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第51話 どうして胸が痛むの?――彩花、自分の感情に気づきたくない

昨夜。


彩花はベッドに倒れ込み、布団を顔に押し付けていた。


(なんで……

 なんであんな言い方しちゃったの……)


思い出すたびに胸が痛む。


東雲が好きだと言ってくれたのに、

自分は“普通でパッとしない人だから”と……

ひどい言葉で断った。


(あれ……告白された私が言う台詞じゃないよね……?)


布団から顔だけ出して天井を見る。


「……最低だよ、私……」


東雲は怒りもせず、笑ってありがとうと言ってくれた。


その優しさまで思い出した瞬間、胸が苦しくてたまらなくなる。


(なんで……なんでこんなに苦しいの……?

 断ったのは私なのに……)



---


◆翌朝、登校途中


学校へ向かう道で、彩花は下を向いたまま歩いていた。


(今日、どんな顔して会えばいいの……)


昨日のあの言葉は、一生の黒歴史になるレベルだ。


そんなとき――


「おはよう、彩花さん」


横から自然に歩いてきたのは東雲だった。


その笑顔は、昨日と同じ。

まるで告白のことが何もなかったかのような優しさ。


「ゆ、悠真くん……」


声が震える。


(なんで……そんな普通みたいに話しかけられるの……

 昨日あんなこと言われたのに……)


でも東雲は、いつもと同じ調子で続けた。


「昨日、話してくれてありがとうね。

 ちゃんと気持ち、伝わったよ」


彩花は目を見開く。


(どうして……どうしてそんな言い方ができるの……?)


東雲は続けて、小さく笑う。


「嫌われてるとは思ってないから」


その言葉に、胸の奥が温かくなって――

そして、少し痛んだ。


彩花はそっと顔をそむける。


「……別に、嫌ってるわけじゃ……ないよ」


俯きながら呟いたその声は、ほとんど聞こえないほど小さかった。


東雲は優しく微笑む。


「じゃあ、今日もよろしくね」


軽く手を振って教室に入っていく。


残された彩花は、胸を押さえた。


(なんで……嬉しいって思ってるの……私……?

 断ったんだよ……?

 なのに……なんで……)


自分の感情がわからない。


ただ揺れて、ざわついて、落ち着かない。


こわい。


でも――


少し、温かい。


彩花はその正体に、まだ気づきたくなかった。



---


◆教室


教室に入ると、クラスメイトたちがワイワイ騒いでいる。


彩花が席に着くと、友人の美咲が近づいてきた。


「ねえ彩花、今日なんか元気ない? 顔赤いよ?」


「な、なにもないよ!」


慌てて否定すると、美咲がにやっと笑う。


「え~? もしかして……東雲くんとなんかあった?」


彩花は机に突っ伏した。


「な、なんにも……ない……から……」


(あるけど……言えるわけないじゃん……!)


美咲はまさか彩花が東雲に告白されたなんて思ってもいない。


クラスでも影の薄い男子がモテるなんて――

誰も予想していない。


だから余計に、彩花の胸はざわつく。



---


◆昼休み 屋上の扉の前


昼休み。


彩花は弁当を持って、屋上の扉の前にいた。


(ここ……悠真くんがよくいる場所……)


無意識に足が向いていた。


扉に手を当てた瞬間、心臓が跳ねる。


(……会いたいの?

 私……)


自分に問いかける。


胸がぎゅっと締まる。


(……違う。

 昨日のこと、ちゃんと……謝らなきゃ)


それだけだ。


それだけのはずだ。


でも扉を開ける力がどうしても出ない。


彩花は結局、踵を返してその場を離れた。


(……だめだよ。

 私なんか、堂々と会いに行く資格なんて……)


しかし――


去っていく背中を見つめる視線がひとつ。


屋上の少しだけ開いた扉の隙間から、東雲が静かに彩花を見ていた。


「……焦らなくていいよ、彩花さん」


優しく呟き、Windにかき消された。



---


◆放課後、彩花の帰り道


帰り道。


彩花は歩きながら、胸に手をあてていた。


「……どうして……断ったのに……

 悠真くんの言葉が、頭から離れないの……」


風に揺れる自分の声。


(私は、“作品の作者みたいな人”が好きなんだよ?

 東雲くんは……普通の……地味な……

 パッとしない――)


そこまで言った瞬間、胸が鋭く痛んだ。


「……違う……

 そんな言い方……したくない……」


涙が一粒、頬を伝う。


なぜ泣いているのか、自分でもわからない。


でも――


ひとつだけ確かだった。


(昨日より……今日のほうが……

 東雲くんのこと……考えてる……)


その事実が、もっと怖かった。


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