初めまして、私は勇者の…。
とある勇者が魔王を倒して故郷の村に帰る話です。ありきたりな設定です。
※誤字脱字報告ありがとうございました!
アスランが勇者に選ばれて魔王を倒すために旅立ち5年が経った。旅の途中で仲間と出会い協力し、とうとう魔王を倒す事が出来た。世界に平和が訪れたのだった。
「ついに倒したなアスラン!」
武闘家のダンがアスランの肩に手を置いた。
「ええ、我々の勝利です。」
魔法剣士のブルーノは眼鏡を押し上げながら満足気に微笑んだ。
「これで終わったのね…やったわねアスランっ!!」
魔術師の紅一点、リリアンはアスランに抱きついた。
「…あぁ! これで村に帰れるぞ。」
アスランはリリアンを抱きしめ返しながら喜びを噛み締めた。
◆◇◆
国王に感謝の言葉を言われ、街の人々から盛大な感謝と歓迎を受けたアスラン一行はアスランの故郷である村を目指した。
「楽しみだな、アスランの村に行くの!」
「俺の故郷の村な。俺が作った村みたいにいうなよ!」
ダンの言葉に笑いながらアスランはツッコミを入れた。
アスランは幼い頃から困っている人を放って置けない性格だった。人助けやボランティア活動を積極的に行い、誰にでも気さくに優しく接する少年として評判が良かった。勇者に選ばれた時も、勇者に相応しい性格だからと皆が納得していた。そんなアスランは旅の途中でも困っている人を助ける為に寄り道をしたり、資金を使う事も多々あった。しかし仲間達は一切アスランを責めなかった。むしろアスランを積極的に手伝い共に助けてきた。
「君の幼馴染にも会えるんですよね?」
「やっと皆にアリーを紹介できるな!」
ブルーノの言葉にアスランは嬉しそうに頷いた。アスランには幼馴染のアリーという少女がいた。アスランの傍にいつも居て、アスランと共に人助けをしてきた仲間のような存在だった。実はアスランはアリーに恋心を抱いていた。もし勇者として旅立たなければいずれアリーに告白して結婚していたかもしれない。
「…なんか、複雑。」
心なしか拗ねた様子のリリアンにアスランは苦笑いした。リリアンは共に魔王を倒した仲間であり、アスランの恋人だ。共に過ごしていくうちにリリアンを好きになった。魔王との決戦前にお互いに想いを告げて恋人になった。リリアンからすればアスランの女性の幼馴染は面白くないのだろう。
「きっと仲良くなれるよ。俺はアリーに、リリアンは自慢の彼女なんだって紹介したいよ。」
アリーへの恋心はもう過去のものであり、アスランの最愛はリリアンだ。アスランの言葉にリリアンも安心したように頷き、ダンもブルーノも微笑ましそうに2人を見た。
「アリーも、村の皆も元気にしてるかな?」
◇◆◇
村に到着すると、アスラン達は盛大な歓迎を受けた。久しぶりに見る懐かしい人達とアスランは笑顔で言葉を交わし合った。アスランの人気ぶりにリリアン達は本当にアスランは色んな人達から愛されているなと再確認した。
「…っ!? も、もしかしてアリーか!!?」
村の人達と話をし、アリーの家に向かおうとした道の途中でアリーと思わしき女性の姿を発見したアスランが大声で話しかけた。女性がアスランに振り返ると、少し驚いた様子で立ち止まった。女性の顔、佇まいは記憶にある姿より大人びたものの、間違いなく幼馴染のアリーだと確信した。
「久しぶりだなアリー!!」
アスランは嬉しそうにアリーに駆け寄った。アスランの後を追うように仲間達も小走りに近づいた。
「へぇ~、お前がアリーなんだな!」
「初めましてアリーさん、お会い出来て嬉しいです。」
「…初めまして、私達はアスランの仲間よ。貴女のことはアスランから聞いているわ。」
ダンとブルーノがアリーに声をかけた後、リリアンは面白くなさそうな様子を隠せずに挨拶をした。アリーはリリアンを少し見た後アスランを見た。
「…久しぶり、アスラン。」
「ははっ! すぐに分かって良かったよ。皆、改めて紹介するよ。こいつは…。」
「皆さん初めまして。私は勇者アスランの元下僕のアリーです。」
アスランの言葉を遮りアリーはお辞儀をしながら自己紹介をした。アリーの言葉に、アスランと3人は目を見開き固まった。
「…っ、あ、あはは! 中々面白い事を言うなお前の幼馴染はっ!」
「いえいえ、私なんか元下僕ですよ。」
ダンが態とらしく笑いながら場の空気を変えようとしたが、アリーの言葉はそれを許さなかった。
「ちょ、なにを言ってるんだよアリー!! そういう冗談はやめてくれ。」
「…あぁ、それならこう言えば良い? 私はアスランの幼馴染…という名の使いっ走りです、って。」
