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朝の海

「そろそろ帰るか。」

空が少し白くなり始めたとき、拓実が言う。

「まだ電車も動いてないよ?」

塔子が言う。

「歩いて帰れない距離でもないし、みんなで歩いて帰ろうぜ!」

直樹が喜々として言う。

「賛成!!」

もうちょっと直樹と一緒にいたくて美晴は嬉しそうに賛成する。

「俺、バイクなんで。」

「ハルお酒飲んだでしょ!?」

「あんなのとっくにぬけてるよ。帰り方向一緒だし、お前乗ってくか?」

私は大きくうなずく。

両想い組みと一緒はやっぱり気を使う。ハルキは自分のヘルメットをかぶり、私にヘルメットを渡した。

(ヘルメット、2つ持ってきてたっけ?)

疑問を口にせずに、私はヘルメットをかぶりハルキの後ろに乗った。

「んじゃ、また学校で。お前らちゃんと送れよ!」

ハルキが拓実と直樹に忠告すると2人ともお前に言われなくてもわかってるよと言う。

私は塔子と美晴に目でよかったねといい手を振った。



「少し寄り道していいか?」

バイクに乗っているのでちょっと聞き取りづらかったがハルキが聞く。私はできるかぎり大きい声を出して返事をする。

「うん!!」

バイクはそのまま家とは違う方向に向かった。




長塚との関係がハルキにばれたのは、長塚との関係が始まって4ヶ月ほどしたとき。

いつものようにバイト先のメンバーで飲んでいて、長塚に車で送ってもらったときのこと。


一番家が遠い私は助手席に乗ってみんながいなくなるのを見ていた。

そして最後の一人がいなくなり、車は長塚と私だけになった。

車内にはさっきまで乗っていたこの希望ではやりの曲が流れている。


お互い何も話さない。


話すことがみつからない。


そして私の家の前に着いた。

「送ってくれてありがとう。」

私はそう言って車を出ようとした。

そのとき、急に腕をひっぱられた。

「え?」

気づいたときには長塚の唇が私の唇にふれていた。

一瞬驚いて目を見開いてしまったが、私はゆっくりと目をつぶった。


触れていた唇はいつのまにか触れるというものより覆いかぶさったかんじになる。


(苦し・・・)

うまく息が出来ず、長塚の唇が離れた瞬間大きく息を吐いた。

「大丈夫か?」

私のほほに手を当てて心配そうに長塚は私をみていた。

「ん・・・、平気。」

私は小さくそう呟き再びお礼を言って車をおりた。

「じゃあ、またな。」

車のドアを閉める前に長塚は笑って言い、車を発進させた。

車が進みそれを見ていると、視界にハルキの姿がうつった。


私はおもわず口を手で覆った。

(見られた・・・?)

