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どうしようもなく、優しい男

他の小説はほいほい進められるんですが、完全オリだとやっぱり難しいです。ドラゴノイドだけが更新速度激遅なのはそのためです

「う…」



目が覚めたとき、俺は廃屋の中で横たわっていた。ひたすらに汚い天井を見上げながら先ほどまで自分が何をしようとしていたかを思い出す。目の前に迫る紅い弾丸、脳天に伝わる衝撃、暗転していく世界。体が地面に崩れ落ちる衝撃



「(そうか。負けたのか。んで、俺はなぜ生きているんだ?)」



素朴な疑問が浮かんだそのとき、隣で何かを租借するようなくちゃくちゃという音。



「お、起きたのかよ。やっぱ甘っちょろいな、お前ってやつはよぉ?」



「するめ齧りながら喋るな黙ってろ。鱗一枚ずつ剥いでいって、ブリーチ原液に漬け込んでやろうか。それとも火を吐いた瞬間に鉛流し込んでやろうか」



「それキメラの殺され方じゃねぇか。臓物はらわた焼くなんてえげつねぇ…」



聞いたことがある声だ。というかさっきまで殺しあってた相手の声だ。負けた上に慈悲までかけられる。なんとも情けない



「傷が癒えたらとっとと失せろ。僕は貴様らのような者とはあまり係わり合いになりたくないんだ」



「へたれて逃げ出してきたお前が言うのか?」



ガツン!という大きな音。男の隣にいた小さな龍の脳天に大きなたんこぶができていた。さっきまで殺しあっていた相手の目の前で、なんと言うか、気の抜けたというか、緊張感のない感じだ。友人とつるんでいたときのような感情を覚える



「俺は…どうすりゃいい?」



男はどうでもいいといった風に、先ほどの小さな龍から取り上げたするめの袋からするめを取り出し、天井を仰ぎながら言った。



「僕に聞かれても知らないな。なぜかそんな俗説が龍化者にだけ流れているかもわからないし、とりあえずは面倒なことが渦巻いてるってことしか僕にはわからない。僕は細かいことを考えるのが苦手なんだ」



「俺もだぜ?俺自体も俺自身が何なのか明確にわかったわけじゃないしな。知っていることを洗いざらいはいてから帰ってもらおうか」



男と違ってこの龍は抜け目がない。粗暴な言葉遣いとは裏腹に、機知には富むようだ



「…………俺は…妙な男を見た」











龍化した数日後、戸惑う自分の前に妙な男が現れたという。その妙な男はすべてを見通したような口調でこう言った



「同じもの同士殺しあえば治るかも知れんな」



追い詰められたとき、人はそれがどんなことであれ実行してしまうことが、ままある。溺れる者は藁をも掴む、まさにそれだ。たとえ情報源が怪しいおっさんでも、龍化という訳の分からない病に犯され、ただ化け物と化していく自分のことには代えられない。ならばどうする?



実行だ



「そのクソ野郎の特徴は? ふんじばっていたぶって全部吐かせる」



落ち着いた雰囲気の割には好戦的なようだ。



「分からない……なぜだかそいつのことは思い出せないんだ。白昼夢でも見たような……というか夢だったのかもしれない。気がつけばその言葉が頭の中を駆け巡るんだ。気が狂いそうだった」



「戦闘中は完全に狂っていたがな。夢にしては出来すぎてる。僕の友人だったもの……そいつも龍化者だが、同じようなことを言っていた」




ふと疑問が頭に浮かぶ。



「「何でそのとき色々訊かなかったんだ?」」










同時に突っ込まれました。まさに正論です本当にありがとうございました



「いや、そいつは龍化したことで傷ついてたし改めて傷口抉るのもどうかなあって……」



「あんた、悪いやつじゃなさそうだよな」




「僕は自分が悪人だとは思ってはいない。来るもの来るもの全員が恐ろしくてしょうがない、臆病者だよ」


彼は頭をガリガリ掻き毟りながら悲しそうに目を伏せた。この人は優しい。自分の身を削って他人を全力で助ける、どうしようもないくらいに優しい男だ。ゆえに自分を助ける方法を知らないのだろう。強い体に繊細な心というものはどうしようもなく脆い




「あんた、龍化したときどう思ったんだ?この力は何だと考える?」




「……僕は、この力が罰だとは思っていない。神が僕たちに与えた試練だとも思わない。僕は僕以外が傷つかなければ、それでいいと思っている。だから逃げ出してきた。君は、もう去ったほうがいい。人外が集まるとろくでもないことがあるのがセオリーってもんだ」



苦笑いをしながら男は言う。拳を強く握りすぎて掌から血が出ていた。俺は立ち去ることにした。だが、もう龍化者を襲おうとは思わなくなった。受け入れ、許容する。それもまた大切なことなのだろうか。ガキの俺にはわからなかった





「………ありがとう」



「……」



ドアのない玄関らしきところから、足を引きずりながら出て行く水龍。どうか彼の人生に精一杯の幸あれ、そう思ったそのときだった




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