真実
動かないハルキの姿を見ても、泣くことはできなかった。
現実逃避をしたわけでも、ハルキの死を受け入れてないわけでもない。
ただ、泣けなかった…
ハルキのお葬式の日は朝から雲が黒かった。
たくさんの人が涙を流し、なかにはハルキの本を持っている人もいた。
カメラもきていた。
いつのまにかハルキは有名人になっていた。
泣いてる人達を見ても私は泣けなかった。
悲しくないわけなんかない。
ここにいるどの人よりも私がハルキの死を悲しんでいる。
そのはずなのに私は泣けない…
私は外に出て空を眺めた。
ハルキは泣かない私をみてどう思っているだろう…?
薄情者って怒ってるかな…?
「本当は泣きたいんだよ…、ハル」
私がつぶやくと後ろから声を掛けられた。
「泣けよ。」
一瞬、ハルキかと思った。でも、そんなわけはないから…
私は後ろを振り返る。そこには全身黒でつつまれた長塚がいた。
「泣きたいなら我慢せずに泣いたらどうだ?」
長塚はまっすぐな目で私をみていた。
ハルキとの接点があるにしても、付き合いがあったわけじゃないのに長塚は喪服を着てハルキの見送りに来てくれた。
(本当、マメな人…)
こんなときなのに私はクスッと笑ってしまった。
「我慢してるわけじゃないの。ただなんか急すぎて…。」
長塚は黙って話を聞く。
「私、ハルキから気持ち聞いてないから…、キスはされたけど、好きって言われてないから…。ハルの気持ち、わからないまま…」
そしてハルキは逝ってしまった。
長塚は持っていた黒い鞄からある物を取り出し、私に渡した。それは…
「ハルの…本…」
「お前、まだ読んでないだろ?」
私はコクンとうなずく。
差し出された本を手にしようと思うが震えて手が言うことをきかない。
「菜々穂。」
いつもより低めの声で長塚が名前を呼ぶ。
怖い…
これを読んでしまったら、本当にハルキはいなくなってしまう…
そんな気がして私は本をとれない。
長塚はその姿をじっと見つめるだけで無理に渡そうとはしない。
「菜々穂、お前はこの本を読まなきゃいけない、絶対にだ。」
意志の強い声。
「こ…わいの…。読んだらハルは、ハルの生きてた証が…、消え…ちゃ…」
私はそれ以上声を出せなかった。
わかってる、ハルキは死んだ。もうこの世にはいない…。
それでも、本を読まなければ…、読みさえしなければ、ハルキはまた私に本を持ってきてくれるかもしれない。
そして教えてくれるかもしれない、ハルキの気持ちを…
見上げると長塚の目は真剣だった。
『読むんだ』
そう強く私に訴えてきた。
「ハルキ君はお前この本を一番に読んでもらおうとしていたんだろ…?」
『出来たら、一番にお前にやるから。』
焼き鳥屋で、初めてハルキが小説を書いてることを知った日、言い合いになりそうになったけど、その言葉でハルキは止めてくれてよね?
そうやってハルキはいつも私に優しかった。
私は震えながら、長塚の手から本を受け取る。
恐る恐る、表紙をひらいた。