江瑠弩荘怪談記
もうそろそろその季節になってまいりました。まぁ小生は嫌いなんですけどね、ブルブル…
「とりあえず泊っていきなよ、この辺にビジネスホテルとかないし。女の子が夜道に一人とか物騒すぎるし」
「同意だな。開いてる部屋ありますか?大家さん」
「あるっちゃあるよ。でも…」
「でも?」
僕以外の全員が息を呑む。
「まさかあの部屋ですか?!大家さん?!」
「そう…あの部屋よ」
「なんですか?あの部屋って」
一瞬停電になってまた明かりがついた。なんかおどろおどろしい雰囲気になってきたな…
「この江瑠弩荘にはね…禁じられた部屋があるの…」
マイナさんがゆっくりと語りだした。
「2階の奥にある部屋なんだけどね…そこには今の大家さんよりずっと前の時代に、なにか事件があったらしいのよ。この江瑠弩荘は築50年。そう、丁度50年前に事件は起こったらしいわ…」
またしても電気が消える。部屋のあちこちからパニックの悲鳴が上がる。数分後、僕が棚からろうそくを取り出し、そっと吐息で火をつけた。暗闇だからばれないだろう。火って便利だわ。そしてまたマイナさんは語りだした。…あれ?なんか怪談的な雰囲気MAXじゃないか…遅ればせながら、僕も少しゾクッと来た。
「まだ新築だったこの江瑠弩荘に、ある女が尋ねてきたらしいのよ。土砂降りの雨の中。ずぶ濡れの女はこういったわ。「長旅の途中で雨に降られた、落着くまでここに居させてほしい」と。当時の大家さん…彩音さんのおばあさんになるのかしら。快くその人を受け入れたの…そしてその晩…」
ガラガラガッシャーーーーン!!!
近くに雷が落ちた。いつの間にかマイナさんを除く全員が僕の周りにしがみついてた。…ぶっちゃけて言うと僕も正直怖かったのでちょっと安心できたりしている自分も居た。
「その女は風呂にも入らず、ただ大家さんが用意してくれた部屋にずっと引きこもっていたらしいわ…食事もとらずに。心配した大家さんが部屋のドアを叩いても何の反応もないの。心配になった大家さんは合鍵を使って部屋に入ったの。窓は開いていて、降っていた雨が振り込んできていたわ…
その女はどこにも居なかった。代わりに部屋にあったのは………大量の鱗と凄惨に飛び散ったどす黒い液体よ。そしてそこにはバラバラになった日本人形が、虚ろな目を窓の方向に向けていたそうよ」
「…液体?まさかそれって…血液?!」
「さあ?次の日にはどこから聞きつけたか、専門の業者だとかいう連中が、その部屋をもとあったようにきれいにして帰って行ったらしいわ」
「なんか知られたくない実験でもやってたのかな…それこそ、人体実験とか…」
「あら?普通ならオカルト的な方向に皆考えるのに、珍しい思考なのね」
「っ…ま、まぁ怖いのを紛らわせようとしてただけでさァハハハ…」
心当たりありすぎてちょっとびっくりしてしまった。ヒイロも若干挙動不審である。
「で?それでも泊るというなら…」
「出来れば皆さんの部屋に置かせていただきたいです」
急にしおらしくなった茶倉。そういや怖い話とかめちゃくちゃ嫌いだったっけ。昔、茶倉と一緒にバイオ・○ザードやったら途中、茶倉が気絶したこともあったか。天井から化けもんが降ってくるとこで「きゅう…」とかいって倒れたのを、今でも鮮明に覚えている。初見だったので僕もちょっとびっくりしてしまったりするんだが。
「じゃあ今日は龍斗サンの部屋に泊ってもらおうかしら」
「まさかの僕の部屋?!何で男の部屋を選択肢に入れるんですか!」
「なぜって…知り合いだから?」
「軽率すぎやしませんかい?」
「怖い話しちゃったし、こういうときは知らない人より知り合いのほうが落着くものよ」
「詭弁じゃありませんか?それ」
「大丈夫。今居る子全員で龍斗サンの部屋で寝るから」
「(うわーいぼくしんだ)」
眠れない夜は続く