心通わせて
気がついたら結構長めに書き溜めてたので一気にドヴァーっと。どうぞ
「災難だったね~。大丈夫?」
「ええ。ありがとう大家さん」
「それよりさ、龍斗サン……その女の子誰?」
どうもこんにちは、赤羽 龍斗です。現在修羅場です
回想
『……そうか。任務ご苦労。その花龍はどうした』
「とりあえず気絶させて江瑠弩荘に運んどいた。戦闘のとき恐怖を与えるように戦ったから、ヘタに暴れて荘全壊ってことにはならないと思う。もし壊れたら経費で落とすけど」
『おい青年、そんな無茶を…』
何か言う前に電話をぶち切る。時間外労働したんだしこれくらいいいだろ。この少女もまた被害者なのだ。
甘ったるいとか言われそうだが、事情聴取くらいはしなければならない。最悪締め上げてでも。
「とりあえずヒイロの友達も龍殺しに任せたし、あとはコイツ次第だな」
「うぅ~ん…」
花龍とヒイロは現在僕の膝枕ですやすやと寝息を立てている。寝顔は正直だ。起きていたときは衝撃的だったが。ヒイロは今目を覚ました。
あれからおよそ数時間。
龍殺しの救護班の処置でのヒイロには簡易的な傷の処置をしてもらった。さすが龍、丈夫だ。花龍はいまだ意識が戻らないが、おとなしく寝かせておけば大丈夫だと救護班の人が言っていた。
ってか膝枕て。現在僕は右太ももにヒイロ、左太ももに花龍を寝かせてベンチに座っている
寝かせるところが近くの公園のベンチしかなかったとはいえ、何この状況。救護班の人がニヤニヤしながら帰っていった。次会ったらブン殴る
「うぅん…りゅーとサン?」
「おう、起きたな。おはようってかこんにちはってか…夕方ってどんな挨拶すりゃいいんだっけ…」
「……こんにちはじゃないんですか……ってこれまさか膝枕?!」
ガバッっとヒイロがいきなり起き上がったので、直線状にあった僕の額とヒイロの額がガッツンコ。二人とも身悶え。しかも僕は花龍を膝枕してるので動くに動けない。二人とも石頭だ。寝ている花龍を起こすわけにもいかず、二人して無言で激痛と戦う
「「~~~~~~~~ッ!!」」
夕暮れ時、僕は花龍を背負って、ヒイロを従えて帰路に着いていた。燃えるような赤い夕日が眩しい。あまり足は傷ついていなかったようで、ヒイロは自分の荷物を持って歩いている。カバンの肩紐が切断されているので少々持ち辛そうだ
「大家さんにどう説明しよう……またりゅーとサンが女の子連れ込んだでいいわね」
「オイ待てなんで僕が毎回女の子連れ込んでるタラシみたいな言い方するんだ。それを言うならお前は勝手につけてきたクチだろうが
………そうだな、コイツが俯いて歩いてて壁にぶつかって、運悪く積んでた荷物が崩れてきて怪我ってコトでいいんじゃないか。この娘は気絶、ヒイロはこの娘を助けようとしてってことで」
「無理があるようなないような……というか、龍殺しって何ですか?」
「あぁ…ヒイロにはまだ言ってなかったな。その話はチャクラがバイトから帰ってきたら……てか、知り合い集めて話したほうがいいか。また今度、だな。それよりケガ大丈夫か?」
ヒイロを横目に見やる。頬にガーゼを貼り付け、膝にも大き目のガーゼが張られている。痛々しいが、怪我自体は軽いものらしい。意外と強いのか。
「大丈夫、植物のタフさナメないでください」
「ヒイロは踏まれても蹴られても枯れないっていうよりは踏んだり蹴ったり毒素ばら撒いたりして周りの植物を枯らせる方…って痛ぇ!」
「ほらほらその娘起きちゃいますよ? 頑張って耐えないと」
「(ちくせう)」
教訓。物を持ってたり人を背負ってたりする人をいぢめてはいけません、いろいろとエラい目にあいます。僕、赤羽龍斗との約束な。
そして冒頭に戻る。案の定勘違いされましたよ。大家さん、とりあえずそのトゲ付メリケンサックは仕舞って下さいお願いします。あと後ろで待機してるアブないもの全ても一緒にです
大家さんの予想以上のはっちゃけっぷりにヒイロも支援に入る
「実は大家さん、かくかくしかじかというわけで」
「なるほど、まるまるうまうまということだったのね。早く言ってくれればいいのに」
