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龍殺しの切り札たち


 突如として現れた江瑠弩荘住民・如月舞奈。髪は後ろで一纏めにし、道着姿、両腕に籠手、腰には一振りの太刀と脇差。サムライガール、ここに現る



「キサラギ……さん?! でしたっけ? あ、これはデスネ、いやなんてーか…」


「慌てなくても大丈夫よ。貴方達龍化者のことは知ってるわ。りゅーとサンと戦ったときのこともね。イタズラは程ほどにね、黄泉川君」


「いや、あのときはスンませんマジで……じゃなくて! なんでそんなジャパニーズSAMURAIなカッコしてるんですかい?」


「これが私の戦闘服よ。詳しいことは後で話すわ。とりあえず、その人下してあげたら?」


「あぁ、スマン…」




顔面蒼白の玄夢が白目をむいていた






「ところでそこの誰かさん、早く出てきて。尺短縮したいから」


「キサラギさん、メタいのはダメっす。てか誰かいたか?!」



 次の瞬間、舞奈が黄泉川と玄夢を横へと蹴り飛ばす。刹那、3人が立っていた場所から巨大な土気色の柱が生えた。いや、柱ではない。黄泉川たちと同じ龍の鱗。それは地面に向かってもう一度潜航、次は頭だけ出して出現した




「げぶぅ?!」


「あら……ずいぶんと簡素ね。さしずめ蛇龍ワームドラゴン……といったところかしら」


『ゲリョォォォォォオオーーーーー!!!』




蛇に角と大きな牙が生え、そのまま巨大化させたような龍が大きく吠えた







『ゲリュッ! ……ゲゲ』


「ただ極限龍化しただけではなさそうね……」


「ゲホ……どういうことっすか?」


「ただ何となくそう思っただけだけど。今はこいつを退けるわ。疲れてるでしょうから下がってて、下手すればどこか切り落としちゃうかも」


「怖ッ?!」



スゥ、と姿勢を低く構え、目を閉じる舞奈。右手をゆっくりと左腰に納刀している太刀へと伸ばす



『ゲリュリュリュリュ!!』



 地面と地上をまるでイルカのように、潜っては出現を繰り返しながら舞奈に迫る。ひときわ大きく口を開け、食いつこうとした瞬間だった。



「如月抜刀術・崩閃花ホウセンカ



 そう舞奈が呟いた瞬間だった。パァン、と何かが破裂するような音、そして蛇龍の犬歯2本が吹き飛ばされた




『リュォォォォオオーーーー?!』




痛みで大きく軌道がそれ、のた打ち回り始めた蛇龍。


 見えなかった。抜刀術と呟いたのだから、太刀を抜いた瞬間に蛇龍の犬歯を切ったのだろうが……龍化者である黄泉川ですら見えないほどの速さで納刀までやってのけたのだ



「流石に硬いわね……全部折るつもりで斬ったんだけど」


「ウッソォ……」



『ゲリュオォォオオォォーーー!!』




 身体をしならせテイルバンパーで辺りを薙ぎ払いながら舞奈を叩き潰そうとする蛇龍。タッ、と軽やかなジャンプでそれをかわし、蛇龍の後ろに降り立つ



「如月抜刀術・狭斬花サザンカ



 黄泉川が舞奈の技名を聞いたときにはもう舞奈は蛇龍の後ろにおらず、蛇龍の真正面に蛇龍に背を向ける形でそこにいた。太刀を振りぬいた恰好で



『オォォオオォーーーー!!』



 背を向けている相手に攻撃しない手はないといわんばかりに舞奈を食い殺そうと迫る蛇龍



「キサラギさん逃げろォーーー!!」


『ォォオオォ……』


「静かに、眠りなさい」



ヒュパッ、と太刀に付いた血を払い、刀を鞘に納める。チン、と軽い金属音が響いた瞬間



ずる。




『ォオ?』




ドズゥゥゥーーン……



 大きな音を立てて地面に落ちたのは蛇龍の首だった。身体の真ん中あたりから頭まで真っ二つに開かれている。






「ふぅ。お腹すいた……あ、大丈夫、黄泉川君?」



この余裕である。




「あ……あぁ、大じょぶ……」




ズズ…


「?! 舞奈さん伏せて! 影ノ城壁シャドウウォール!」




動きを止めたはずの蛇龍が舞奈を食い殺そうと襲いかかる。黄泉川は自分たちを包み込むように黒い片翼を広げ、蛇龍の首を弾き飛ばす




「蛇龍め、首だけで動きやがった……ぐふっ…」


「違うわ、首だけじゃない……これは……マズいわね」



 そこには双頭の龍となった蛇龍がいた。黄泉川が膝をつく。大けがしているうえに力を使った反動だろう。口の中に残った血液を唾液と一緒に地面に吐き捨てる



「流石に何度でも黄泉がえられるとこっちが持たないわよ…」




「なら何度でもブチ殺してあげればいいじゃない」



ダガン!



