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その街は本当に機能しているのか?

4日目

「その街は本当に機能しているのか?」

というメッセージが届く。

昨日同様、これ以外には何もない。

ただこれだけのメッセージ。


鏡で顔を見る。

少しやつれた顔をしている。

考え続けたせいだろうか。

気持ち……。

げそっと頬の肉が落ちたような気がした。


眉間のしわも深くなった。

俺は手でしわをこすり、伸ばそうとする。

目に凝りを感じる。

少し疲れているな。

俺はそう感じた。


今回のメッセージは、

あまり重要ではないもののように感じた。


時計を見る。午前6時30分。

いつものように、

父と母は朝ご飯を食べている。


今日もテレビがついていない。


俺は「おはよう」と両親に声をかけ、

食卓に座る。

冷えた鮭と納豆。

ご飯は自分でよそう。


いつもにぎやかな食卓は、

単にテレビのノイズだったのだろう。

外から小鳥の声が聞こえる。

これはスズメなのか。


俺は両親と「おはよう」としか会話をしなかった。


俺は気が付いた。

両親とはそもそも接点がなく、

テレビという媒体を使わないと、話をすることがなかったのだと。


そんな関係……。

必要なのか?


俺は心の中に凍るような冷たい自分を感じた。

背筋がぞっとするのと同時に、

到達点のような気がして、少しだけ心地がよかった。


スタンドに行く支度をしながら、俺はメッセージを頭の中で繰り返した。

「その街は本当に機能しているのか?」


俺はふと気が付いた。

「その街」という言葉が「その家」だったら、理解しやすい。


昨日からテレビを消した。

そうすると、会話の接点がなくなることに気が付いた。

そして、必要あるのかというところに行きついた。


これが意味することは何だ。


俺はスタンドに着いた。

俺がスタンドの窓ガラスをふいていると、朝一番で会長さんが店にやってきた。


入院中という割に、元気そうだった。

俺と数分間話をし、最後にこう言った。

「世の中はシンプルだよ。あまり考え詰めるな」


30分後。

会長の会社の車がやってきた。

そこには喪服姿の社員の人がいた。

俺が

「会長さん、退院されたのですね。さきほど元気そうな顔を見せに来てくれました」

というと、

青ざめた顔で、

「実は会長……今朝、お亡くなりになられたのです」

と言った。


俺は言葉を失った。


「世の中はシンプルだよ。あまり考え詰めるな」


メッセージをスマホのメモに保存した。


会長はなぜ、

俺のところに来てくれたのだろうか。

ただの雑談相手の俺に……。


なぜだか……

涙がボロボロ溢れてきた。


この感情は何なんだろうか。

答えに困った。


俺はスマホを見る。

そこには、

「その街は本当に機能しているのか?」

「世の中はシンプルだよ。あまり考え詰めるな」

という重要なメッセージがあった。


まず『その街は』というのは、俺の住んでいる街のことだろう。

これ以外に、イメージができない。

いや……、

少し待てよ。

これは比喩的なものなのだろうか。

街とは社会のつながりを示す。

つまり、人と人とのコミュニケーションのことではないだろうか。

だとするなら、

『本当に機能している』

は……。

コミュニケーションが円滑に進んでいるか?

ということではないだろうか。


これだと家のことでも明らかだ。

テレビという刺激がなければ、話せないというのは、

コミュニケーションが円滑に進んでいないという証拠だ。


俺は父のこと、母のことをよく知っているのか?

趣味は、好きな食べ物は?

毎日顔を見ているのに、ほとんど理解していない。


会長さんのことは理解していたのか。

いや……。なにも理解していない。


だから、最後の

「世の中はシンプルだよ。あまり考え詰めるな」

というメッセージの意味がわからないし、

会長さんが俺に伝えた意図もわからないんだ。


昼になり、俺は遅い昼休憩を取る。

カップ焼きそばにマヨネーズをかける。

ただ今日は少しだけいつもと違う。

昨晩、常連さんがパチンコの景品で勝ったからと、

イカフライのおつまみをくれた。

俺はそのフライをカップ焼きそばに混ぜる。

だれかがそうすると美味いと言っていたのを思い出したからだ。


30年間変わらなかったメニューを少しアレンジする。

少しドキドキする。

こんなことでドキドキするくらいだ。

毎日、いろんなメニューを食べる人は、どんなにドキドキしていることだろう。

俺はそんなことを考えた。


肝心の味は、美味かった。

たしかに、美味いというだけはあると思った。

俺は袋をマスキングテープで止め、スタンドの冷蔵庫にマヨネーズと共に入れる。

賞味期限を見ながら、少しずつ特別メニューとして食べよう。

そう思った。


夕方を過ぎたころ、

会長の会社の方が訪れた。

そして一言、

「会長はなにか言ってましたか?」

と尋ねられた。


「世の中はシンプルだよ。あまり考え詰めるな」

と俺は伝えた。


それを聞くと、深くお辞儀をして、その人は帰っていった。


様子を見ていたオーナーはこう言った。

「あると思われていた遺言状がなくって、いまスゴイ大騒ぎになってるよ」


「あの言葉にヒントでもあるのでしょうか」

と俺は言った。


「うん。どうだろうな。最後の言葉ってのは、その人の真理を表すっていうから、その会長さんの真理なんだろう」

とオーナーは言った。


「……というと、会長さんはシンプルな思考を基本としていたということなのでしょうか?」

と俺は言った。


「そうなのかもしれないな」

とオーナーは腕を組んだ。


俺は昔、バーで隣の席に座った芸術家の男のことを思い出した。

彼は自分の作品を俺に見せ、それぞれのタイトルを語った。


俺が

「深い意味があるんだな」

と言うと、


彼は、

「こういうタイトルをつけておくと、人は勝手に意味を解釈し、深いもののように感じるんだよ」

と笑った。


俺はその時、そんなものなのか。実は深い意味があるのに、それを表現しないだけなのではと思ったが、もしかすると、あまり考え詰めるなというのが真なのではと、少しだけ思った。


「あんがい、何もなかったりして」

と俺が言うと、


「事実は小説より奇なりというだろ」

とオーナーは笑った。


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