君はプログラミング言語によりできたNPCではないのか?
都内某所―――
俺はFランク大学に通う大学4年生。
高校時代の悪友とひさしぶりに飲んでいる。
「……しかし、あの時の佐伯の顔ったらなかったよな」
と俺は言った。
「本当にウケるわ。椅子に座ったらマヨネーズがどろって出たんだもんな」
と悪友は言った。
「俺、笑いこらえるのムリだったし」
と俺は言った。
「……んで、すぐ先生にチクられて、お前、反省文書かされてたもんな」
と悪友は言った。
「ユーモアってのがわからない大人はダメだよな」
と俺は言った。
「お前のは悪質すぎるんだよ。そういえば、お前、なんか金儲けするとか言ってなかった?」
と悪友は言った。
「あぁ、あれな。もうやめようと思ってるんだよ。稼げねぇから」
と俺は言った。
「なんだっけ?」
と悪友は言った。
「本当の自分探し診断みたいなサイトを作って、毎日メッセージを送るんだ」
と俺は言った。
「そんなの稼げるの?」
と悪友は言った。
「メールアドレスを収集して、業者に売ろうと思ったんだけど、あんまりメールアドレスが収集できなくってさ」
と俺は言った。
「だからやめるんだ」
と悪友は言った。
「そうそう。もともとメッセージも、適当にウェブ見てた時に集めた言葉の寄せ集めだからな」
と俺は言った。
「そんな適当なんだ」
と悪友は言った。
「もちろん。プログラムは市販の奴使って、内容考えるのは20分もかかってないんじゃないかな」
と俺は言った。
「うわ。それ、ファンが聞いたらキレるぞ」
と悪友は言った。
「だから言っただろ。そんなにメルアドが取れなかったって」
と俺は言った。
「しかし、ひどい奴だな。でもさ。プログラムってどんなの? 見せてくんない?」
と悪友は言った。
「いいぞ。見るか」
と俺は言い、ノートパソコンを開く。
あれ……、なんだろ。このファイル。
こんなファイル入れた記憶がないんだけどな。
「なになに? なんかエロいファイルでもあったの?」
と悪友は言った。
「いや……、入れた記憶のないファイルがあるんだが」
と俺は言った。
「開いてみろよ」
と悪友は言った。
「おぉ、わかった」
と俺はファイルを開く。
ファイルを開けると、それは文字化けしていた。
(うぃーん)
急にノートパソコンが唸り声をあげる。
「えっ。なに? やばいやつ?」
と悪友は言った。
(ぷしゅーん)
ノートパソコンはフリーズし、動かなくなった。
結局、電源も入らず、俺のノートパソコンは動かなくなった。
分割払いがまだ残っているのに……。
……
「君はプログラミング言語によりできたNPCではないのか?」
というメッセージが届く。
昨日同様、これ以外には何もない。
ただこれだけのメッセージ。
プログラミング言語によりできたNPC
とは、
どういう事だろうか。
NPC
つまりノンプレイヤーキャラクター。
俺がNPC?
いや……、
それはないだろう。
俺は学生の頃やったRPGを思い出す。
NPCとは、
「いらっしゃい。ここは武器屋です。何がご入用ですか?」
とか、
聞くキャラクターだ。
……あれ、
俺はガソリンスタンドではNPCでは?
・オイル交換しますか?
・ガソリン満タンですか?
・レギュラーですか? ハイオクですか?
たしかに、挙動的にはNPCだ。
でも、
俺がガソリンスタンドで、
「いらっしゃい。ポテト食うか?」
と言えば、成立するか?
どう考えてもしないだろ。
つまりNPCの振る舞いというのは、究極的な完成形なのだ。
そして俺も間違ってはいない。
ドラッガーが
「よく管理された工場は、退屈である。危機は予測され、対処の方法はルーティン化されている。そのため、劇的なことは何も起こらない」
と言っている。
俺の仕事はマネジメント的にも正しい。
もう一度メッセージを読む。
「君はプログラミング言語によりできたNPCではないのか?」
そうか……、
NPCが悪いとは書かれていないんだ。
ただ君はNPCなのでは?
という問いがあるだけだ。
時計を見ると午前6時30分。
いつものように、
父と母は朝ご飯を食べている。
今日もテレビがついていない。
「おはよう」
と俺が言うと、
二人ともニコッと笑った。
俺は食事を済ませ、
スタンドに向かう。
俺は就活を行っていた頃のことを思い出していた。
俺は就職氷河期を生きた。
氷河期はきっととても過酷だったに違いない。
「氷河期が始まった」
この一文で恐竜たちが絶滅したように、
長年の努力も、たった一文で破壊され尽くす。
高校時代、学校一位の成績だった同級生も、
ファストフードでバイトをしていた。
環境の変化というのは、
とても過酷なものなのだ。
仮に上場企業に勤めていようとも、
不正会計、リストラ、倒産、業務改善命令、破産。
これらの文脈が君の会社に現れた時、
一気に奈落の底へと突き落とされるかもしれない。
人は、その恐ろしさをニュースを見ながら、日々感じている。
これは自分ではない。良かった。今日も生き延びられたと。
ある意味、ニュースとは、生き延びられた人間を安堵させるための道具なのかもしれない。
ただある意味、
次はお前だと、喉元にナイフを突き立てる道具なのかもしれない。
世界は青空のようで、実は曇天で、
曇天のようで、その後ろには青空が広がる。
つまり雲にしても、嵐にしても、世界というキャンバスにかかるレイヤーなのだ。
そして、人々は、そのレイヤーにいつの時代も恐怖する。
恐竜たちを滅ぼした氷河期さえも、ただのレイヤーだ。
システム的に言えば、変数。
正常なシステムも、一つの変数が入ることでクラッシュする。
その現実を俺は誰よりも知っている。
ガソリンスタンドの上でカラスが鳴いている。
きっとカラスは、
1000年前も、
バブル期も、
そして今も、
同じように鳴いているのだろう。
カーなのか。
クァーなのか。
グゥアーなのか。
その時々の聞き手により表現は異なるだろうが……、
同じように鳴いているのだろう。




