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夜の海

長塚が車で連れて来てくれたところはもう誰もいない海だった。

「真っ暗…。」

率直な感想を言うと長塚は確かにと言って笑いタバコに火をつける。

「なんで海?」

「昼間は連れて来てやれないだろ、こういうところ。」

自虐的な笑みで長塚が言う。この人のこういう優しさがこの関係を続ける一つの理由。

「まめだね。」

笑って私が言うと長塚はあきれ顔でタバコを指にはさんだ。

「他に言うことないのか?」

私はにこっと笑い素直にお礼を言う。

「夜の海なんて始めて!!連れてきてくれてありがとう。」

「素直でよろしい。」

そういって長塚は私の頭をなでる。

大きくて骨張った手、私はこの手が好きだ。

「夏っていってもやっぱ9月だな、夜は寒い。」

そういって長塚は私を後ろから抱き締める。

「人で暖とらないで!!」

そう言ってみるものの、私は長塚から離れようとはしない。

長塚の腕の中は心地よいから。私はなんとなく今長塚がどんな顔をしているのか気になり顔をあげた。その瞬間

「あっ…!」

私は思わず声を上げ不信に思った長塚がどうした?と聞いてくる。

「流れ星…」

え?と言って長塚も顔をあげる。

「初めてみた…」

一瞬で終ってしまったが私の目には鮮明にその一瞬が残っている。そのままずっと空を見上げているとふっと長塚の顔が夜空を隠す。

「何か願えたか?」

私は首をふる。

「だって一瞬だったもん、いつ流れるかもわからないし…」

「だからってずっと見上げとくつもりか?首痛めるぞ。」

「そうだけど…」

あきらめきれず私が空を見上げていると長塚は仕方ないなっといった笑みで私のおでこに自分のおでこを当てる。

「そこまでしていったい何を願う気だ?」

そう言われて私はふっと首をもどし長塚に向き合った。

「考えてなかった。」

長塚は驚いたようなあきれたような顔をしてバカとつぶやく。

「普通、流れ星っていったら願いをかけるだろ。」

「そうなんだけど…。キレイだったからもう一回見たいなって思っただけなんだもん…」

私が言うと長塚は笑って私の頭を何度もぽんぽんっとする。

「子供あつかいしないで!!長塚さんこそ見れたら何を願うの?」

私が聞くと長塚は一瞬笑みを消しタバコを取り出し火をつけた。息を吸い込みいつもより長い時間をかけて煙を吐き出すと少し寂しそうな笑みを見せて私を見る。

「願う資格、俺にはないだろ…」


私は何も言えずに黙って長塚を見た。

見ることしかできなかった。


だってそれは私も一緒だから。


タバコを吸いながら長塚は砂浜に腰をおろした。私はすぐにその右横に座り長塚の肩に首をかたむける。

「もし願っていいよって神様が言ってくれたら何を願う?」

長塚は驚いた顔をしそして寂しい笑みを見せた。

「それでも願えないな、きっと神様が許さない。」

そう言って長塚は夜空を眺める。

きっと私と長塚の願いは一緒。


『このままの関係が続きますように…』


長塚は奥さんとの暮らしを守りながら私との関係を続ける。

私は長塚との関係を続けながら今まで通りの日常を…、ハルキがいつも近くにいてくれる日々を続ける。


このままが続きますように…


今の幸せが続けばいい。


でも、それを願ってはいけない。いや、長塚の言う通り私たちにそれを願う資格なんてない。

「神様なんていないよ…」

私はそう言うしかなかった。神様はいないから、だから私たちの関係が続くよう祈っても大丈夫!そう思いたかった。

「お前が言い出したんだろ?神様説を…」

あきれたように笑いながら長塚は私の髪をくしゃくしゃにする。そして私たちは夜空を見上げる。そして同時に声をあげる。

「「あっ!!」」

流れ星。

お互いその言葉をのみこむ。

私たちはそのまま夜空を見続けた。





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