アリーは無表情でアスランを見た。アリーが冗談を言っている訳ではなく、本気で言っているのだとアスラン達は理解し困惑した。
「アスランは村の人達からとても愛されています。誰にでも優しくて困っている人を放っておけずに助けてきたから。でも、私にだけは優しくないし私は彼に困らされてきました。」
アリーは無表情のまま、淡々と過去の話を話し出した。
道端で座り込んでいるお婆さんがいた。歩けなくなったらしく、アスランはお婆さんを背負った。アリーはお婆さんの荷物を運ぶように言われて運んだ。アリーは途中で躓いて転んでしまい、荷物を落としてしまった。荷物は何ともなかったが、お婆さんを無事に家まで送り届けた後にアスランはアリーを睨みつけた。
「アリー、もっと責任を持って運んでくれよ。」
アリーは誕生日に両親から欲しかったリボンを貰った。アリーが髪につけてアスランと外に出かけていた時、迷子になった小さな少女と出会った。泣いていた少女はアスランに話しかけられ落ち着き始めた頃、アリーのリボンを物欲しそうに見つめてきた。アスランはアリーに両親が見つかるまでリボンを貸してあげて欲しいと言った。アリーは渋々リボンを渡すと少女は喜んだ。その後両親が見つかり、アリーがリボンを返して貰おうとすると少女は悲しそうな顔をした。アスランはそんな少女にリボンをあげると勝手に言ったのだ。
「待ってよアスラン、それは私が誕生日に貰ったリボンだよ?!」
「リボンなんかまた買って貰えばいいだろ? 何なら俺がプレゼントしてやるからさ!」
アリー達の会話を聞いて少女の両親が遠慮した。またリボンは買ってあげると少女に言って、リボンはアリーのもとに戻ってきた。少女達と別れるとアスランはアリーに言った。
「アリー、もっと優しくしてあげなよ。」
誰かが困っているとアリーはアスランに呼び出された。家で過ごしたくても、アスランは村のパトロールをするぞと言ってアリーを無理やり連れ出した。アスランは村の人達に親切にしお礼を言われた。アリーはアスランにこき使われて人助けを手伝った。だが村の人にも、そしてアスランにもお礼を言われる事はなかった。アスランに至っては、アリーの行いに対してダメ出しする事もあった。アリーは両親に相談したが、人助けが間違っていると言うのか、と両親はアスランを擁護してアリーを非難した。
「…アスランのする事は誰かの為だった。その行いはとても立派で素晴らしいのだろうけど、私はとても辛かったよ。」
「っ、ア、アリーごめんっ! その、俺はアリーを傷付けるつもりなんか全くなくて、その…。」
アスランはアリーの言葉にショックを受けながらも必死に言葉を紡ごうとした。だが、何といえばいいのか分からないようだ。
「ア、アスランは幼馴染の貴女を頼りにして、甘えていたのよ! アスランが意地悪する人じゃないって貴女なら分かるでしょ?」
リリアンがアスランを庇うように声を出した。アリーはリリアンに質問をした。
「貴女は、アスランが好きなのですか?」
「…わ、私はアスランの彼女よ。」
「ふふっ、やっぱりそうですか。」
アリーは予想通りだと言わんばかりの笑みを浮かべた。
「アスランは性格だけじゃなくて、見ての通り外見も良いのですっごくモテたんですよ。だから幼馴染と言われる立場で、パトロールという名目で彼の傍に居た私は村の女の子達から嫉妬されました。睨まれるし陰口を言われるし…さっきの貴女みたいに露骨に嫌な態度を取られました。もう慣れてきましたけど、昔は家に帰って泣いた事もあるんですよ、本当に辛かった…。」
アリーに睨まれ、リリアンは気不味そうな顔をした。
「“アスランの幼馴染で羨ましい”っていつも言われました。でも、私は他の人達が羨ましくて仕方がなかった。アスランに助けられて、優しくされる立場になりたかった。アスランの事なんて好きじゃないのに、恋敵みたいに思われて嫌われる立場が嫌で嫌で仕方なかったんです。」
アリーの言葉に4人は何も言える言葉がなく沈黙した。アスランは顔色を悪くさせて、呆然とアリーを見続けた。
「そんなある日、アスランは勇者に選ばれた。私の幼馴染が勇者になった…その時思ったんです。勇者の幼馴染が勇者を悪く思うなんて、勇者の人助けを迷惑に思う筈なんてないって。だから私は勇者アスランの幼馴染ではなくて、下僕みたいな存在だったんだろうなと分かったんです。下僕が主人を良く思うとは限らないし、主人も下僕には優しくないでしょう?」
「ち、違う! そんな事ないっ!! アリーは俺の大切な幼馴染だ!! 誓って下僕なんかじゃないっ!! ほ、本当にごめん。アリーが迷惑がっていたなんて、そんなにも傷ついていたなんて知らなかったんだよっ!!」
