出会い
私が長塚と会ったのは2年前、バイトに入って1ヶ月ほどしてからだ。
バイト先はおしゃれなイタリアンレストラン、雑誌にもよく載るチェーン店の1号店でオーダーやかけ声などは基本イタリア語でおこなうのがキマリだったので、私は苦戦していた。幸い、私と一緒に入った同い年の男女2人のバイトも苦戦していたので孤独感はなかった。
でも、仲間がいることで安心し、一体感で3人ともやめようかという話にもなっていた。そんな話をしているときに現われたのが長塚だった。
「今、3人同時に辞められるのは痛いな。」
バイト終わりに近くの居酒屋でいつバイトを辞めようかと話していると、近くの席で一人で飲んでいた男が声を掛けてきた。それが長塚。
「店長…」
驚き顔でバイト仲間の健吾が言うと、長塚はちょっとごめんて言って私の隣りに座った。
「まぁ、やめたい気持ちもわかるけどな、うちは結構厳しいし、イタリア語とか面倒だし。ただ、今辞められると俺が上から怒られるんだよ、新任そうそう何やったんだってさ。」
長塚は2日前に店長としてやってきた。前までは本社のほうでデスクワークをしていたそうだ。
「俺は時期社長候補だけど新任そうそうこれじゃそれも遠のく。ってか、なんでお前ら俺が来る前に辞めないんだよ。」
笑いながら言う長塚に3人ともあっけにとられた。普通は怒るかなにかしてもよさそうなのに。
「それだけですか?」
私と同じことを思ったのかバイト仲間のさやかが長塚に聞くと長塚はちょっと考える素振りを見せて言う。
「あと言うなら辞めるならバラバラに辞めろってとこかな?バラバラならまだごまかせる!」
にっと笑う長塚を見て私たち3人は顔を合わせ笑った。そして同じことを思う。
『こんな店長がいるならもう少しがんばってみるか。』
それからしばらくの間、バイトが終ってから長塚は私たち3人にイタリア語を教えてくれた。
楽しく、優しく。
それは、長塚に惹かれる十分な理由になった。