第47話 “好き”を察する女の直感
収録スタジオからの帰り――
三人は同じ方向の駅に向かって歩いていた。
だが、駅前の信号で状況が変わる。
「先生、ちょっと裏のドラマスタジオまで資料取りに行ってもらってもいいですか?」
朝陽(編集)がゆりに声をかけた。
「私も行きます!」
悠真が自然に付いていこうとする。
しかし――
「東雲くんは駅のほうで待っててくれる?」
朝陽が言った。
「すぐ戻るから!」
ゆりも笑顔で手を振る。
結果、駅に残されたのは 彩花と悠真の二人……
ではなく。
◆◆
白鷺ゆりと彩花――二人だけ。
(※朝陽が資料に向かったので、悠真は荷物番として別の待機所へ)
つまり
“ゆり VS 彩花”の初対面二人きり時間 が訪れてしまった。
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◆ゆりの視線は、やっぱり鋭い
ゆりは静かに彩花を見る。
彩花は気まずそうに笑うだけ。
ゆりは口を開いた。
「さっきから……ずっと東雲先生のこと、見てたよね?」
「っ……」
一撃。
彩花は慌てて否定する。
「みっ、見てないです! 全然……!」
だが、ゆりは微笑んで言った。
「大丈夫。
女の子が誰かを見つめる目って……わかるから」
彩花の胸がドキッと跳ねる。
(もしかして……バレてる……?)
逃げ道のない視線。
声優として鍛えられた“感情の目利き”。
ゆりは続ける。
「悠真くんのこと……気になってるでしょ?」
「……き、気になってなんか……」
否定しようとしても、言葉が弱い。
ゆりは小さく息をついた。
「心配しなくていいよ。
私はね――」
すっと表情が変わる。
「先生の作品が好き。
先生の言葉が好き。
でも……まだ“男の人として”好きとは言えない」
彩花は驚く。
「えっ……」
ゆりは正直だった。
「作品を作るひとの心に近づきたい。それは本当。
でも……東雲先生自身はまだ……よく知らないから」
そして、ゆりはじっと彩花を見つめる。
「……でも、あなたは違うんだね」
「……!」
「東雲先生の“人としての部分”が気になってる。
その目……嘘じゃないよ」
彩花の頬が赤くなる。
(なんでわかるの……
なんでこの人、こんなに鋭いの……)
ゆりはふっと優しく笑う。
「だから……先に謝っとくね」
彩花は息を飲む。
ゆりは言った。
「私、東雲先生のこと……好きになるかもしれない。
そうなったら……ライバルになっちゃうね」
静かで、誠実で、でも確かな宣戦布告。
彩花の胸に火が灯る。
「……負けません」
震える声だったが、しっかり答えた。
ゆりの目がわずかに丸くなり――次の瞬間、嬉しそうに微笑んだ。
「そう言ってくれた方が、私も燃えるなぁ」
同じ“天才”に惹かれていく少女たち。
まだ恋ではない。
でも、ただの憧れでもない。
静かに、確実に。
恋の火花が散り始めた瞬間だった。
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◆そして悠真は――完全に蚊帳の外
その頃。
悠真は待機室で、一人で資料の袋をいじりながらぼそっと言った。
「……なんか、二人とも空気が変だったような……?」
気のせい、では済まない。
だが無自覚天才は、ついにここでも鈍感だった。




