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無駄ではない自分探し

人生に無駄な事などあるのだろうか?

この答えがYesなら、俺は落伍者であるし、

もし答えがNoなら、俺は人生をまんざらじゃなかったと思える。


だから俺は『人生に無駄な事などないのだ』と、

ハッキリと言いたい。

たとえ、誰に否定されようとも……。


俺は就職氷河期を経験した。

一流大学を出ても、就職が困難だった時代。

平均レベルの大学生だった俺に……。

輝かしい未来など描けなかった。


「少年よ大志を抱け」


お金や私欲のためでもなく、

名声のためでもなく……。

ただ人としてあるべき姿であろうとする大志を抱けという、

クラーク博士の言葉だ。


学生時代、この言葉を胸に抱き、受験戦争を戦った。

結果は平均レベルの大学だった。


最終学歴が中学で、

一介の肉体労働者だった俺の父親は、

「俺の息子がたいしたものだ」

と喜んだ。


お世辞ではなかった。

心からのものだった。


……就職が決まらない俺に、

母はこう言った。

「せっかく大学まで出させてもらってだらしがない」


小学、中学、高校、大学。

16年の積み上げが、ひとつの言葉。

『だらしがない』という言葉で、破壊された。


何者かになりたい自分と、

何者にもなれない自分が、

一つの容器からだの中に同居し、

それは一つの電話ボックスの中に、

異なる思想を持って同じ顔と容姿を持つ人物が、

押し込められたような不愉快さがあった。

そうして、外からの監視と、

内部にある多重人格性に気付かれたくない俺がいた。


家にお金を入れるため、

俺はガソリンスタンドで毎日バイトをした。


父親と同じ肉体労働をしようと思ったが、

父親に止められた。


「お前が辛いだけだからやめとけ」

と……。


そうして俺の自分探しが始まった。


ちょうどその頃、たまたま見たフリーペーパーに禅寺の体験の案内があった。

俺はその禅寺に座禅を組みに行くことにした。


5冊パックの大学ノートを購入し、表紙に禅寺体験と書いた。

禅寺の記事をスクラップし糊で貼り付けた。

禅寺体験当日。

同じくらいの年代の男女がたくさん集った。


みんな新しい体験にワクワクしていた。

座禅をすると、なにかスゴイ事が起こるに違いない。

そんな様子だった。


しーんと静まり返った寺の中で、俺たちは座禅を組んだ。

姿勢がくずれると、警策を肩に打ちつけられる。

一瞬で気持ちがピシッとする。


座禅のあと。

「なんかすごかったね」

という声が聞こえた。


俺も同じように感じた。

なにかが変わるのではないかという期待の気持ちがあった。

その時の体験を、大学ノートに書き留めた。


それから俺は計30回、座禅を組みに行った。

始めの頃のメンバーは5回目で完全にいなくなり、

すぐに最古参になった。

気分はよかったが、同時に悟れないという証であるようにも感じた。


30回目の日。俺は和尚に尋ねた。

「修行はいつになったら終わるのですか」

と、

和尚は言った。

「日々が修行だ」

と。


俺は座禅に通う理由が見つけられなくなった。


……


次に俺がやり始めたのは、読書だ。

毎週図書館に通い、片っ端から、ビジネス本を読んだ。

大学ノートに、読書感想文を書いた。

1日1冊読むことをノルマにした。

30枚つづりのノートだったので、

1冊に60の感想文を書いた。

知らない事を知る喜びがあった。

3年間続けた。

1095冊。

ノートは19冊を超えた。


俺は多量の知識があれば、どこでもやっていけると、とある企業の面接を受けた。

趣味は読書(3年間で1095冊読みました)

と履歴書に書いた。


面接でなにか聞かれるだろうと期待したが、何も聞かれなかった。

ただ面接官に

「なんで就職しなかったの?」

と聞かれ、

「面接受けたのだけど、落ちました」

と答えたら。


「だろうね」


と言われた。


圧迫面接だと思い、負けまいと。

「ビジネス本を3年間で1095冊読みました」

と俺は言った。

「それで?」

と返された。


俺は答えが返せなかった。

「がんばったでしょ」

とでも言いたかったのか。

「3年間で1095冊。すごいね」

とでも言ってもらいたかったのか。


俺は呼吸することさえ苦しく感じた。


当然

『今回は残念ながら……』

と来た。

今回はという前提は、次回を感じさせるが、

本当に次回などあるのだろうか?


俺は図書カードを引き出しの奥にしまった。


……

俺は天職というものについて考え始めた。

人には天職というものがあり、その仕事をすると、

楽しくって、すべてが上手く行くと何かの話で聞いた。


そうか。俺は天職についていないだけかもしれない。


まずガソリンスタンドが天職ではないかなと考えた。

車を誘導し、

ガソリンを入れ、

灰皿の交換をし、

窓を拭き、

たまに洗車をする。


楽しいと思ったことがなかった。

それに、

全てが上手くいくのであれば、苦悩などあるはずがない。

これは天職ではないと判断した。


毎週就職情報誌を買っては、読み込んだ。

経験者のみ。

経験者優遇。

アットホームな職場。


面接を受けに行くも、

天職だとは感じられなかった。

楽しそうに思えなかった。


3年間で面接に行った会社は100社を超えた。


俺は天職など就職情報誌には載っていないのだと、

そう思うよりなかった。


……


俺は体も鍛え始めた。

健全な魂は健全な肉体に宿る。

体を鍛え抜けば、本当の自分になれるとそう思った。


近所の体育館に併設されたトレーニングスペースで、

ウエイトトレーニングをしたり、

空手を習ったりした。


3年ほど経った時、

師範に言われた。

「空手を習っても、人は殴るなよ」

と、

「なぜ」

と聞くと、

「傷害罪で捕まるから」

と言われた。

「ではなぜ空手を学ぶのですか?」

と聞くと、

「大事な人を守るため」

と言われた。

「大事な人を守るために、人を殴るのは?」

と聞くと、

「正当防衛の範囲は実は難しい」

と言われた。


俺は鍛えることの意味がよくわからなくなっていった。


……

こんな感じで、俺は今まで色んなチャレンジを行った。


そして今日。

俺は『自分探し診断』というサイトを見つけ登録した。

登録すると毎日メールが送られるそうだ。

1日1つ。そこには本当の自分の姿が書かれているというものだった。


これまでに試したことは107個。

さすがにこれで最後にしようと思う。


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