アリーの言葉を必死に否定して謝るアスラン。リリアン達3人はそんなアスランを痛ましそうに見た。
「…謝ってくれるならお願いがあるの。アスランの本心なんてもうどうでもいいから、私を幼馴染だなんて二度と言葉にしないで。」
「っ…、そ、そんな…。」
昔恋心を抱き、今でも親愛があった幼馴染からの絶縁宣言に、アスランはショックで愕然とした。
「ま、待ってあげて下さい! 2人の関係に部外者の僕らが口を挟むのが良いとは思ってませんが、もっと落ち着ける場所でアスランと話をしませんか?」
「…私もね、恋人が出来たの。バロウの事知ってる?」
「…バ、ロウ?」
ブルーノの言葉に反応しないでアリーが口に出した恋人の名前に、ショックを受けながらもアスランは何処かで聞いた事があると反応した。
「…そいつって、3年前の村で嫌われていたヤツじゃないか?」
ダンの言葉にアスランは思い出した。ある村で人の悪口を言いまくり、人が困っていても助けずに傍観する、外見は悪くないが評判の悪い男バロウが居た。バロウはアスラン達に初対面から嫌みな態度で絡んできた。アスラン達は適当にあしらったが、アスランの何かが気に入らなかったようで喧嘩を売ってきた。バロウはそこそこ強かったが魔王を倒すべく旅をしてきたアスランの敵ではなかったのだ。
「バロウはね、アスランの故郷であるこの村を調べてやって来たの。アスランの事が気に入らなくてアスランの悪口を言いふらしに来たんだって。でも、皆相手にしなくて逆にバロウは嫌われちゃったわ、本当馬鹿だよね。」
馬鹿だ、と言いつつアリーはおかしそうに、嬉しそうに微笑みながら話した。
「でもね、私はバロウとの話が楽しかった。最初は緊張したけどアスランの話で盛り上がってね。バロウは態度悪いし嫌われ者だけど、私の事は大切にしてくれるんだよ。私ね、アスランが居なくなってもアスランの事好きな子から嫌みをずっと言われてたんだ。そうしたらバロウが“そもそもお前らはブスなんだから脈無いだろ?”だって!! 口悪いでしょう?」
頬をほんのりと赤く染めたアリーはとても楽しそうだ。アスラン達は信じられないといった様子でアリーを見た。
「それでさ、そろそろ結婚しようって話になったの。でも私はこんな村に居たくないし、バロウと2人で遠い街で暮らす事にしたの。両親には反対されたけど、もうあんな人達どうでもいいしね! 今日は最低限の礼儀として挨拶をしに来たの。」
両親をどうでもいい、とあっさり言い放つアリーはアスランの幼馴染だったアリーと全くの別人に見えた。
「っ、ま、待ってくれアリー! あ、あいつは、バロウは碌なやつじゃないんだっ! だから…」
「バロウのお陰で私は変われた。それに、初めて心からアスランに感謝出来るの。」
どんなにアリーに嫌われても、アスランにとっては大切な幼馴染だ。そんなアリーが嫌われ者のバロウと結ばれて幸せになんてなれる筈がない。それに両親と不仲になるだなんて良い筈がなかった。何とかしてアリーを引き留めようとしたアスランの言葉をアリーは遮った。
「…改めまして、勇者アスランと皆さん。この世界を救って下さって、本当にありがとうございました! お陰で私は大切な人と結ばれる事が出来ます。」
アリーは4人頭を下げて、幸せそうな笑みを浮かべた。
「バロウも同じく感謝してます。彼、前に言ってました。“アスランはいけ好かない偽善者だがアリーと会うキッカケをくれたし、魔王をブチのめしてくれたからアリーと今後も一緒に居られる…絶対礼なんか言わないけどな!”って言ったんです。私が伝えたって知ったら彼怒るだろうな〜、ふふっ! それじゃあ、失礼します。」
楽しそうに言うと、アリーは背を向けて歩き出した。後に残されたアスラン達は遠くなるアリーの姿を何も言わずに見送った…。
全員から好かれる人も、嫌われる人もいないという話です。アスランをざまぁみろと思った、可哀想だと思ったなど様々な意見があると思いますが、幼馴染という関係に甘えたアスランは“親しき仲にも礼儀あり”という言葉を疎かにしました。アリーは人助け自体は良い事だと思ってますが称賛を受けるのはアスランだけで、アリーは感謝されずに文句を言われ、私物を奪われそうになる…時間と労力を捧げて得られたのは苦しみだけでした。アリーは誰からも好かれる人を嫌いになってしまい、共感も賛同も得られない状況の中でアスランを嫌うバロウに出会いました。そんな感じです 笑
ここまで読んで下さりありがとうございました!!
※誤字脱字報告ありがとうございました!「アリー」を「マリー」…間違えすぎですいません!




