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第53話 “私、この人の作品を一生愛し続けますから!” ――声優・白鷺ゆりの宣言

週末。


東雲は再び出版社の収録スタジオへ向かっていた。


今日はアニメ第2話アフレコの台本チェック。


静かな廊下を歩いていると――


「先生っ!!」


勢いよく走ってきた影が東雲に飛びつくように近づいてきた。


白鷺ゆりだ。


「わ、白鷺さん……」 「今日も来てくれてありがとうございます!!」


その瞳はキラキラしすぎて眩しい。


(……この熱量、毎回すごいな……)


ゆりは台本を胸に抱えながら一歩近づく。


「今日の“ヒロイン泣き崩れシーン”、どう読んだら先生の文章に近づけるか……ずっと練習してきたんです!」


「そ、そうなんだ……」


「先生の作品、私……ほんとに人生で一番好きなので!」


ゆりは照れもなく言い切った。


東雲は少しだけ目を丸くする。


「そんなふうに言ってくれるの……すごく嬉しいよ」


ゆりは電流が走ったかのように硬直する。


(――やばい……

 尊すぎる……!)


「せ、先生……今日、収録が終わったら……少しだけ、お話しできませんか?」


「うん、いいよ」


その即答に、ゆりの顔が破裂しそうに赤くなる。


「~~~っ!! ありがとうございます!!」



---


◆収録室


ゆりは誰よりも真剣に、

そして誰よりも感情を込めてヒロインを演じていた。


監督が驚く。


「白鷺さん……今日、感情乗りすぎじゃないか?」


「すみません……東雲先生の前だと……

 つい全部出したくなるんです!」


周囲が笑い、ゆりはさらに赤くなる。


東雲は穏やかに拍手をした。


「すごく良かったよ。

 ヒロインの気持ち……想像以上に伝わってきた」


「っ!!」


また固まる。


ゆりの胸の奥で何かが大きく跳ねていた。


(……先生に褒められるの……反則……

 私……この人の作品だけじゃなくて……

 この人自身にも――)


言葉にならない感情があふれる。


監督が笑って言った。


「白鷺さん、その勢いなら……

 ヒロイン本人よりヒロインしてるよ」


ゆりは真っ赤になって、


「そ、そんなこと……!」


と言いながら、東雲のほうを見られなくなっていた。



---


◆スタジオ外の待合室


収録後。


ゆりは緊張で手を震わせながら、東雲の隣に座っていた。


「えっと……話って?」


東雲が優しく聞くと――


ゆりは胸の前で手をぎゅっと握る。


「私……東雲先生に、どうしても伝えたいことがあって……」


深呼吸。


瞳はまっすぐで、揺らぎがない。


「……私、先生の作品……

 これから一生、誰よりも愛し続けます」


東雲はきょとんとした。


「え、えっと……ありがとう……?」


「本気ですっ!

 他の作品ももちろん好きだけど……

 先生の作品が……私を変えてくれたから!」


ゆりは息を整え、さらに続ける。


「だから……

 もし……何かあったらいつでも私を頼ってください。

 声でも、イベントでも、何でも!


 私は……ずっと先生の味方でいます」


その真剣な瞳の奥に、

作品への愛だけじゃない感情が確かにあった。


東雲は少し戸惑いながらも微笑む。


「ありがとう……

 すごく心強いよ」


ゆりは目を潤ませて――


「……っ……だ、だめ……

 優しくしないで……

 泣いちゃう……」


泣き笑いのような顔で俯いた。



---


◆そのころ――学校の彩花


彩花は自室でスマホを握っていた。


公式SNSにアップされた“アフレコ見学の写真”。

そこには――


東雲と白鷺ゆりが並んで映っている。


ゆりは嬉しそうに笑い、

東雲のほうへ体を寄せている。


胸が、ぎゅっと締めつけられる。


(……やだ……見たくない……)


スクロールしようとしても、指が動かなかった。


ゆりは世界的に人気の声優。

美人で、才能があって、プロとして実績もある。


(……私なんかとは……全然違う……)


昨日の校内の女子たちの声が思い出される。


「東雲くん、なんかかっこよくない?」

「優しいし、話しやすいし」


彩花は胸を押さえた。


「……なんで……

 断った私が……こんな気持ちになってるの……?」


画面の中の東雲は、

どこか大人びていて、遠く見えた。


(ねえ、悠真くん……

 どうして……そんなに……

 みんなの心を掴んじゃうの……)


その疑問は――

同時に彩花自身の気持ちへの“答え”に近づいていた。


でも彼女はまだ認めない。


認めたくなかった。


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