会ってみたかっただけ、かもね
15分短編です
肩で息をしつつ、山を登る。俺の娘を自称する女性と共に。
何を言っているかわからないと思うが、俺もよくわかっていない。俺は、いわゆる引きこもりのデブなニートで、彼女いない歴=年齢で、もちろん童貞だし、結婚の予定なんて、あるはずもないのだが、ある日突然やってきたこの子は、未来の俺の娘なのだと言い張った。
その子が言うには、俺がじいさんから受け継いだ山に、“幻想の木”なる不思議な力を持つ木があって、その木はなんでも願いを叶えてくれるらしい。俺、その話聞いたことないんだけど?
「はぁ、はぁ、まだか?」
「もう少し・・・確かこの辺って聞いたんだけどなぁ」
娘は、とても俺の娘とは思えないほど、綺麗で可愛くて、本当に俺の子か怪しいと思ってしまうほどの美人さんだった。
娘という話が本当なら、すでに三十歳の俺にも、これからそう言う出会いがあるということなんだろうか。それは楽しみだ。
それにしても、この山、こんなに登るの大変だったのか。じいさんから受け継いでから、手入れも何もしていないし、そもそも山に登るなんて苦行、俺の人生の中で選択肢にすら上がらない。こんなことになるなら道を作っておくんだった。なんて、こんなこと誰が予想できるものか。
「あ、あった!!あったよ!お父さん!」
ずいぶん先を歩く娘がそう言うと、眼前に光り輝く一本の木が現れた。
「これ、が・・・?」
アニメや創作の世界でしか見たことのない、虹色に光り輝く美しい木。その木の実を娘は迷わず手に取った。
「え、それ取っちゃっていいのか?」
「この木の実に願いを込めて、ソレを大切に育てて、その花が咲くころに願いが叶うの」
そう言って娘は、実を額に当てて、目をつぶった。
久しぶりの山登りで疲れた体を癒そうと、俺は地面に座って、娘の様子を伺った。美人さんは何をしていても綺麗だなぁ。
見惚れていると、娘がぱっと目を開けた。
「これで良し」
そう言うと、娘は、その場に穴を掘り、実をそのまま植えた。
「じゃぁ、お父さん、これから毎日水やってね!」
「え、俺が水やるのか?ってか何お願いしたんだよ!」
「それは言えない。あと、この時空の、この時代のお父さんがこの実に水をあげて花を咲かせないと意味がないの。水やり、忘れないでね」
「え、毎日?」
「毎日!」
「うへぇ・・・・」
渋る俺の手を娘がギュウと握ってきた。
「お願い」
美人の下がり眉は、童貞には攻撃力が強い。娘とは言え、こんな美人に言い寄られたら、承諾しないわけにはいかない。俺が「わかった」と言うのを見て、安心したように笑顔を見せた娘は、腕時計型の機械を操作して、一瞬のうちに消えていった。
俺はまるで、狐に化かされたような心持ちだった。
初めは胡散臭いと思いつつ、自称“俺の娘”との約束を無碍にすることもできず、甲斐甲斐しく花に水をやっていくうちに、山登りのおかげか、どんどんと痩せ、体が引き締まって行った。
「有難いとは思うけど、まさか、これが願いとかじゃないよなぁ」
なんて言いつつ、約束通り、毎日水やりを続けた。
スクスクと成長していく不思議な植物は、だんだん大きくなって、蕾を付けた。ようやくこの花咲くところを見られるぞ、なんて思っていたら、偶然受けたその年の健康診断で、大きな癌が見つかった。すでにステージが3だか4だかまで進んでいたが、奇跡的にそれを治せる医者が日本にいて、手術で癌を取り除いてくれた。山登りを続けていたおかげでリハビリも難なく終えることが出来た。
まさに九死に一生を得たとはこのことだと感心していたが、退院したあとにあの山に登ると、案の定あの花は枯れていた。もしかすると、娘は俺の癌を治そうとしてくれたのかもしれない。
——んで、俺の美人な奥さんは?——
叶えられる願いって・・・一つだけですか?