便利な状況説明の言葉で矛を収めた大家さん。文字通りだから困る。弁解の余地なくアブないもの取り出そうとした人が言いますか。隠れバイオレンスな大家さんだ
「聞こえてるよ、りゅーとサン。今月の家賃どうしよっかな~…最近荘の痛みひどいからリフォームとしようと思うんだけど」
マジ勘弁してください。てか、今のモノローグは心の声なのだけれど…
「うぅ…ん」
どうやら花龍が意識を取り戻したらしい。さて、楽しい楽しい事情聴取の時間だ
「大家さん今日晩御飯当番だったよな。この娘は僕たちが見てるんで、料理してきていいぞ?」
「そう? んじゃお言葉に甘えて」
「ちゃんと野菜使ってくださいよ?」
「ふえぇ…」
ドスの聞いた声で優しく言う。苦笑いしながら大家さんはスゴスゴトテトテと台所のほうへ向かう。さて、鬼の居ぬ間になんとやら
「さってと。起きたか、花女」
「うぅん……んうぅ?!」
もぞもぞと寝返りを打ち、顔が僕のほうへ向く。薄目を開けたその先に移るのはもちろん、自分をボコボコのケチョンケチョンにした地獄の悪夢
「ッ…!!」
ほぼ無言で、それにすごいスピードで後ずさりする花龍。縁側への廊下の柱に頭をぶっつけて悶える
「~~~~~~ッ!!」
「落ち着け、まぁ無理だろうが。ともかく僕たちからは何もしない。これだけ言っとくが、下手に暴れようとしたら即刻消し炭にするからな」
指パッチンで指先に炎を灯す。それを凝視しながら無言で激しく頷く花龍。では、事情聴取開始
「名は?」
「朱色 華花ですの」
「身分証明できるものは」
「高天原高校生徒証、2年、これが生徒証ですの」
「…うむ。僕たちに戦いを挑んだ理由は?」
「………………あれ? なぜでしたっけ…」
自分のやったことが信じられないといった風な表情をする朱色。やはり彼女もそうなのだ。なぞの衝動に突き動かされ、自分の意思とは別に体が動く。かつての僕のように
「…やはりあんまり覚えてないか」
「えぇ……なぜか、戦いたいという衝動が暴走して……というか龍皇ってなんですの……私としたことが、子どものようなことを口走って……これでは朱色家の恥さらしですわ…」
手で顔を覆い、恥ずかしがっている華花。耳まで真っ赤になっている。よほど恥ずかしかったのだろうか。恥ずかしい以前にこっちは殺されそうになったのだが。
彼女の中の龍の本能が暴走したのだろうか。無自覚の間にあんなことを口走るのだからそりゃ恥ずかしいだろう。僕もそうだったし、てか現在進行形で恥ずかしいけど。もし死因に「羞恥死」という種類があれば、マトモな精神持った龍化者は死にまくってるだろうな。そういえば
「朱色……ってことはもしかして朱色家のご令嬢か? 聞いたことあると思ったけど」
朱色……朱色製薬。日本を代表する製薬会社のひとつ。20年ほど前までは栄華を極めていたが、その後衰退。倒産寸前とまでいわれていたが、ここ数年で勢いを盛り返し、またしてもトップに上りつめた、と新聞で呼んだ記憶がある
その不自然な急成長振りになにか怪しいことに手を出しているとか囁かれていたときもある。だが時が流れるにつれその噂は都市伝説となった
「えぇそうですの。小さいころから朱色家の手を尽くした英才教育を受けて育ってきましたの。優雅に、気品ある振る舞いをするよう体に教え込まれましたわ」
なんかドヤ顔する華花。知らんがな。今のバック這いずりは優雅とも気品ある振る舞いともいえないような気がしたが、話が進まないのでツッコまないことにする
「無い胸はるんじゃないわよww」
「んなっ?! あ、貴女だってあまり大きいほうだとはいえないんじゃありませんの?!」
「お前ら黙れ、はしたねぇ」
「「」」/////
え? 興奮しないのか、だって? そんなもの、遠い過去においてきたよ。僕にとって彼女たちは妹みたいなものだからな。家族愛のほうが勝っちゃうようになったんだ。父性愛ってこういうのをいうんだろうな
後言っておくがそっちの趣味はない。僕だってちゃんと女性に興味は抱いてるぞ?
