Birthday
次の日、私はいつもより早めに起きた。
理由はケーキを作るため。
大学に入るまではお互い実家にいたので、いつもハルキの家に言ってお互いの誕生日を祝っていた。
いろいろな料理をハルキのお母さんが用意してくれていたのを申し訳なく思った母が、ケーキだけはうちで作ると言い出したのが始まり。
小さいときはお母さんが作るのをただ見ていたが大きくなるにつれて手伝うように、高校の時には私が一人で作るようになった。
ハルキとの約束は昼の1時。
今から作れば十分間に合う。
私は前から準備していた材料を冷蔵庫から取り出しケーキ作りをはじめた。
何年もやっているからわざわざレシピをみることもなく淡々と作業を進める。
ケーキは決まってイチゴのショートケーキ。
昔はいろいろ違うものにしていたが、ハルキが一番おいしそうに食べたのがショートケーキだったので、いつのまにかショートケーキ以外を作らなくなった。
スポンジが焼きあがったので生クリームを作ることにする、電動の泡だて器を使えば早いが邪魔になるので置いていない。なので私は手動で生クリームをあわ立てる。
これがまたしんどい。
まぁ、スポンジを冷ます間の時間かせぎにもなるので私は淡々と生クリームをあわ立てる。
なんとか、クリームがたつようになったので最後の飾り付けにうつった。
生クリームをスポンジに塗り、イチゴをのせて出来上がり。
ボールに残った生クリームをなめるとちょうどいい甘さだった。私は笑顔でうなずいてケーキに使った器具類を洗う。
洗い終り私は時計を見る。
AM11:30
余裕をみたはずがちょっとギリギリになっている。
私は急いで買ってあったケーキを入れる箱を組み立て、くずれないようにそっとケーキをいれた。
そこからは大急ぎでシャワーをあび、髪を乾かし服を選んで鏡の前に座る。
時間は12時をちょっとすぎたところ。
私は化粧を始めた。
もともと得意じゃない化粧なので、慌てないように慎重にする。が、気持ちはあせって失敗。
それを2回繰り返し、なんとか完成。
時間は12時半すぎ。
最後に全身チェックをしてテレビの横に置いておいたハルキへの誕生日プレゼントとななめにならないようにケーキを持ち鞄を持って部屋を出る。
ハルキへのプレゼントはキーケースと手袋。
部屋の鍵とバイクの鍵、実家の鍵にバイト先のロッカーの鍵といろいろな鍵を持ち歩いてたハルキは、最近実家の鍵を失くした。理由はキーケースの鍵をかける部分があまくなっていつのまにか外れてたとか。それを聞いた瞬間にプレゼントはキーケースに決めた。手袋は去年から決めていたもの。去年の誕生日にマフラーをあげてよく使ってくれていたので今度は同じメーカーの手袋って決めて、店頭に手袋を置くって聞いた日に直行で買いに行った。
キーケースも手袋も皮で、こげ茶のものを選んだ。
ハルキの喜ぶ顔が目に浮かび私は自然と笑顔になる。
昨日は泣いたのに、人間は単純だな・・・
そう思いながらも私は笑顔でハルキの部屋へ急ぐ。
ハルキと私との家の距離は徒歩20分ほど。
1時5分前にハルの住むアパートに着き、私は部屋のインターホンを押した。しばらくして、ハルキはドアを開ける。
「いらっしゃい。」
いつものように出迎えてくれるハルキ。私は元気におじゃましまーすと言って部屋に入った。
ハルキの部屋はいつもきれいに片付いている。部屋のテーブルを見るとすでにハルキが頼んでいたであろうピザとチキンが置いてあった。
私はハルキに箱に入ったケーキを見せ、冷蔵庫に入れた。
その間、ハルキはお皿を出し、コップにジュースをついでくれた。
準備が終わり私たちは向かい合わせに座って乾杯をする。
「「おめでと~!!」」
「って、21歳って祝う年か?」
複雑な表情で言うハルキ。
「とか言いつつちゃんとパーティーの準備してるくせに~」
私が意地悪く言うとハルキは顔をふくらます。
