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付喪未満の神さまたちと、声聞きの探偵  作者:


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2


 久瀬怜は物に宿る『神』の声が聞こえる。


 八百万の神とはよく言ったもの。付喪神――というには少々年月が浅い『無機物』にも神は宿るのだ。

 そして齢18になろうという怜は、幼少の頃からそれらの声を聞き――紆余曲折の末、今年40になる藤原正臣と共に、表向き「探偵事務所」の看板を掲げて生活していた。


 とはいえ依頼はもっぱら行政から秘密裏にされることが多かった。原因不明の事故、病気、怪我。それらのことを解決できないか、というものばかりだった。


 なお藤原正臣は特に親戚というわけでもない。

 全くの赤の他人。二人が組むことになったのもまた紆余曲折あったのだが今は端折ろう。





 ――とにもかくにも不気味な青痣。

 その謎を突き止めるべく、二人が向かった先は、なんてことないマンションの一室だった。


 

「――それで? 朝起きたら、腕に青痣が浮かんでいたと」

「は、はい。そうなんです。寝る前には確かになくって……起きたら本当に、点々と青痣が……」

「心当たりはありませんか? たとえばペットを飼っていて噛み付かれたとか……」

「う、うちはペット禁止のマンションで……。……痣も、どこかにぶつけた、とかにしてはあまりにもサイズが小さいといいますか……」


 お茶請けに、と出された緑茶のペットボトルに口をつけて怜は考える。

 依頼人から紹介された女性。名前は山下綾子。至って普通の専業主婦。子供は1歳になる前の女の子が一人。夫婦仲も良好。妻側が言うのだから本当に良好のはず……と考えながら、怜は室内を見渡す。


「……失礼ですが、他の部屋を見せていただくことは? もちろん私一人ではなく、同伴のうえで」

「あっ、それは先に伺っていたので……あ、でも、あまり掃除ができていなくて汚いかもしれなくて……」

「そんなの構うものか。第一、お子さんはまだ一歳なのだろう? 綺麗な部屋でいるほうが難しいだろうよ」


 怜が顎を少ししゃくり、それを見た藤原も立ち上がる。二人が立ち上がったのを確認して、山下はリビングの扉を開けた。


 家自体はよくある新築分譲マンション。

 最近越してきたばかりだという2LDKの室内は、物が少なく、だからこそ掃除も行き届いている印象だった。


「……どうです? 聞こえますか?」


 長身の藤原が身を屈めて怜に耳打ちする。

 だが当の怜は、うぅん、と悩ましげな表情を浮かべるばかりだ。


「……あのなぁ、散々言っただろう。そう簡単に、こちらが聞こうとすれば軽々しく聞けるものでもないんだよ」

「……ですがねぇ……」

「君の指輪だってそうだっただろ。まったく、少しは待つことも覚えたらどうだ」


 訝しげな様子の怜が、藤原の薬指に光る指輪を顎でしゃくる。


「山下さんのいない今のうちに、と思ったんですがね」

「あの様子じゃあしばらく戻ってはこんだろ」


 部屋の主人である山下は、昼寝をしていたはずの娘の泣き声に呼ばれ、今は不在だ。

 壁の向こうからは泣き止まない赤子の声と、なにかしらの音楽が聞こえる。子守唄の類かもしれなかった。


「お前もあやしてきたらどうだ」

「俺にはそんな手管ありませんよ」


 娘が泣く前に部屋は全て回った。必要であれば、山下抜きで他の部屋に再度回る許可も得ている。なので二人は、なにか手がかりがないかと再び部屋を巡りだした。


「青痣、ですもんねぇ。危害を加えそうなものを見るのが効率いいかと思いますけど」

「そんなこと私だって理解しているさ。問題は、青痣程度の傷ならあらゆる物が付けられる、ということだ」


 腕組みをする怜と、そんな怜の手を煩わせることを厭うように、藤原がとある一室の扉を開ける。夫婦用のダブルベッドと、ベビーベッドの並ぶ、ごく普通の寝室だった。


「切り傷であるなら、傷のつき方から刃物の特定もできただろう。だが青痣となると……」

「しかも小さいときた。なかなか難しいですよ、小さい青痣こさえるなんて」


 悶々と考えを巡らせながら、二人はリビングに足を踏み入れる。

 ここも至って普通。妙な点はない。時たま、『神』から声が聞こえることはあれど、どれも差し障りのない言葉ばかりだった。


「なんかこう、聞けたらいいのにっていつも思いますよ。声の聞こえる神様から手がかりというか、そういうの」

「聞けるわけがないだろう。あちら側は私たちに手を貸す理由もないんだ」

「神ってケチですねぇ」


 ううむ、と赤ちゃん用のメリーを睨む怜に対して、藤原はつまらなさそうにリビングを見渡す。しばらくそうして、あ、となにか思い出したような声をあげた。


「怜さん。あそこ、ほら、まだ見てませんでしたよ」

「あそこ?」

「ベランダです。バルコニーとも言うのかな。行ってみましょうよ」


 リビング直結の広々としたバルコニー。快晴の今日、大量の子供服が、気持ちよさそうに風に揺られている。


「なにもないとは思うがなぁ」


 半信半疑でバルコニーに足を踏み入れた怜は――瞠目する。



『来やがったな人間! てめぇらも俺たちをいけすかねぇ服に挟むんだろ!?』



 ――洗濯バサミに悪態をつかれたからだ。

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