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絶対相性

「…ッ! 貴様ぁぁあ!!」



「ウフフ、美しい花はか弱いの、美しき花の女王である私にはどうしても彼らが必要なのよ」




 二人だけだった空き地、だが今は違う。数人の影がヒイロを取り囲むように集まっていた。全員が生気のない虚ろな目、立っているのが不思議なほど脱力した佇まい。


花龍の魅了花粉である




「貴方達、やることはわかっているわね?」



「「「イエス」」」




 意思のない操られた人間が一斉にヒイロに飛び掛る。



ガッ!! ゴスッ!



「ぅあっ?! ぁう…」



 スーツ姿のサラリーマンらしき男が放ったパンチがヒイロの頬を捉える。歯を食いしばって耐えたものの、成人男性の放った一撃だ。龍化者とはいえ女子高生が受けるには少々ハードすぎる一撃だ


 殴った男の手が潰れている。拳の頭から血が流れ、赤い血が滲むほどに。だが男はさして気にしてはいないようだった。まるで自分が傷ついていることを知らないように




「どう? 痛いでしょう? 魅了花粉には身体能力増強効果もありますの。肉体の限界を超えて力を使うことができるけど、その分負担はすごいでしょうね。一撃ごとに骨は折れるし肉は弾け飛ぶ


でもその男の人、ケロッっとしてるでしょう? 痛みも感じなくなってるんだから当然よね。ホラ、早く死なないとその男だけじゃなくてこの場の全員が死んでしまいますわよ?」




 すぅ、と花龍は指をヒイロにむける。それを皮切りに周りにいた人間全員が凄まじい速度でヒイロに迫る



縛蔓しばりかずら…!」



 ヒイロが地面に手を置くと、地面下から蔓植物が現れ、操られた人を拘束する。一本一本が強靭な繊維の束でできているので、さすがに強化されたとはいえ人間の力では太刀打ちできない。



「(これでしばらくは…)」



「無駄よ。今私の花粉は風に乗って町中まで拡散していますわ。アナタ、町中の人をこうやって縛るの? それにね…もうアナタは、私に攻撃できない」



 気品あふれる美しい微笑の面影はもうすでになく、美少女にあるまじきエゲつない笑い方でヒイロを見やる



「そうそう、さっき新しく私の下僕になった人間がいますの。せっかくなので紹介してあげますわ」



「ッ! ……貴様ぁぁぁぁぁ!!」






そこにはつい先ほど一緒に下校していたヒイロの友達が、虚ろな目をして佇んでいた








「ひ…イロ……にげ………て……」



「っ!」



「へぇ、まさか私の力にまだ抗おうとできる人間がいるなんて、予想外ですの。おっと、それ以上その蔓を出すならこの子達にさっきの腐食花粉を飛ばしますわよ?」



「あなたってやつは……どこまで外道なの?!」



「言ったでしょう? か弱い女王には従僕が必要なんですの。お行きなさい」



「逃げて…ヒイロッ!!」



 常人離れした動きでヒイロに接近、ストレートパンチがヒイロに向かって放たれる。ヒイロは上体を横に逸れさせて回避する。


 だが操られたヒイロの友人は、情け容赦のない連撃をヒイロの体に食い込ませんと攻撃の手を緩めない。



 3人いた友人すべてが攻撃に加わる。拳の痛みと、友だちを傷つけているという罪悪感からか、苦痛に満ちた表情を浮かべているが、ヒイロの友人はそれでも攻撃はをやめられない。龍の力は人間ごときに抗えるようなものではないのだ



「ぁぐ…!」



「ウフフ、もうボロボロね。誰にやられたのかしら?」



「………」



操られた友人の一人が泣いている。かすかに、「ごめん…ごめんねヒイロ…」と言っている。その言葉を聴いたとき、ヒイロは決断をした




「…取引しましょう。あなたに殺されてあげるわ。だからその人たちを解放しなさい」






「アハッ♪ 面白いことを言いますのね。美しくも気高い自己犠牲というやつですの?」



「…………」



「いいでしょう、開放して差し上げますの。私が龍皇になった暁にね!!」





図られた、ヒイロがそう思う前に直径一メートルはあろうかという巨大な花手裏剣がヒイロの胴体を両断しようと迫る





「……ごめん、みんな…ごめん、江瑠弩荘のみんな…ごめん、龍斗さん…」











ザンッ!!! ボゥン!!




