秘密
「菜々穂、どういうこと?」
水曜日、昼前の講義が終わり、机の上の教材を片付けていると後ろの方の席で授業をうけていた塔子が私に駆け寄り聞いてきた。
「…何が?」
主語もなく何を聞くのやら…。慌てているのか塔子は息をするのを忘れて早口で言う。
「何が?じゃないわよ!!ハルキ君よハルキ君!!」
「ハルが何?」
また女の子をふったのだろうか。私がそんなことを思っていると塔子はじれったそうに私の肩をつかみ揺らす。
「何じゃないわよ!!ハルキ君、雑誌に載ってるんでしょ!?さっき美晴がメールで知らせてきてびっくりよ!」
「美晴から?」
塔子と美晴は大学に入ってからの友人でいつも3人で一緒にいる親友だ。なので美晴が塔子にだけメールを送ったとは考えずらい。私は鞄にいれていた携帯を取り出す。携帯はメール着信のランプが光っていた。授業中、サイレントモードにしていた私はメールに気付くはずもなかったので仕方ない。私はメールBoxをひらき新着メールをみた。そこには思った通り美晴からのメールがきていて、読もうとした瞬間、教室に美晴がやってきた。
「ねぇ、どういうこと!?」
机の上に置いていた私の鞄の上に、見開いた雑誌をのせ、美晴は聞いて来た。
雑誌をみると、本当にハルキが載っていた。
見開き1ページの右上と左下にハルキの真面目な顔と笑った顔の写真が載っていた。その他の場所には文字が敷き詰められていて、ざっと目を通すとインタビューに答えてるようだった。
「ハルキ君、有名な小説雑誌で賞とったんでしょ?この雑誌に書いてたの!!菜々穂、知ってたの!?」
ハルキが小説で賞をとったのは知っている。けど、こんな大事になるほどのものだったなんて知らなかった。私は黙って雑誌を読む。
「これでハルキ君、もっともてるようになるよね!」
興奮して美晴が言う。
「そうだね…」
他に言葉がみつからず、私はそれだけ言って雑誌の中にいるハルキを見た。
(なんか、遠いな…)
ついこないだ向き合って焼き鳥を食べたところなのに、親よりも私をわかっているハルキ。
でも私は…?
私はハルキのことをどこまで知っているんだろう…?
雑誌の中のハルキは別人に見えた。
黙って雑誌を見ていると、美晴が私の肩を叩く。
「菜々穂、携帯光ってるよ?」
私は我に返り携帯のディスプレイをみた。
『一条ハルキ』
まさに今話題になっていた人物から電話がかかってきた。
私は通話ボタンを押した。
「もしもし?」
『菜々穂?今学校いるか?』
私は雑誌の中のハルキを見ながら会話する。
「うん。」
『西島や佐伯も?』
塔子と美晴の苗字を言われ私は2人を見る。
「うん、一緒にいる。」
『じゃあ、みんなで飲みいかねぇ?こっちも直樹と拓実いてさ、久々みんなで飲みたいってうるさいんだよ。』
確かにハルキの後ろからかすかだが何か言っている直樹と拓実の声が聞こえる。私はちょっと待ってと言い、携帯に手を当てて塔子と美晴に用件を伝える。二人ともすぐにOKサインをだした。
「良いって。」
『じゃぁ、授業終わったら広場に集合な!そっちも4限までだろう?』
「うん、了解。じゃぁ、あとでね。」
雑誌を見ながらハルキの声を聞くのは変なかんじだった。
ハルキの声は明るかった。だからきっと笑っている。
だから、笑っている写真を見た。
でも、それはハルキじゃないような気がして仕方なかった。
「奈々穂、どうしたの?なんか今日変だよ。」
心配した顔で覗き込む塔子と美晴を見て私は我に返り笑う。
「なんでもないよ!ちょっとおなか減っただけ。」
そう言うと二人は笑ってご飯にしようと言って、それぞれ買ってきた昼食を教室で食べることにした。
「6人で飲むのとか久しぶりだよね!!」
嬉しそうに美晴が言う。
「嬉しそうだね、美晴~。」
にまっと笑って塔子が言うと、美晴は顔をふくらませ塔子もでしょ?っと言う。
美晴は直樹が、塔子は拓実が好きなのだ。
私はそんな二人を黙って見つめる。
好きな人がいることを幸せそうに話す二人。
もし長塚との関係が正当なものだったら、私は二人のように幸せな顔をして話しているのだろうか・・・?
もし長塚に家庭がなければ、私と長塚は・・・
本当の恋人同士になれてたのかな・・・?
考えてはいけない、これ以上考えてはダメ・・・
私は首を横にふる。
「菜々穂、やっぱり今日変だよ?」
塔子の声で私は我に返る。
「ごめん、ちょっと考え事してた・・・」
「悩み事?相談のるよ?」
「そうそう!菜々穂はいっつも私たちの相談のってくれるんだけら、いつでも頼ってよ♪」
「ありがとう、でも大丈夫!そのときがきたらちゃんと話すから!」
二人のことを信じてないわけじゃない、長塚とのことを言ってしまおうかと思うときもある。
でも、きっと別れるよう言われるから・・・・
それが正しいってわかってる
でも、まだ終わりたくないの・・・・
ごめんね・・・