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充たされぬ飢え

俺は強い。強くなった。もうあいつらに媚びる必要もない。今までの恨み、たっぷり後悔させて…



少年は太っていた。そして身長も大して高いわけではない。いわゆるコンプレックスがたくさんあったのだ。そのせいでよくいじめられた。


彼は優しかった。人に暴力を振るうのはいけないことだと知っていた。だから今まで我慢していたのだ。それが正しいと信じて。





だが、正しさが人をいつも救ってくれるとは限らない。





彼は救われなかったのだ。


力が欲しかった。自分を認めて欲しかった。せめて、みんなと一緒に笑ったりしたかった。でも、もう情事酌量の余地はない。自分の正しさを、他人に押し付けるときが来たのだ







「おいドンブリ、何やってんだ? いくぞ」



「…………もう終わりだ」



「……はぁ?」



「もう坪坂さん…いや、貴様らに付いていったりはしない」



「何言って…」



「今までの恨みここで晴らす」



「ぎゃはははは!! なぁ~に言っちゃってんだろうなぁこのおデブちゃんは? いいからとっととジュース買って来いって」



背中をバシバシと結構な力を込めて叩くガラの悪い男。だがそれは愚かな行為だと彼はまだ知る由もなかった







「グルルルルルル……」




体の筋肉が盛り上がり、体中に鱗が浮き出てくる。口が裂け、人間の平たい歯が太く短い龍の歯に生え変わる。髪の毛の間から短く太い角が2本、生えてくる。


ボキボキと骨が急速に成長する、軋むような音が響く。髪の毛も抜け落ち、程なくして男はずんぐりとした巨大な龍に姿を変えた



『GOAAAAAAAAA!!!』



「お…おまえ……」



「うわぁぁぁぁーーー!! 化け物だぁぁぁ!!」



『オレガバケモノナラ……キサマラハナンダ?! コタエロ!!』




土色をした巨大な拳が数人の男に向かって振り下ろされようとした。




ガゴン!




「っ痛~~~…」



『?!』




拳は赤い影によって止められていた。赤い影の足元の地面にはひびが入っている。相当な衝撃だ




「貴様ら、早く逃げろ。そして今日のことは忘れるんだ。でないと私は貴様らの息の根を止めなければならない」



突如現れた3人の人。そのうちのコートを着込んだ男、ソロモンが愛用の銃のスライドを引き、安全装置セーフティを解除する。




「は、はいっ!!」




無様に足を縺れさせながら三下臭のする学生たちは逃げていった。




「行ったわね。さて、どうしましょう? もう既に極限龍化しちゃってるけど」



「やむをえまい、沈めるぞ!」



「くそっ…倒すしかないのか?!」



『GAAAAAAAAAAAAA!』



理性ももはやない。飽くなき破壊衝動だけがこの龍の中で渦巻いている


丸太よりも太い、それこそ世界樹の幹のように太い腕が龍斗のいるところに次々と振り下ろされる。軽い身のこなしで次々回避する龍斗。



だが龍斗やソロモンには引っかかることがあった。龍化者にはそれぞれ特有の特殊能力が必ず備わっている。龍斗なら火、ヒイロなら植物、黄泉川なら闇、といった具合だ。


この龍はそれをまた使っていない。それが少し気がかりだった。そしてこの龍からあふれ出す憎悪の念。空気が淀んでいると勘違いするほどに重く、そして悲痛な叫びのようにも感じられる。龍斗はそう思った。



ある程度体力が減れば理知を取り戻すかもしれない。かつての水龍戦のように、気絶させれば収まるかもしれない。今はこれだけが希望だ




「ソロモン! 蘭! 援護してくれ!」



「「心得た!」」



太く短い尻尾でのテイルバンパーを瞬間移動で回避するソロモン。次に姿を現したのは龍の背後


ソロモン72柱能力だ



「喰らえ!」



いつの間にやら持ち替えた、両腕に持った2丁のショットガンからすさまじい威力の散弾が計4発吐き出される。龍の鱗を穿つまではいかないものの、衝撃はちゃんとダメージとして通ったようだ