「龍棘炎剣・業炎龍皇。なんか気になるワードが出てきたな、後でテメェから詳しく問い詰めるとするか」




両断されたのは花の手裏剣のほうだった。上空に軌道を逸らされ、空中で灰も残さず焼き尽くされる




「業火龍、赤羽 龍斗推参。独断と偏見と個人的感情で貴様を焼き尽くしに来た。くぞ」



希望の炎がヒイロの眼前で燃え盛る









「あら、嬉しいですわ。龍化者をわざわざ探す手間が省けましたの。では、お逝きなさい!」



 ふわりと何度も見てきたように腕を振る花龍。今度は肉眼ではっきり見えるほど濃い色の猛毒の花粉と、先ほどの巨大花手裏剣が大量に龍斗に向かって放たれた






「………なぁ、知っているか?  粉 塵 爆 発  ってやつをさ」







龍斗が指を鳴らす。巨大な蛇のようにうねりながら固まって飛んできた花粉が引火、今度は巨大な炎の塊となって花龍に逆戻りする。花龍の直前でそれは爆発を起こし、花龍を壁に叩きつけた




「小賢しいんだよザコが!! 龍焔舞・大紅蓮!」




ヒュバッ   ザン!! ズバァッ!  ボォッ…




手裏剣は龍棘剣の乱舞で舞い踊るように焼き切り落とす。鋭利な花の手裏剣は黒い灰になって地面に落ちた



「きゃっ?!」



「う~ん…爆風まではあんまり制御できんな。危うく隣の家の壁焦がすとこだったし」




龍棘剣が燃え尽きた鱗となって地面に落ち、朽ちた。龍棘剣は使いきりの武器なのだ。その都度新しいものが生えてくる。




「ぅぁ…あ……あぁ!」



足を縺れさせながら無様に逃げようとする花龍


「ん? どこへ行くつもりだ。焔陣フレア・サークル



龍斗が剣を地面に引っかくように振る。すると炎が地面を這い、龍斗と花龍を取り囲むように燃え上がった。炎の円陣で相手を閉じ込める逃走を防ぐ技だ



ザッ




「どうした。さっきまでの威勢のいいお前はどこへ消えた? まぁどうでもいいが。まぁ火と植物じゃ流石に相性が悪すぎるよな。そしてこの高熱。さすがに猛毒の花粉云々言ってる場合じゃねぇよな。出した瞬間燃えだしてさっきみたいに粉塵爆発するだろうし」




ザッ




「よくもまぁ僕の友人をひっどい目に遭わせてくれたよなぁ。魂まで焼き尽くしてもまだ足りねぇよなぁ。どうしてくれる? 跪くか? 泣き叫ぶか? 許しを請うか? それとも…何をしてくれるんだ?」




ザッ。一歩ずつ、噛み締めるように歩み寄る龍斗。踏みしめた大地が足跡の形に焦げている。



「ゆ…許して…あ、謝るから…ゆるし…」



「終わりだ高飛車」



一撃。花龍は意識を失い倒れ伏した





 龍斗はどちらかといえば近接格闘を得意としている。それとも龍斗の気質なのか、身体能力はヒイロや茶倉に比べて格段に高い。ソロモンたちとの戦闘訓練もきいているのだろう


 逆にヒイロや茶倉はあまり身体能力は高くないが(あくまで龍化者としてではあるが)、強力な遠距離攻撃を得意としている。



 花龍が倒れると同時に、龍斗は炎陣を解除する。操られていた人たちも次々に倒れた。それを見て龍斗はポケットからスマートフォンを取り出し、電話をかける




「おう、僕だ。龍野たつの町で龍化者と対峙、敵方は沈黙。被害は一般人、おそらく気を失っているだけだろうから辻褄合わせ頼む」



「龍斗…さん?」



「…ゴメン、巻き込んじまったな。ヒイロにはそれこそ植物のように慎ましく生きてほしかったけど」



「こんなときになにを……」



「とりあえず、救護班よこしたから来るまで待ってくれ」



「ありが…」



 ふらりと意識を失い倒れるヒイロ。正面に居た龍斗が抱きとめる形で支える。安堵と慣れない力の使いすぎで眠っているだけのようだ



「ヒイロッ?! ……寝てるだけか。良かった…」







『龍皇、ね。キナ臭くなってきたな、相棒?』



「(久しぶりだな貴様。貴様がいる時点で十分にキナ臭いが、貴様が知らないのもまたキナ臭いな。それに最近龍化者が多すぎる。龍殺しのデータを盗み見たが、ここ最近は異常だ)」



『まぁ俺様はそんなもん興味ないがな。さてさて、これからどうなることかねぇ……』

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