ここが僕の帰る場所
「こいつは…」
赤羽の目が大きく見開かれ、驚愕一色に染まる。それもそうだろう、極限龍化からまた人型に戻るなど前代未聞だ。いや、龍化者自体が前代未聞な存在ではあるのだが
「………ふふ…」
「「「?」」」
「あはははっぁhぁlhぁああははあああはぁぁぁぁっはははははあ!!!!」
弾ける様に笑い出した暴食龍。なぜか声にノイズが混じっている、もはや正気と思えない、狂喜の笑い方だった
「やった…ついに……俺は俺様のものだ! もはや俺様たちだけのもの! ぎゃぁああぁははははははは!!」
「何を言っている?」
「デュフフ、貴様らなんぞに教えてやるほど俺様は懇切丁寧御親切ではないんでね。知りたきゃ自分で調べろよ、そこに丁度いい実験材料があるんだから…」
「…ッ!」
ガァァァン!!
暴食龍が胸糞の悪いことを言い終える前にソロモンが愛用のマグナムを、暴食龍に向けて発射していた。弾丸は足元に小さな穴ぼこを作った。
「それは警告だ。これ以上研修生をいじめないでやってくれるか」
「おぉ~おぉお怖い怖い。んじゃ、警告に従ってここはいったん帰るとしますか」
「ふざけるn…」
罵詈雑言を言い終わる前に、暴食龍は深く息を吸い込み、地面に向かって吹き付ける。台風レベルの風が当たりに吹き荒れ、砂を巻き上げ、視界を覆う
「ぐひゃははははあ!! まったな~♪」
やがて砂嵐は収まるが、そこに暴食龍の姿はなかった。
「…………」
「青年…」
そこにあるのは静寂と、戸惑い。太陽は沈み、薄暗闇が地平線から広がっていった
~~~~~
「ただいま~」
「「「「おかえりー」」」」
午後19時半過ぎ。やっと愛しの寝床に帰ってきた。慣れない学校生活、そして先ほどの暴食龍との戦闘。心身ともに疲れきっていた。顔は斜め45下方向に向いて、猫背。龍だけど。
学習道具がたくさん入ったカバンはかろうじて指の先に引っかかっている。手は力なくだらんと前にたらしている
たった一日でこれほどの心労が襲ってくるのは初めてだ。頭も回らない、食欲もない。今はただただ、何も考えず柔らかい布団に包まれて眠りたかった。
「ご飯出来てるよ~、手洗いうがいのあと自分の分のご飯入れてきてね~」
「………スマン、ちょっと疲れたから先に寝る。仮眠とったら食べるから、僕の分は適当に冷蔵庫の中にでも入れといてくれ」
「どうしたの? なんだかものすごく疲れてるみたいだけど」
「いろいろあったのよ。今は休ませてあげましょ」
やさしい大家さんの声。舞奈さんの心遣いに目が潤む。だがその声さえ酷く煩わしく感じてしまう。
せめて、心も龍のごとく強靭であってくれたなら。彼女たちの心遣いを受け止めることが出来るのに
「……うん、ありがと大家さん、舞奈さん」
力なく微笑んでから (自分が笑えているのかはわからなかったが) 自室への階段を上る
ゴッ!!
