くなっている。
失礼かと覆うが朱色令嬢、何か心当たりはないか?」
「私の会社、ですの? いえまったく……私の家では家督や仕事については、成人し、ある程度の人生経験を積んでからやっと学べるといったほどの徹底教育主義ですので」
突然話題を振られて少し驚いた様子の花華。花華の反応から見ておそらく何も知らなかったのだろう。確実に、真実に近づいて行っているような気がする。残酷で、何よりも悲しい真実に
「ン? ずいぶんと話し込んでたんだな、僕たち」
「ホントだ、お茶が途切れないとつい話しこんじゃうわね」
時計をふと見ると時刻は4時頃。1時ごろに集まったので3時間はこうやって話し合っていたことになる。緑茶も茶瓶2杯ほど補充している
「そろそろタイムセールス始まるし、この辺でお開きにするか。花華、ソロモン、黄泉川、食ってくか?」
「龍斗様の手料理……いただきますの!」
「まーじで?! 恩に着まーす!」
「ふむ、たまにはよかろう。義妹に土産も渡したいしな」
やたら大荷物かと思ったらそういうことか。資料のほかに胡散臭いアイテムがカバンからところどころはみ出している
「ちなみに何持ってきたんだ?」
「龍殺しデザインのテナントと私が手掘りした木刀」
「一昔前の修学旅行か!!」
買い出しは花華と僕とで出かけた。別に荷物が多くても僕なら持てる。花華には野菜の選別を手伝ってもらう。緑神龍の能力の有効活用術である。
「失礼なこと考えませんでしたか、龍斗様?」
「気のせいだ」
買い出しに出かける道中なぜか花華がご機嫌だがまぁいいか。不機嫌よりはずっといい。年相応で、可愛い少女がボクの隣で笑っている
「何を作ろうかな……花華は苦手なものとかあるか?」
「(龍斗様と二人きり♪ 龍斗様と二人きり♪)」
「……花華?」
顔を覗き込んで呼びかける。熱でもあるのか? 顔が真っ赤だ
「ひゃいっ?! な、なんでございましょうか?! 」
「はは、びっくりしすぎだ。熱でもあるのか? 顔赤いぞ?」
「だ、大丈夫ですの、考え事してたもので……なんですの?」
「苦手なものとかあるかって聞いたんだ」
「好き嫌いは基本的にありませんの」
「よし、確か今日はささみが安かったな……棒棒鶏…? いや、生野菜だと住民たちがあまり食べてくれないし……ささみを揚げて、付け合せに野菜のポトフとかでも…」
「聞いただけで美味しそうですわ」
「期待しないでくれよ、プレッシャーに弱いんだよ僕は」
その時、僕の携帯からバイブレーションとともに着信音が鳴りだした。物悲しい歌詞の割に激しいテンポの曲だ。僕のお気に入りの曲である。発信者の名前はソロモンだった。なにか買ってきてほしいものでもあったのだろうか。応答のボタンを押す
「どうしたソロモン」
『青年か?! 今どこだ?!』
「ン? もうちょいでスーパーに着くくらいのとこだが」
『その辺りに龍化者の能力発動を検知した、一旦朱色嬢を連れて江瑠弩荘に戻ってこい! その龍化者は……』
「……もういい、ちょっと遅かったみたいだ」
辺りに季節外れの北風が吹く。それは一瞬にして吹雪へと姿を変え、辺りを白銀の死の街へと変えた。凄まじい冷気の嵐に僕は熱を操作、僕と花華の周りに熱バリアーを張る。だが冷たい風は僕の視界を奪うのに十分だった
次に僕が目を開けた時、僕の目の前には氷漬けになった世界、そしてそこに佇む一人の人でなしがいた。
「会いたかったぞ、業を背負いし龍化者よ」
整った中性的な顔立ち、病的なまでに青白い肌。漂う殺気、機械のように抑揚のない声、光彩のない目。冷たい殺戮者そのもの。
額に嫌な汗が流れる。そしてさっきから違和感のようなものを感じる。こいつが放っている殺気とは別に、僕はこいつを恐れている? そしてこいつとは初めて会ったわけではないのか? どうもはじめましての関係には思えなかった。記憶をたどって思い出そうとしたとき朱色が話し出し、回想は中断された
「この龍化者……ソロモンさんが見せてくれた資料の龍化者ですわね…」
「おぉ、小生のことを知っているのか。なら名乗りはいらないか?」
「朱色、江瑠弩荘まで全力で逃げろ。ソロモンに伝えてこの辺り一帯の住民に避難勧告を出すように言うんだ」
「あぁ安心してくれたまえ、もうこの辺り一帯の住民は残らず氷漬けだ」