銃声が辺りに響いた時、蛇龍の頭の一つが吹き飛ぶ。間髪入れず



ジャカコッ  ダガン!



次弾がもう一つの頭を吹き飛ばす。





「そう。何度でも、何度でも、何度でも………ね」



 不敵に笑みながら巨大な銃のリロードをする皐月蘭がいた。この娘を見たとき黄泉川は直感的に思った。触らぬこの娘に祟りなし、と




「とりあえず、この実験生物ブチ殺すわ。如月はそっちのやつらを殺っといて」


「ランちゃん、この人たちはもう戦う意思はないわ、手出しはダメよ?」


「約一名意識すらないけどwww」


「黙りなさいこの人でなし」


「ハイッ軍曹!!」




 コントしている間にも銃撃の手は休むことなく蛇龍の体を穿っていく。穿たれるたびに急速に回復する蛇龍の体。これではジリ貧である






「なぁキサラギさん」


「なにかしら?」


「正直さ、最初よりデカくなってね? それとオプションで頭が増えてきてるよね?」


「できれば遠慮したいオプションだけど、そうみたいね。苦境に立たされて興奮しちゃってるのかしら、ランちゃん」




「あはっははははははははははhっはっはっははははあっははは!!」



嬉々として引き金を引き、血飛沫が舞い散るさまを本当に嬉しそうな表情で見ている。



「支援に回りたいけど、今のランちゃんの射線上に入っちゃうととばっちり喰らっちゃうし……」


「あの娘が力尽きるのを待ってるしかないってことか……」


「あら? 私がただただむやみやたらにブッ放してると思ったの?」



 大口径の銃から薬莢を弾きだしながら皐月がいう。辺りにはかなりの量の薬莢が転がっていた。カロン、という小気味のいい金属音が響く



「「(思ってた)」」


「ヤツのメカニズム、大体わかったわ。キサラギ、今からヤツの頭全部切り落として頂戴」


「無理難題をおっしゃるわね……ちょっとは自重してくれてもよかったんじゃない?」



 そこには数えるのが面倒になるほどの頭をはやした蛇龍がいた。頭の生えるスペースを確保するためか、体まで肥大化している



「もはやヤマタノオロチじゃ済まないな……」




 今までブッ放していた大型の銃を投げ捨て、背中にマウントしていたの別の大型銃を取り出す。セーフティを解除し、スライドを引く皐月



「行くわよ」


「もう、しょうがないわね」



 銃と太刀を構えながら、二人の少女は化け物をにらみつけた







「如月抜刀術・思路詰草シロツメグサ



 縦横無尽に動き回りながら高速の斬撃で蛇龍の頭をどんどん屠っていく如月。



『リュォォォォ!!!』



 斬られることを逃れた頭の一つが如月を食い殺そうと迫る。が、その頭の発した声は銃声によってかき消される




ダァン!!  ガシャコッ




「私を忘れないでくれる? どうかしら、アタシ特製の対龍化者用の徹甲焼夷弾のその熱は?」



 徹甲焼夷弾とは、硬い装甲を貫けるようにと作られた徹甲弾と、対象物を燃やすことを目的に作られた焼夷弾を組み合わせたものである。相手の硬い装甲を貫き、内部を焼く2段仕込みの弾丸である




 息の合ったコンビネーションで蛇龍を完全に押している二人。辺りが蛇龍の血の海になるにはあまり時間はかからなかった。


 如月が蛇龍の頭を切り落とし、その傷口に皐月が弾丸を撃ち込む。弾丸は高熱を発しながら蛇龍の肉を焼き焦がし、細胞の再生を阻害する





「なるほど、ヒュドラと同じ殺し方、か」



 ギリシャ神話で、英雄ヘラクレスは巨大な再生能力を持つ猛毒の蛇、ヒュドラと戦った。切り落としても再生するヒュドラに対してヘラクレスは、首を切り落とした断面を松明で焼き、再生をさせぬようにして殺したのだ


 程なくして、蛇龍は首なしの胴体だけの身になった。だが生命活動は停止していない。焼かれた傷口も不気味に蠢き、今にも再生してしまいそうだ




「ッチ、もう空っけつ……」



 皐月がさっきまでぶっ放していた大型銃を投げ捨てる。辺りは大きな薬莢が大量に転がっている。銃を持っていた手が小刻みに震え、銃の反動に耐えてきたことが伺える。皐月の武装は尽きた



「……ふぅ……ふぅ……」



 如月も太刀を持つ手が最初より下がってきている。表情には出さないものの、息遣いがさっきより荒い。だがその間にも蛇龍はめりめりと再生しようと蠢き続けている




「増援呼んどいたほうがよかったかしら…」


「正直、オーバーキルくらいに弾薬持ってきてたんだけど……」




めりめりと蛇龍の傷口が動く。と、その時




焦雷永ショウライハルカ!」




上空から太い雷の柱が降り注いだ



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