第54話 彩花、胸のもやもやを伝える勇気
放課後。
彩花は一人、校庭の片隅で足を止めた。
胸の奥がざわざわして、呼吸が少し苦しい。
(もう……我慢できない……)
(昨日も今日も……悠真くんを見てるだけで……胸がぎゅっとなる……)
彩花はそっとポケットからスマホを取り出す。
“悠真くんにLINEを送る?”
何度も指を止める。
(直接……言わなきゃ……
昨日のことも、今日の気持ちも……全部伝えなきゃ……)
スマホを握りしめ、深呼吸。
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◆教室前での決意
教室の前。
東雲がノートを整理していた。
彩花は胸の奥が押し潰されそうになりながら、ゆっくり歩み寄る。
「……悠真くん」
東雲は顔を上げ、少し驚いたように目を瞬いた。
「彩花さん……?」
「う、うん……あの……ちょっと……話したいことがあって……」
彩花の声は震え、手は少し汗ばんでいた。
東雲は優しく微笑む。
「うん、いいよ。話そう」
その一言に、彩花の心臓は跳ね上がる。
(……来た……
ちゃんと話せる……!)
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◆廊下での二人きり
廊下はもう誰もいない。
彩花は少し俯きながら、言葉を紡ぐ。
「昨日の……私のこと、無視してくれなくて……
ありがとう」
東雲は首をかしげる。
「無視するなんてできないよ。
彩花さんが断ったことも含めて、ちゃんと受け止めたいから」
彩花は胸が痛くなった。
(……やっぱり……
なんでこんなに優しいの……)
少しだけ勇気を出して、彩花は目を上げる。
「私……昨日、私が言ったこと……
全部……間違ってたかもしれない……」
東雲はゆっくり頷く。
「うん。無理に答えを出さなくてもいい。
でも、こうして話してくれて嬉しいよ」
彩花は胸が締め付けられる。
(嬉しい……でも、怖い……
自分の気持ちを認めたら……どうなるの……)
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◆彩花の心の揺れ
彩花は思い切って、昨日断った理由を口にした。
「私……“作品の作者みたいな人が好き”って言ったでしょ……
それで……悠真くんには……無理だって思ったの……」
東雲は首を傾げる。
「でも、昨日も言ったけど……
僕は彩花さんを好きだって気持ちは変わらない」
彩花は思わず息を飲む。
(……そんな……
昨日断ったのに……
今も……?)
涙がにじむ。
「……ごめん……本当に……ごめん……!」
東雲は優しく笑い、彩花の肩に軽く手を置く。
「ううん。大丈夫。ちゃんと気持ちは受け取ったから」
その距離感――絶妙に優しくて、甘くて、
彩花の胸はさらにざわつく。
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◆彩花、初めて自分の気持ちを自覚
彩花は涙を拭いながら、心の中でようやく認める。
(……私……悠真くんのこと……
好き……なんだ……)
声には出せないけれど、
心の奥で芽生えた感情は揺るがない。
そして――
「……これからも、ちゃんと……向き合いたい」
彩花は心の中で小さく誓った。
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◆その背後で
廊下の向こう。
桐谷海斗と白鷺ゆりの視線が、偶然二人を捉えていた。
「……あれ、二人で話してる……?」
「ふふ……ちょっと距離が縮まったみたいね」
姉弟は気づき、にやりと笑った。
「ふふふ……これから面白くなるかもね、海斗」
「お、おう……!」