「~~~~~~~~!!!!」
階段のふちにしこたま足の指をぶつける。……もうヤダ
~~~~~~
「ん…」
ふと目を覚ます。今何時だ? 枕元に置いてあった携帯を開いて時間を確認する。携帯画面の眩しさに目を細めながら時間を見ると、午前1時半ちょっと回ったところ
少し頭も冷え、空腹を覚えた。冷蔵庫に入れておいてと頼んでおいた自分のご飯を食べに階段を降りる
「ん、確か今日は大家さんと春沙さんがご飯当番だったな……野菜、ちゃんと採ってくれてりゃいいが」
冷蔵庫を開けるとラップに包まれた鶏団子のトマト煮込みが入っていた。うん? 心なしかピーマンなどの野菜成分多めなような気がするが、まぁいい、野菜は好きだし。後日詳しく問い詰めよう
冷凍庫に入っていた冷ご飯を自然解凍している間に一人分の配膳をする。トマト煮込みをレンジに入れ、箸とコップその他もろもろを食卓に出す。少し寂しい。
と、ギシ、ギシ、という廊下を誰かが歩いてくる音。それなりに年代ものの建物なのでそれなりに音が響くのだ
「あ、龍斗さん、今からゴハン?」
障子を開けて入ってきたのは春沙さんだった。薄緑の、白いチェックの入った可愛いパジャマを着ている。眠そうに目を擦っている姿に保護欲をかきたてられる
「春沙さんか。そ、今から」
「私と大家さんが腕によりをかけて作った料理だよ、味わって食べてね」
「ところで春沙さん? 僕のトマト煮込み、野菜マシマシなのは気のせいなのか?」
「…………ふぁ~あ…」
そっぽを向いて大欠伸。クロだ
「てかなんでこんな時間まで起きてんだ?」
「あふ? んん、勉強頑張ってたんだ~。ちょっと小腹が空いたから、なんかあるかな~って」
欠伸の途中で無理に返事しようとしたので言葉の最初が少しつたない。うん、可愛い。なんて言うのか、手のかかる妹ができたようだ。
「知ってる? 春沙さん。午後1時以降だったか……ともかく、夜半遅くに摂取した食べ物はとても、とても脂肪に変わりやすいってな」
「……………」ぐぅ~
深夜、鳴り響く腹の虫の音。
「………プックククク…………まぁ、ヨーグルト位ならいいんじゃないか? 僕の買い置きのアロエヨーグルト食うか?」
「龍斗さんって意外と健康志向だよね」
「今日学校行ってたんでしょ?」
「むぐ? んん」
トマトの程よい酸味と鶏肉のジューシーな甘味に舌鼓を打っていると、唐突に春沙さんが切り出した。まだ口の中に鶏肉が残っていたので、頷くだけの返事
「どうだった? 学校生活」
口の中の物を片付け、返事をする。しっかし料理上手くなったな、大家さんに春沙さん
「なんつーか……学校なんて中学以来だから、懐かしく感じたな。勉強、ついていけるかどうか心配だ」
「大丈夫、いざとなったら私が手取り足取りフレンドリーに教えてあげるよ!」
「春沙さんって中学生だったよな? 僕高校生だぞ」
「………ほら、復習は大事だよ?」
「ハハ…そうだな。春沙さんもあんまり根詰めすぎないようにしろよ、休憩や息抜きも大事だぞ?」
「ありがと、お礼のチューしていい?」
「だが断るぜ」
「「アハハ!」」
春沙さんは僕のあげたアロエヨーグルトとスプーンをもって自分の部屋へ戻っていった。
食事を終え、洗物を水に付けて風呂に入る。暑くなってきたので設定温度を少し低めに、というか僕が入ると温度が1~2度くらい上がるんだよなぁ……
水風呂にしといて僕が入って温度を上げる……か。なんてバカなことを考えながら湯船に身を沈める
顔を湿らせ、今日あったことを思い返す。いろいろあった。本当に。初めての高校生活、皐月姉妹との対話、そして暴食龍。
流れ流されながらここにきて、ほぼ始めて自分で物事を決めて、戦って。みんなにも出会えた。寂しくなくて暖かい、こんな生活できればもっと平々凡々に生きたかったけど。
これからどうする? もう僕には壊されたくない日常と、守りたい人たちができた。また暴食龍のようなものが現れるのなら、僕はそいつらから皆を守る義務がある。……いや、義務ではない。僕がやりたいのだ。
ひとつ、また決意して僕は湯船から上がった。脱衣所への扉を開いたその瞬間だった。
「こんな時間に誰が入ってるの~?」
「…………大家…さん?」
絶妙なタイミングで大家さんが入ってきました。今の僕の装備はなし、つまりは……湯煙補正バンザイ。
その日の深夜、大家さんの悲鳴が江瑠弩荘に響き渡った。その悲鳴を聞きつけてまたほかの住民が目を覚まして云々。翌日住民たちの間で気まずい空気が流れたのはいうまでもない
あとがきなんて書くの久しぶりだな…黒月です。
徐々に定期購読者も増え、感想も書かれるようになりました。うれピーです。
そんな感想の中でこんなものがありました
あまりキレないと自負した主人公が後半キレまくるとはww
まぁ、キレやすくなってるのはアレですよ、業火龍だからですよwww
まじめに言うと炎の本質である激しさが感情にまで影響を与えてる感じですよ。だんだん龍に感化されて性格が変わってきてる、みたいな
だから暴食龍も貪欲そのものといった感じでエゲつないコトになってます
ちなみにこの物語のキーワードは「理性と本能」。今更だし、今考えたんだけどwww
もう一つは「男女間の友情・家族愛」
ではここまで、次回をお楽しみに