『GOAAAA?!』



振り向きざまの裏拳でソロモンを狙う龍。だがその裏拳はソロモンに当たることはなく、攻撃の外れた手の甲に高熱のレーザーが照射された



「敵は一人じゃないのよ? デカブツ」



いいように振り回される龍。イライラが頂点に達したのか、巨大な二つの拳を地面に同時に叩きつける。地面が隆起し、辺りに凄まじい振動を起こす





「きゃぁ?!」



「蘭!」



隆起した地面にシーソーの要領で空中高く放り上げられた蘭を龍斗がキャッチする。



「そのままヤツの頭上へ!」



「わかった!」



飛び回るハエを打ち落とそうと龍は砕けた地面を手に持って投げつけてくる。



「しっかり捕まってろよ! 爆裂龍鱗!」



拳の頭から生えた鋭い鱗を投げつける。本体から離れると少しの衝撃で爆発する危険な武器だ。飛んでくる岩にそれは当たり、大爆発を起こす。爆風が龍の視界を奪う



「喰らえ!」



龍斗の背中から蘭は貫通性能の高い銃弾を龍に浴びせかける。ついでといわんばかりに龍斗も龍鱗を投げつける。無数の鉛弾と龍の鱗が、龍の身体に食い込んでいく



『……』



龍はついに膝をついた。




「終わった…のか?」



「………いや!」



『オォォオオォオオォォオオオ!!!』




龍の鱗が突き刺さった箇所から炎が噴出する。吹き上がった炎は吸い込まれるようにして龍の口の中へと引き込まれた



「炎を…」



「喰った?!」



『Grrrrr…』



次の瞬間だった。龍の体表が真っ赤に染まり、口から火花が散りだし、無骨な肩から炎が噴出し始めた



「まさか……能力のコピー?!」







(気にいらねぇな)



ふと、僕の中の龍が呟く



(気に入らねぇ。俺様の力を何だと思ってやがんだ。見ろよ、あんな濁りきった炎、炎ですらねぇ。これだから暴食龍は嫌いなんだよ。龍としての理知もへったくれもねぇ)




ぶっちゃけあんまり違いがわからないのだが。そして気になるワードがちらほら出てき始めている。とにかく、戦いが終わったら尋問する必要がありそうだ



(お前も覚悟しろ。殺す覚悟と殺される覚悟を、だ)








暴食龍の周りの空気の温度がどんどん上昇していく。体から蒸気を発し、周りの景色が蜃気楼でゆがむ



『オォォォァァァァァァァ!!!』



咆哮とともにすさまじい温度の空気が辺りに放出される。ただの空気だったものが急激に危険なものへと変貌している



「ちぃ…このままではこの辺りの気候に異常が出てしまう……」



「私たちの耐火霊装はあくまで火に強いだけであって、熱気対策はできてなかったわね……このままじゃ私と隊長が煮物になっちゃうわよ……」



額から滝のような汗を流しながら蘭は呟く。龍化者である龍斗とは違い、二人は人間だ。ソロモンは人間離れしているとはいっても、本質は人間と変わらない。


龍とは違い、脆く、脆弱なのだ





「……二人とも、下がってて」



「青年…」



前へゆっくり歩み出る龍斗。その瞳に決意の炎を燃え盛らせて



「いくぞ、暴食龍」



己の中の龍の意思に従い、龍斗は覚悟をした。殺す覚悟と、殺される覚悟を





「おぉぉぉぉらぁぁぁぁっぁああああ!!!!」



『ゴァァァァァァァァァ!!』



暴食龍が口から灼熱の炎を吹きかけ大地を焦がす。だが付け焼刃の炎で対抗できるほど業火龍は甘くはない。吹きかけられた炎を片手で掴み、逆に自らの炎として拳に纏わせる



「てめぇとは格が違うんだよぉ!! 他人の能力喰って戦ってるようなやつにィ! この業火龍様が負ける訳ねぇだろうがぁ!!」



自らの力の権現である炎を無碍に扱っていることに業火龍は怒っていた。宿主の意思の邪魔にならない程度に、自らの意思を暴言として吐き出す



大振りな攻撃を軽くいなし、顎下に接近。天を貫かんとする炎の拳が暴食龍の顎下を綺麗に捕らえた。



あまりの衝撃に暴食龍が一瞬体ごと宙を舞う



『ッ?!』



「もう一丁ォ!!」



間髪入れず暴食龍の頭上に跳躍、そのまま横方向に体を捻り、足を暴食龍の脳天へ振り下ろす。上下から一気に凄まじい衝撃を与えられ、昏倒寸前の暴食龍。頭が地面に衝突した瞬間、目の前に新たな攻撃が迫っていた



至近距離、零距離に業火龍の掌があった。そこから放たれたのは太陽のごとき炎



「太陽の吐息 (コロナ・バーン)!!」




上空へと炎の柱が上っていった








『イタイ……』



言葉を発した。理知などもう無いと思うほど凶暴化したあの龍の口から、苦痛を訴える言葉が飛び出す



「「「?!」」」



『イタイ……イタイ……イタイイタイイタイイタイイタイ!!!!』



暴食龍の体が縮む。丁度極限龍化の逆回しのような状態だ。一部を除いて鱗が落ち、角はそのままに顔が、体が人のものへと変わっていく




「これは?!」



距離を置いて見守っていたソロモンが驚愕の声を上げる




そこには、人型に戻った暴食龍が蹲っていた

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