「年中行事みたいなもんだろ?誕生日だから特別ってわけじゃねーよ。」
言い訳っぽく言うハルキがおもしろく私は笑う。すると、ハルキは私がお皿にとったピザにタバスコをいっぱいかけた。
「ちょっ!!私が辛いのダメなのわかっててやらないでよ~!!」
「笑ったお前が悪い。」
そう言ってハルキは舌を出す。
やり返してやろうかとも思ったが、ハルキは辛いのが平気なのであきらめる。それに
「ほら。」
そう言って、タバスコのかかってないものと交換してくれる。
ハルキはそういう人。
「ありがと!!」
私は笑顔で自分のピザをハルキに渡す。
「そうだ!これ、私からのプレゼント♪」
そう言って私はハルキにプレゼントを渡す。
「サンキュ、開けていいか?」
私は笑顔でうなずく。ハルキは慎重につつみを開けるとプレゼントを手に取った。
「どっちも買おうと思ってたんだよな、ありがとう。」
そう言ったハルキの表情は私が想像していたよりも嬉しそうだった。
「バイク乗るとき手、冷たくてさ!!キーケースも、これで、落ちる心配せずに持ち歩けるよ。まじ、サンキューな!!」
「どういたしまして。」
私は満足顔で言う。
「じゃぁ、これは俺からな。」
そう言ってハルキが渡したのは両手サイズの袋だった。開けなくても中身が何かはわかってる。私は嬉々として袋を開ける。中身は
「かわいい~!!」
袋に入っているのは薄いピンクの色をしたテディベア。
首のところに同じ色のリボンが結ばれていて、“Happy Birthday”の文字の刻印と小さな蒼に白が混ざった色の石が付いていた。
「それ、オパールって言って10月の誕生石らしい。」
ハルキが笑顔で言う。
袋の中にはまだ何か入っていてそれは、小さなセーターが2枚だった。
2枚のセーターは黄色で右下に小さくそれぞれ数字が刺繍されていた。
「20と21?」
「セーターの数字が誕生日の日にちなんだと。20日がお前の誕生日ってわかってるんだけど、昔から21日に祝ってきたから、どっちか迷ってさ。まぁ、お前にまかせようと思ってどっちもプレゼントってことで。」
少し照れくさそうにするハルキ。
こんなかわいいもの20代の男が買うの勇気いっただろうに・・・
そんなハルキの優しさが伝わってくるプレゼント。
ハルキは誕生日にクマの何かをくれる。
それは、私が幼稚園のとき、いじめっ子にお気に入りだった熊の髪ゴムをとられたことがキッカケ。
私は昔からクマが好きだったから、本当に悲しくてずっと泣いていた。
するとハルキは、いじめっ子から髪ゴムを取り返してくれた。
でもその髪ゴムはボロボロになってて・・・
で、その年の誕生日、ハルキは私にクマの髪ゴムをプレゼントしてくれた。
毎年毎年、ぬいぐるみだったり、ぬいぐるみの写真集だったりクマのペンダントだったりと同じものがダブらないように気を使ってクマをくれる。
そんなまっすぐなハルキが私は好きだって胸を張って言える。
私は迷わず21日のセーターをテディベアに着せた。
「私も、自分の誕生日は今日だと思うんだよね!!ハルと一緒に祝うのが私とハルの誕生日♪」
本当にそう思い笑顔で言うとハルキも笑って俺もっと言う。
10月21日
それが私たちの誕生日。
今までも、そしてこれからも。
それから私たちはピザを食べ終えて、ケーキを食べた。
「お前、腕あげたな。」
「本当?」
「ああ、来年も作れよ!!」
おいしそうに食べてくれるハルキ。私は笑顔でOKサインを出す。
「まかしといて!!」
きっと私たちは来年もこうやって21日に向き合って誕生日を祝う。
ハルキはまたクマのプレゼントを用意してくれて、私はケーキを作って持っていく。
マフラーと手袋ってきたから次はセーターかな?
そんなことを思いながら私はケーキを食べる。
何年先までこの誕生日が続くかわからないけど、なんとなくいつまでも続くような気がする。
これから先、ずっと、ずっと・・・