伝わる想い
私はその場にうずくまった。
最後のページにまぁるい雫が落ちる。
それは…
「雪か…」
長塚はそう言って持っていた傘をさした。
私はただうずくまりハルキの本を胸に押し付ける。
「ハ…ル…」
ズルイよ…、こんなの…。
私、最初に読めなかったよ…
ごめん…
「ごめ…ん、ハル…」
私はそのときやっと涙を流すことができた。
ハルキの気持ちがわかって、ハルキの存在がどれほど大切だったかわかって…
「なが…つ…かさん、わたし…ハルが…好き…、大好き…」
長塚の方を見上げて言うと、長塚は苦笑していた。
「やっと気付いたか…」
あきれた口調、でも、長塚の目には小さく光るものがあった。
「ごめ……、ハル…。」
私が泣き続けると長塚は傘を置き、両腕を開いて私を見つめた。
『俺の胸で泣いていいよ』
長塚のやさしさ。
でも私は首を横にふる。
今私が会いたいのは、頼りたいのはハルキだけ…
なんで、なんでハルキは居ないの…
「ハル…、ハル…」
長塚はそっと私を立たせ、後ろを向く。
「背中くらい貸させろ…」
真っ黒な背中…。
ハルキを想って泣く私に向けられる優しさ…。
気付くと私は長塚の背中に顔を押し当てた…
ハルキ…
私は何度もハルキの名前を呼んだ。
心の中で、口に出して、何度も何度も…
でも、返ってくる言葉はない。
もう二度と私はハルキに名前を呼んでもらえない。
「逝か…な…いで…、ハル…。私、言ってな…い、好きって…、…ハル…好き…」
ハルキはズルイよ、自分だけ言って…
答えたかったよ、ハルキの気持ち…
ハルキの声で聞きたかったよ…
「バ…カ」
雪はその間、降り続けた…