ハルキはそのまま私のほうに歩いて来た。

暗くて表情がうまくみえない。

でも、怒っているようだった。


「ハ・・ル。どうしたの・・?こんな時間に・・・」

ハルキは何も答えずに私の正面に来て、腕をつかんだ。

「イタ・・・、ハル、痛いよ。」

「お前、何やってんの?」

腕をつかむハルの力は強かった。

「なにって・・・」

私は答えられずに目線を下げる。

「あいつ、お前のバイト先の店長だろ?結婚してるよな!?」

ハルキがこんなに怒ってる姿、初めて見た・・・

一瞬、ウソをついてしまおうかと思った。

でも、ハルの顔を見てしまったら、そんなことできるわけがなかった。


私は小さくうなずいた。


ハルキは腕をはなし、その場にしゃがみこんだ。

「何やってんだよ・・・」

小さい声でハルキは呟く。


私は何も言えずにその姿を見ていた。




ハルキが連れてきてくれたのは海だった。


この間長塚と来た海・・・


でもそのことは黙っていた。


「本当は夜連れてくるつもりだったんだ。」

ヘルメットをとりながらハルキは言う。

「そうなんだ・・・。」

長塚と来た海。

夜に来なくてよかったと思ってしまう私は最低だ・・・


ハルキは最初からここに連れてきてくれるつもりだったんだ。

そして気付く。

「もしかして、お店行く前の忘れ物ってヘルメット?」

「ああ、お前乗せるのに必要だったからな。」


嬉しい・・・


「ありがとう。」


素直に言うとハルキは笑顔を見せる。

「菜々穂、見てみろよ!!」

そう言ってハルキは海を指差す。


日の出だ


海から太陽が生まれるような、そんな風景。

少しづつ世界全体が明るくなる。


「キレイ・・・」


その言葉しか出てこなかった。


本当に、キレイ・・・

夜に見た海とは全然違う海・・・


真っ暗で、でも星がキレイな夜の海


明るく世界を照らす太陽を生み出す海


どっちもキレイ・・・


「俺の本が届きますように。」

隣にいるハルキが急に声を出す。

見るとハルキは手を合わせて太陽に向かっていた。

「太陽にお願いするの?」

「おう、日の出はご利益あるっていうだろ?それに流れ星と違って太陽は永遠に輝いてるしな。」

「そっか・・・。そうかも・・・。」

でも、きっとハルキの願いは流れ星も叶えてくれるよ。だってハルキは優しいから。

私には願う資格ないけど・・・


でも、お願い。

ハルキの願いが叶いますように・・・

これだけは叶えて・・・


私はハルキと同じように太陽に手を合わせて願う。

そしてふと思う。

「本が届くってどういう意味・・・?」

「そのままの意味。俺の書いた本が届けばいいなって。」

「・・・・人の心に届くとかそういう意味?」

「まぁ、そんなとこ。」

ハルキは少し照れくさそうな笑顔を見せる。

「私に一番にくれるんだよね?」

「ああ、絶対に一番にやるよ。」

「サインつけてね!」

えっという顔をしたあとハルキは笑って言う。

「おう!練習しとく。」

私たちは顔を合わせて笑った。

「菜々穂、お前いい友達もったよな。」

「へ?」

「今までお前の友達見てきたけど、あそこまで心許してる友達初めてみた気がする。」

「私も!!同じこと考えた!!ハル、いい友達に出会えたんだなって!!まったく同じこと思ったよ!!」

なんだか嬉しくて、私は息をするのも忘れ一気に言い咳き込んだ。

ハルキは驚いた顔を見せて笑って私の背中をさする。

「大丈夫か?」

「ヘ・・・ゴホっ・・き・」

ハルキは笑い私の背中をさすりながら言う。

「急ぎすぎだ、ばか。・・・でも同じこと考えるなんてなんか嬉しいな。」

「きっとそれだけ私たちは絆が深いんだよ」

幼馴染という絆が私たちを強くしてくれる。きっとそう。

「かもな。」

ハルキも同意する。


でも、少しだけさびしく聞こえた。


「帰るか!」

太陽も昇りきりハルキがヘルメットを持ち上げ言う。

なんだかまだ帰りたくない私は、自分のヘルメットをバイクに置きそのまま海のほうまで走った。

履いていた靴をぬぎ、砂浜に足をうずめる。そして波打ち際まで行く。

「この時期だったらもうクラゲいるから入れないぞ。」

追いかけてきたハルキが言う。

「残念・・・」

足だけでもつけたくて、残念そうにする私の頭にハルキは手を置きぽんぽんっと叩く。

「来年つれてきてやるよ。」

「本当?約束ね!!」

そう言って私は小指を出す。

ハルキは一瞬とまどった顔を見せ私の小指に自分の小指をからめる。

「おう、約束な。」

「なんか、久しぶりだね。こうやって指切りするの。」

「ああ・・・。」

先に小指を離したのはハルキだった。

そっと顔を見るとハルキの顔をほんのり赤かった。

「久々ついでに手、つなごうか?」

調子にのって私が言うと、赤い顔でハルキはばかっと言ってバイクの方に向かう。

「ケチ~!!」

そう言ってハルキの背中に向かって舌を出す。

私はもう一度海を見て携帯を取り出し写真を撮る。

(やっぱり本物がいいな。)

そう思いつつもちゃんと保存をし、私はバイクの方へ振り返る。

そこにはハルキがいた。

とっくにバイクに向かっていると思ったので私はちょっと驚く。するとハルキは黙って左手を差し出した。

「え・・・?」

最初、意味がわからず私はハルキの左手と顔を交互に見る。

「ん!!」

そう言ってさっきっより顔を赤くしてハルキは左手を差し出す。そして気付く。

「わ~い!!」

そう言って私はハルキの左手に自分の手をからめた。

「今日だけだからな!!」

怒ったような照れたような声でハルキは言う。

「はーい。」

素直に返事をして私たちは短い距離を手をつないで歩いた。


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