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生存とはなんだ?

俺は広い草原に一人立っていた。

周りには草しかなく。

木や山や動物・人もいない。


突然天からラッパの音が聞こえる。

天を見ると、沢山の羽の生えた裸の男女が、ラッパを吹いている。

あれはいったい何なんだろう。


そう思った瞬間、

夢から覚めた。


8日目

「生存とはなんだ?」

というメッセージが届く。

昨日同様これ以外には、何もない。

ただこれだけのメッセージ。


生存と生きるとは、違うのだろうか?

漢字的には、

生と在る。

生きて在る。

ただの生きるではない。


そうか……

生存確認という場合、

その人が息をしているか?心臓は動いているか?

ということが重要になる。

逆に生きているのかと問うた時には、

あの人の思想は今も生きているという文脈が使える。

つまり、

本当に生存反応がある必要はない。


しかしたとえば植物状態だとするならば、生存確認は取れる。

しかしそれが生きているかというと、

生きてはいるが同時に死んでいると取る人もいる。


生きると生存では、同じように見えて、ここまで感じ方が異なるのか。


時計を見ると午前6時30分。

いつものように、

父と母は朝ご飯を食べている。


今日もテレビがついていない。


「おはよう」

と俺が言うと、

二人ともニコッと笑った。


俺は二人を横目で確認する。

父さんは生きているのか。

それとも生存しているのか。


会話をする。

たしかに生きている感じはする。

顔を見る。

生命力がある気配がする。

たしかに生存している。


母さんも同じだ。


「どうした?そんなジロジロ見て。あれか……、なんか人相でも習ったか?」

と父さんは言った。


「いや、そういうのではないのだけど」

と俺は言った。


「母さんには見とれてたのよね」

と母さんは言った。


「まぁ母さんは美人だからな」

と父さんは言った。


「そういうのじゃないんだけど」

と俺は言った。


「なに?美人じゃないっていうの」

と母さんは言った。


「バカ野郎。母さんは美人じゃねぇか」

と父さんは言った。


「まぁ美人だけど、そういう意味で見てたんじゃなくって、二人とも生きてるのかなって」

と俺は言った。


「なに言ってるの?なに?怖い話とか見すぎたの?」

と母さんは言った。


「そうだな、お前最近変だよな。どうした?父さんに言ってみろ」

と父さんは言った。


俺は口ごもった。

父さんに言ってみろと言ったところで、正しい回答は期待できない。

どうせ。

飯食って、仕事して、寝ろ。

くらいだろう。

俺はそんな答えは望んでいない。


あぁそうか……。

俺は答えを誰かに出してほしいと思っている訳じゃないんだ。

自分で答えを導き出したいんだ。

その事がわかった。


「いや……。ほら昨日さ、死ってのが、昔に比べて、深刻じゃなくなったっていうか、ドラマチックじゃなくなった感があったからさ」

と俺は言った。


「そういうのはあるわね」

と母さんは言った。


「たしかに、さすが大学にいっただけはある。賢い」

と父さんは言った。


「いや~それほどでもないよ」

と俺は言った。


「あんたは賢いよ。私より賢い」

と母さんは言った。


「そうだぞ。きっと何かになれるから、諦めんな」

と父さんは言った。


父さんの言葉が、胸にチクチク感じた。

何かになれるという言葉が、

何ものでもないという裏返しに聞こえたのだ。


そうか……、

俺はシステム的には生存している。

そして多分誰が見ても、生きてはいる。

しかし、

俺的には生きてはいない。

たぶん、

そういう状態にいるのではないだろうか。


生きたまま、

死んでいる。


死んだまま、

生きている。


半死半生。

たぶん、

そんな曖昧な状態にどっぷりと浸かっているのではなかろうか。


俺は食器を洗い、スタンドに向かう。

今日はスマホを家に忘れた。

スマホを忘れたことなんて、初めてだった。

まぁいい。

スマホを使うこともない。

ただ診断メッセージの確認に使うくらいだ。


今日は雨だった。

風も冷たく、心を切り裂くような雨だった。

手が凍えた。

あかぎれがひどくならないように、昔ながらの軟膏を塗った。


働いても良くならない生活で、じっと自分の手を見つめた詩人がいた。


俺もじっと手を見つめた。

労働者の手だった。

昔、

父親の手を見て思った。

これが男の手というものかと。

その手は労働にまみれ、

カチカチで、頑丈で、グローブのようにたくましくもあった。

成人して大学の就職活動中に上場企業の社長の手を見た。

父親の手とまるで違った。

手入れが行き届き、爪は輝いていた。

これが富裕層の手かと思った。


あれから数十年。

俺の手は、

父親の手そっくりになった。


俺はふと今朝見た夢の事を思い出した。

あれは何だったのか?

俺は救われるのか。

そんな事を考えた。


うん?

俺は救われたいのか。

誰に?

どうやって?

俺は誰かに助けてくれと言ったのか?

えっ?

なにから助けて欲しいんだ?

俺は地獄にいるわけじゃない。

普通に生活している。

救われるような対象じゃないはずだ。


なのに、

俺は助けて欲しいのか?

なぜ?

俺は苦しんでいるのか。

わからない。

わからない。

わからない。


自分という存在があまりにも空虚で、

なにが真実で、なにが妄想なのかわからない。


俺の目を、眩しい光が照らした。


スタンドに一台の黄色いオープンカーが入ってきた。


中には飛行服のようなつなぎを着た老人がいた。


雨に濡れ、服がべしょべしょだった。


「お客さん。大丈夫ですか?」

と俺は言った。


「ホロが壊れてしまってな。この有様だ」

と老人は言った。


「それはお気の毒に、暖かいものでも買ってきましょうか」

と俺は言った。


「あぁ……すまんな。暖かいおしるこでもあれば」

と老人は言った。


「わかりました」

と俺は言い、自動販売機でおしるこを買い、老人に差し出した。


「すまんな。これ代金だ。残りはチップだ」

と老人は言い、1万円を手渡した。


「えっ、こんなに?」

と俺は言った。


「気にするな。ワシのようにかっこいい車に乗ってても、雨に打たれたらこのざまだ。でもお前のように、そんなワシにおしるこの一杯を差し出すと、チップで1万円だ。わかるか?」

と老人は言った。


「はぁ……」

と俺は言った。


「ようわな。何が正解かわからん。若者よエンジョイじゃ」

と老人は言い、車は走り去った。


ガソリンも入れずに……。


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