届かぬなら、力で語り合う
「準備はできたのか?」
「今しばらく時間がかかります」
「そうか。どちらにしろ、楽しみだ」
「くきひゃははははは!!!!!!燃えろ燃えろ!!燃えてしまえ!この世のすべてが燃えて崩れて灰になればいい!!」
手のひらからおそらく数千度以上の炎を発生させながら赤羽龍斗だったものは残酷に笑う。ファイヤーボールとかいうレベルではない。飛び回りながら炎を撒き散らし、着弾地点を次々溶岩溜りにしていく。外気温の著しい上昇、蒸し焼きになりそうだ。………こいつまさかそれを狙って?!
「俺はこいつみたいに馬鹿じゃねぇ、勝てば官軍負ければ賊軍ってなぁ!!絶対勝てる状況まで持っていくまで、あんたをいじめさせてもらうぜ?」
「なるほど、本当にクソッタレな龍に憑かれたんだな。赤羽龍斗も不幸なものだ」
内心彼に同情を覚えながらソロモンは次の手を思案する
「(彼は龍、私は人間。彼は龍である自身の特性を十二分に生かしながら私を嬲り殺しにするだろう…どうする…どうやってこの状況を打開する?!)」
残った銃は一つ。残り残弾もあとわずか。
ゲアブの瞬間移動で後ろに周り込むとしても彼の回りの熱は私の身を焼くのに十分な温度だ。身を焼くというより蒸発させてしまうかもしれない。先ほどの愛用の銃の最期から見てそう考えるのが妥当だろう。近接格闘は不利だ。ならば遠距離は?
「喰らえ!!」
2発の弾丸を放つ。その弾丸は龍の体を貫くことはせず、その体を通り過ぎていく。
「蜃気楼って知ってっか?今てめぇが撃ったのはま・ぼ・ろ・しww」
そういえば彼の姿の輪郭が揺らめいているような気がした。暑すぎて正常な判断ができなくなってくる。精神的にも追い詰められていた
「(こりゃぁ…無理っぽいな…これも私が背負ってきた業が招いた結果かな…)」
諦めが脳内を駆け巡り始めようとしたそのときだった。
「地雷」
突如地面から雷が飛び出した。それは荒縄のように、そして蛇のように体をくねらせ赤羽を縛り付ける。強力な電撃が赤羽の体を駆け巡り、悶えさせた
「ぐおぉぉおおぉぉおぉ?!!!??」
「わちを差し置いてずいぶんと楽しんでいるようだな、龍斗」
「君は…」
「お前が何しに来たなんて今は置いておくとして、だ。一刻も早く龍斗を正気に戻さなければならない」
赤羽の幼馴染、茶倉光がそこにいた。
「まぁた性懲りもなく暴走したのか?世話の焼ける友達だよ…一つ貸しだってことにしとくか」
地面に不自然な影が発生し、そこから黄泉川堺人が姿を表す。その背中には漆黒の羽が、実体のない陰のようにゆらゆら揺らめいていた。
「おっさんはそこで野たれてるといい、邪魔」
「いくぞ黄泉川!」
「あいよ姉御」
「クソがぁぁぁぁぁああああ!!!」
雷の拘束具を力任せに引きちぎる業火龍。全力を出してはいないとはいえ茶倉は大いに驚いた。そう簡単にはいかないらしい。
「コケにしてくれやがって低俗トカゲ共がぁ!!もういい!!この町ごと蒸発させてくれるわ!!」
天に突き上げた両の手のひらから熱エネルギーが放出され、巨大な火の玉が発生する。さながら小さな太陽のようだ。
「やらせねぇよ、展開、ヤミノフィールド(黒い領域)」
黒い片翼から黒い羽が撒き散らされる。その羽は空間に張り付き、何もない虚空を生み出していく。
「燃えて墜ちろ!!」
投げつけられた太陽は3人に向かって墜ちていく。その手前虚空が立ちはだかり、太陽を黒に染め、取り込んでしまった。そのまま空間は元の空へと戻っていく
「な…?!」
「俺に対する憎悪が大きければ大きいほど俺の力は増す。よっぽど俺たちを消し炭にしたかったのか。だがな、憎悪を以て俺は殺せない。俺を倒せるのは純粋なる心だけだ」
業火龍の背後にあの虚空が発生する。
「憎悪に駆られし者は己が憎悪によって身を滅ぼす。お返しだ」
先ほどの太陽が、発生させた本人に帰っていく
「なめんなクソッタレガァァァl」
あろうことか火球を片手で掴み、そのまま握りつぶしてしまった。
「くひゃ…くきひゃはははあ!!!甘かったようだな…」
「天雷・ミョルニルサンダー(雷撃の大槌)!!」
上空に雷で構成された巨大な槌が発生、業火龍に向かって振り下ろされる
「あ、詰んだ」
驚くほどあっけからんとした言葉遣いでつぶやく業火龍。瞼を突き抜けるほどまばゆい閃光。
「ん…?」
「起きたか、業火龍よ」
僕の部屋だ。壁に貼ったみつをのカレンダー、机の上のカリカリ梅干。そして少し煤けた天井。
「俺は…違った、僕は…」
「私の完敗だ、業火龍…いや、赤羽龍斗。君は私たちが思っていたよりもはるかに強い。その力を自覚することだ。さすれば運命すら変えることが可能かもしれない。だが忘れるな、君は君が思うよりずっと恐ろしいものだということを」
「待て、ソロモン」
「?」
「次は勝つ。僕の力で」
「……フッ…楽しみにしているよ」
ソロモンと入れ違いに茶倉と黄泉川が入ってきた
「龍斗…心配させてくれやがってうわぁぁぁぁん!!」
いきなり抱きついてきやがった茶倉。僕の首筋に一滴の水がつたう。…泣いてくれているのか?
「おおっ…早速お邪魔虫かよ俺…じゃあ後日改めてってことでばいなら~」
逃げるように去る黄泉川。…ナイス。
「何かあったの?」
ドアの向こうから大家さんが顔を出す。この状況はヤバイ。黄泉川め、ドアくらい閉めていけ!!開けたら閉める、基本だろうが!!
「……茶倉ちゃんばっかずるい!!私も!!」
「え?」
部屋に入ってきて寝ている僕の上に覆いかぶさるように擦り寄ってきました。体が痺れてるんで腕どころか全身動きません。ぼくはそのまま二人が気の済むまでしがみつかれてました。