蒼太が指をぱちん、と鳴らす。すると氷漬けになった世界が一瞬にして無数の氷の粒となって砕けた
「ッ…! テメェ……」
「どうだい? 辛いかい? 自分の無力さにヘドが出るかい? でもね、貴様が小生にしたことよりはずいぶんと軽いものだよ」
「……さっきから違和感を感じてた、お前、僕と会ったことがあるか?」
とたんに殺気が膨れ上がる。先ほど砕けた氷の粒が舞い上がり、蒼太の周りに渦を巻きだす。機械のように抑揚のなかった声に凄まじい怒気が混じる
「小生を覚えていないということは、貴様まさか、自分がしたことを覚えてないのか?! 小生は覚えているぞ、忘れたくても忘れられないほどにな!!」
「花華ッ!」
蒼太の叫びに合わせて冷気が爆ぜた。辺りの地面が一瞬にして永久凍土に変わる。
「小生は奪われた、小生のすべてだったものを! 小生の世界を! 貴様が! 奪ったんだッッ!!」
炎を炸裂させ熱エネルギーを操作、防壁まがいのものを作る。なんとか氷漬けは防げたが、寒さに弱い花華は居るだけでダメージを負っている。守りながらの戦いはかなり不利だ
「くっそ……」
「龍斗様、私のことは構わずそいつを…」
「バカ野郎! ここで見捨てたらお前を助けた意味ないじゃねぇか!」
吹雪が止む。蒼太はなぜか恍惚とした表情でこちらを見ている
「あぁ、やっぱりそこにいたんだ。今助けてあげるからね……姉さん……」
姉さん? その言葉に頭の中に二人の子どもが自分と遊んでいる様子がフラッシュバックする。楽しそうに――――次の瞬間、子どもたちが真っ赤に染まった
「うわぁぁぁああぁぁぁあっぁあああ!!!」
~~~~~~~~~~~~
「……切れた、か………マズいな…」
いやに禍々しいガラパゴスケータイを耳から離しながらソロモンは呟く。今赤羽が真実を知れば間違いなく正気を失い、極限龍化するなり能力が暴走するなりで恐ろしいことになる。なんとしてでも赤羽が暴走する前にコトを鎮圧する必要がある。携帯を折りたたもうとした時、着信が鳴った。
「私だ」
『ソロモン隊長! 双葉蒼太と赤羽龍斗の能力発動を観測しました! 近くに朱色花華もいます! 現在龍野町4丁目にて交戦中!』
「わかった、すぐさま向かう」
携帯を折りたたみ、ポケットに入れる。掛けておいたマントを引っ掴み、玄関へとひとっ走り。途中居間にいる義妹に声でもかけておくか
「あ、お兄ちゃんもう帰るの?」
「あぁいや、青年が財布を忘れたと連絡が来てな。ちょうど私もその辺りに用事があったところだし届けるところだ」
「そう、いってらっしゃーい!」
「あぁ、行ってきます」
「くそっ、間に合えばいいのだが…」
そう呟きながら4丁目への曲がり角を曲がった瞬間だった
ゴガァァァァン!!
曲がった先から突如飛び出してきた巨大な槍が壁を粉々にした。
「(危なかった……とっさにセエレで瞬間移動したが…)」
「ちっ、避けられたか」
「君が私に差し向けられた刺客か。人外殺しの狂槍女、蒼空」
「さぁね? でもたまには人斬りってのもいいかなってね」
黄昏を後ろ姿にして、ゆらりとセミロングの少女が姿を現す。端正な顔立ちをしているが、その身から溢れだす禍々しいまでの殺気はソロモンですら恐怖を覚えた
ガァン! ガァン! ガァン! ガキン! ガキン! ガキン!
後ろから僅かな殺気を感じ、ソロモンは懐の銃を取り出し数発発射する。ハジかれた大ぶりの手裏剣が地面に転がった
「フン、君まで投入してきたということは奴らは本気らしいな……人外専門の暗殺傭兵集団頭領……斬隠・蒼頭流・梅剣」
辺りに急に木枯らしが吹き荒る。木枯らしが過ぎ去るとそこには忍者装束の青年が佇んでいた。顔を隠し、目出しの部分から虚ろな目がソロモンをただ見据えている
「………………」
「悪いが私には用事があるのだ。ここで君たちに足止めを食らっているわけにはいかない。そこを通せ」
「断るね。アタシにも仕事ってものがあるんだ、アンタの殺害って言う仕事がね!」
「………………」
蒼空が巨槍を構える。梅剣が背中の2本の忍者刀を引き抜く。黄金の銃、「ヴィルジニア」と白銀の銃「バルクライ」を構えてソロモンはぼそりとごちる
「やれやれ、いつになっても子守りは慣れないな……来い」
さて、怖いことになりました。どーしましょう