「ともかく、お前も暴走してたってことでいいか。して朱色」
真剣な眼差しで見つめる。さっきからの会話に流されて少し警戒心が薄れてきたところに、少しシリアスな空気を漂わせる。急に真面目な顔で見られたのでテンパっている華花
「な、なんですの…?」
「お前はどうしたい?」
「……は?」
「お前の中の龍ではなく、朱色華花はどうしたい? 戦いたいのか? 戦いたくないのか?」
俯き、苦しそうな表情で自分の手を見つめる華花。彼女もまた苦しみ、もがいてここに行き着いたのだろう
「私は……戦いたくはないですの…できればこんな能力、手に入れたくはなかったですの……」
「…そうか。では、今後一切争う気は無いと」
「えぇ…」
「……よし、ならいいんだ。これからお前は僕たちの龍化者同盟の一員だ」
「……へ? ど、どういうことですの?」
「要はだな、困ったときは助け合いましょうってことだ。僕の知り合いに3人くらい同じやつがいるんだよ」
理解できないでいるようだ。ヒイロが助け舟(?)をだす
「あなたが戦わないのなら私たちも戦わない、もしあなたが他の龍化者に襲われるようなら助けてあげるってこと」
「……なぜ他人のためにそこまでできるんですの? 貴方に利益は出ないのに」
「利益なら出るさ。さっきだって朱色から龍皇というキーワードを貰った。それが何なのかはわからんが、とりあえず僕たち龍化者同士を戦わせたいという意図は見えてきた。
戦いを渋ってるやつを暴走させて無理やり戦わせる、そして何を事を進めていこうとしてるんだろう」
「こんなことをできるなんて……何者なんだろ?」
唇に手を当て、考え込むヒイロ。龍化者を戦わせたいという意図は見えてきたが、それ以外のことがまったくわからないに等しい。もし龍化者全てが戦って、勝ち残ったものが龍皇になるのなら、勝ち残ったところで何が起こるのだろうか
「少なくとも黒幕は人間ではないだろうな。だが人間が加担してることもありえる。力に魅入られたやつとか、もしくはマッドサイエンティストとか」
「ち、ちょっと待っていただけますの? 彼方方はいったい何をしようと…」
「……わからん。正直自分が何しようとしてるのか、何をしたいのかが。でも、こうやって龍化病が縁になってお前らに出会った、それ自体は悪くないと思ってる」
「そういわれてみれば不思議な縁ね……始めて会った時私も全力で龍斗さん殺そうとしてたけど、一回負けてからもうどうでもよくなっちゃった」
遠い目をして脳内で回想をしているヒイロ。彼女の言うとおり、不思議な縁だ。
「かかってくるなら全力で潰すがな。……まだ見ぬ誰かを救うなんて大層なマネはできはしないが、せめてお前らだけでも……僕の目の届く範囲内であれば、助けてやりたいと思ってる。知り合いが苦しむのは見たくないからな」
「……………(不思議な方ですの)」
「ツンデレなんだからwwそんなだからタラシ扱いされるのよ」
「じゃかあしい、ツンデレからどうやってタラシにスライドエヴォリューションするんだ。そして僕はツンデレでもタラシでもない。さて、もうそろそろ晩飯もできるころだ。そうだ、せっかくだし今日はここで食っていけ、朱色」
「…あの」
それまで黙っていた朱色が遠慮がちに口を開く。ちょっと頬に朱がさしている。ギャグじゃないぞ?
「ん? 都合が悪かったか?」
「い、いえ……できればその…私のことは、華花と呼んでほしいですの。あと…その、お名前は…」
「ん? んあぁ、まだだったか。僕の名前は赤羽 龍斗だ。それはそうと、どうする華花?食って帰るなら帰りは送ってやるが」
「お言葉に甘えて…ありがとうございますの!」
凄い嬉しそうだが……まぁいい、本人が喜んでいるんだったら。ヒイロがニヤニヨしながらこっちを見ている、華麗にスルーする
「ついでだけど、私は緋色 百合よ」
「聞いてませんの」
「表でなさい」
「いいでしょう」
「てめえら落ち着け!!」
騒がしいが、悪くない。甘い考えかもしれないが、出会う龍化者がみんなこうならいいのに。別の日に同じことを考えた龍化者が居た。
黒冥龍の物語が動き出す
ハイここまで。ちょっと長めになったかな。いや、改行で稼いでるだけかwww