第48話 揺れ始める“恋心”は、物語の言葉から
その夜。
彩花は自分の部屋でベッドに座り、
小さく膝を抱え込んでいた。
(……疲れた……)
白鷺ゆりとの二人きりの会話。
あの鋭さと、優しさと、宣言。
“東雲先生のこと、好きになるかもしれない”
思い出すたびに胸がざわつく。
(なんで……私、こんなにドキドキしてるの……?
別に……東雲くんなんて……ただのクラスメイト、なのに……)
そう言い聞かせても――
頭の中から“作品の作者”が離れなかった。
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◆スマホを開いた瞬間、胸が締め付けられる
彩花は無意識に、スマホでWeb小説投稿サイトを開いていた。
お気に入り作品。
【蒼き黄昏のレゾナンス】
ページを開くだけで、胸が熱くなる。
「……はぁ……ほんと、好き……この物語……」
彼女は“作者の言葉”に恋していた。
でも現実の作者の正体が、
ただのクラスの地味男子だなんて――
誰が想像するだろう。
今日はその“地味男子”と歩き、
その横でファンの声優が夢中で語る姿を見た。
(……あの時のゆりさん……ほんと綺麗だったな)
胸に痛みが走る。
(私じゃ……勝てないよね……)
そう思ってしまう。
だが次の瞬間――
スクロールしたページに、
いつも見ていた“あの文章”が目に入った。
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◆“作者の言葉”が彩花の心を揺らす
彩花は、あるシーンの文章を読み返した。
主人公がヒロインに言う台詞。
《君は気づかないだろうけど。
誰より頑張ってる人ほど、自分を普通だと思い込んでる。
本当は……誰より綺麗なのに。》
(……っ)
胸が熱くなって、息ができなくなる。
(なんで……
たったこれだけの言葉に……
こんなに……苦しくなるの……?)
ページをめくるたびに、胸が締め付けられる。
まるで今の自分に向けて書かれているように思えてしまうから。
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◆彩花、自分でも気づかなかった“本当の気持ち”
布団をぎゅっと掴みながら、彩花は呟く。
「私……作者さんの言葉が好きで……
その言葉を書いた人をずっと追いかけてて……」
そして――
「……今日……東雲くんを見てたのは……
もしかして……」
自分でも信じられない答えが浮かんでくる。
(東雲くんのこと……
気になってる、って……こと……?)
顔が真っ赤になり、頭がぐらぐらする。
「ない……そんなはずない……!」
声に出して否定しても、心はもう誤魔化せなかった。
あのとき。
信号待ちで少しだけ後ろを歩きながら――
東雲とゆりが並ぶ姿を見て、胸が苦しくなった。
それは嫉妬だったと、今なら分かる。
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◆“好き”の正体に気づきたくなくて
彩花は枕に顔を埋めて叫ぶ。
「やだ……気づきたくない……!」
好きになるのが怖い。
だって相手は――
自分が世界で一番尊敬してる作者の作品を生んだ人かもしれない。
(……そんなの、好きになっちゃったら……
距離感、おかしくなる……無理……)
頭では分かっているのに、
心はもう止まらない。
スマホの画面には、
作者名【黎明】が光っていた。
彩花は画面を見つめながら、
そっと胸に手を当てる。
(……どうしよう……
ほんとに……東雲くんが作者だったら……)
その瞬間――胸が跳ねた。
“だったら、私はどうすればいい?”
怖くて、答えが出ない。
ただ一つだけ確かなのは――
今日はもう眠れそうにないということだった。




