涙
(雨・・・・?)
ザーッと水が流れる音で私は目を覚ました。
一人で寝るには大きいベット。
でも、隣には誰もいない。私は窓の方を見る。カーテンが閉まっていて外の様子はちゃんと見えないが、明かりは見えない。
私は近くにあったバスタオルを体にまき窓のほうへ行き、カーテンを開ける。
外は暗かったが雨は降っていない。
時計を見ると3時をすぎたところだった。
私はベットに戻り横になると、水の音がやんだ。
なにかごそごそとする音が聞こえたあと、ドアが開く音がした。私がドアのほうを見ると髪をぬらしバスローブを着た長塚がいた。
「起きたのか?」
「うん・・・、帰るの?」
私が聞くと長塚は首を振りベットに近づいた。
「帰らないよ。」
そう言って私の頭の方に座り、私の頭をなでる。
しばらくすると、長塚はなでるのをやめ、私の隣に横になった。
私たちはお互いの顔を見る。
長塚は今度は私の頬を触る。
「菜々穂・・・」
「なに?」
何か考えているように私の名前を呼ぶ長塚。私は気づかないふりをして返事をする。
「奈々・・・」
もう一度私の名前を呼ぶ長塚。
私は何も言わずに微笑む。
すると長塚は私を強く抱きしめた。私は何も言わずにそれを受け入れる。
長塚の唇が私のおでこにあたり、頬に下がり、唇に触れる。
優しく触れる長塚の唇がなぜか冷たく思えた。
長塚はそのまま首筋をなぞるようにキスをする。
心地良い感触。
なのにお互いの体が熱くなればなるほど、遠くに感じる。
そして、長塚と一緒になったことで気づく。
お互いが感じる不安と寂しさが。
でも、お互いそのことに気づかないふりをする。
お互いの名前を呼び、つながりを深くしようとする。
でも、それが私たちの距離を教えてくれる・・・・。
涙がでそうになったが、私は長塚に見られないように隠した。
でもきっと長塚は気づいてる。
そうやって私たちは夜を過ごした。
12月に入りクリスマスが近づいていた。
そんなある日、私は風邪をひいた。
「大丈夫か?」
そう言ってハルキは私のおでこに冷却シートを貼る。
「大丈夫じゃない・・・」
私が言うとハルキは苦笑して欲しいものを聞く。
「のどか沸いた・・・」
言うとハルキはスーパーの袋からスポーツドリンクのペットボトルを出し、ふたを開けてくれた。
「コップにいれるか?」
「大丈夫。」
私はハルキからスポーツドリンクを受け取りのどに流し込む。
「薬飲んだか?」
ハルキの問いに私は首を振る。
「じゃあ、何か食わなきゃな。」
「食べたくない。」
そう言って私は布団に潜り込む。ハルキのため息が聞こえたが私は無視することにした。
布団の上から軽く叩かれた気がして私はそっと布団から顔を出す。するとさっきまでいた位置にハルキはいなかった。少し体をずらし台所を見るとハルキの後姿があった。
ごそごそと何かしているかと思ったら急にこっちを振り返った。
そして手にお皿とフォークを持ってきてベットのほうに戻ってきた。
「これなら食えるだろ?」
そう言って渡してくれたのは桃の缶詰だった。私は起き上がりお皿を受け取る。
「昔から風邪のときこれだけは食べるもんな、お前。」
そう言って笑うハルキ。
「ありがと・・・」
お礼を言うとハルキはw顔を見せ髪をぐしゃぐしゃにする。
「それ食ったら、薬飲んで寝ろ!!」
「ん・・・」
私は黙々と桃を食べる。
さすがに全部は食べれずに残そうとすると、ハルキがお皿を取って代わりに水の入ったコップと薬を渡してくれた。
桃の入ったお皿にラップをし冷蔵庫に入れるハルキの様子を眺めながら私は薬を飲みまた布団にもぐった。
「菜々穂、俺バイト行かなきゃ行けないんだけど大丈夫か?」
私は小さくうなずく。
「本当は休みたかったんだけど、どうしても無理でさ・・・。終わったらまた来るから。」
「無理しなくていいよ・・・?」
私が言うとハルキは軽くデコピンをしばかっと呟く。
「お前が無理してんじゃねーよ。」
そう言ってハルキはコートを着る。
「なんか欲しいもんあったら携帯鳴らせ、買ってくるから。じゃ、あとでな。」
「ん・・・。ありがとう、いってらっしゃい。」
ベットの中からハルキを見送り私は目をつぶった。
薬が効いたのか私はすぐに寝ることが出来た。
何か大きな声が聞こえたような気がして私は目を開けた。
そこにはハルキと長塚がいた。
ハルキの表情は今までみたことのないくらい怒った顔だった。
(ゆ・・・め・・・?)
ハルキが長塚に何か言っているが頭がぼーっとして聞き取れない。
怖い顔をしたハルキ
つらそうな顔をする長塚
きっと夢だ
そう思って私は目をつぶる。
カーテン越しの光が私の顔に当たり私は目を覚ました。
起き上がろうと体を動かすと左手に違和感を感じ、ゆっくりと目線を動かすとそこにはベットにうつむいて寝ているハルキの姿があった。
そして左手にはハルキの右手が握られていた。
(いつから・・・?)
なんとなく恥ずかしくなり手を離そうとするが、ハルキのてが大きく包み込んでいたので簡単にはずれない。
(ずっとついててくれたんだ・・・)
自分のコートを羽織って寝ているハルキ。
(風邪ひいちゃうよ・・・)
なぜか私は泣いていた。
ハルキの暖かさが伝わって
ハルキの優しさが嬉しくて・・・
「ありがとう・・・」
小さく呟くとハルキが少し動いた。私はとっさに右手で涙をぬぐった。
少ししてハルキはあくびをしながら顔をあげた。
「おはよう」
私が言うと一瞬驚いた表情を見せたがすぐにいつも通りの表情を見せる。
「おはよう、もういいのか?」
「平気!!」
そう言って私は右手でVサインをする。
ハルキはよかったと言い、立とうとした。そして、右手の違和感に気づく。
「うわっ!!」
そう言って私の手を放す。
「うわってひどくない??私が起きたときにはつないでたんだからね!!」
私は顔をふくらます。
「これは、昨日お前が放さなかったんだよ!!」
「そんなむきにならなくてもいいでしょ!?」
必死なハルキを見て私は何故かムっとした。
私の機嫌が悪くなったのがわかり、ハルキは小さくごめんと謝る。
「別に謝らなくても・・・」
部屋に嫌な沈黙が訪れる。
私はなんとか話題をさがそうと頭を必死で動かした。そして思いつく。
「ハルの本、いつでるの?」
かなり強引なもっていき方だが、この際仕方ない。
ハルキは意表をつかれた表情を見せて言う。
「12月25日」
「クリスマス!?」
「ああ。お前にはその前にやるよ。」
「じゃぁ、イヴがいいな。私25日バイトだし、イヴにちょうだい!!クリスマスプレゼントで♪」
「いいよ、俺も25日はバイトだし。」
「サインつけてよ!!」
「まかしとけ!!」
そう言って笑うハルキ。
私は今から24日が楽しみになった。
そしてその日はきた。