第46話 静かに燃える“恋の火花”
白鷺ゆりが悠真の隣を歩き、
悠真も自然体で対応している。
その後ろを少しだけ距離を空けて歩く彩花。
三人で歩いているだけなのに――
空気は明らかに歪んでいた。
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◆声優・白鷺ゆりの“理解力”
「先生、このシーンなんですけど……」
ゆりは台本を開き、
あるページを指さしながら歩く。
「このヒロインの『――でも、信じてるから』ってセリフ……
文章の“間”の取り方が、すごく繊細で……
これ、実は伏線ですよね?」
「え……そこまで考えてなかったけど……でも確かに、あとで効いてくる……のかも?」
悠真は首を傾げつつも、ゆりの解釈に感心した様子。
(ほんとに無意識で作ってるんだ、この人……!)
ゆりは心の中で震えた。
その熱量は、完全にファンの表情。
だが彩花にそれは関係ない。
(……すごい……
あの人、作品のこと語る時、顔が全然違う……)
彩花は後ろでそっと拳を握る。
自分にはない専門知識。
自分にはない情熱の角度。
自分にはない距離の近さ。
胸がぎゅっと痛くなる。
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◆彩花の“視線”に気づくのは、なぜかゆり
ゆりがふと後ろを振り返った。
一歩、二歩……
少しだけ離れて歩く彩花の姿。
ゆりの目が細くなる。
(あの子……さっきからずっと表情が硬い……
もしかして……悠真くんの“彼女候補”……?)
声優としての勘――いや、女の勘が冴える。
ゆりは悠真に見えないよう小さく息をついた。
(なんで……なんで地味なのに……こんなに存在感のある空気なんだろ……)
羨望か、警戒か、感情はまだ曖昧。
だが確かなことが一つ。
彩花は悠真を“特別に見る目”をしていた。
それだけは、ゆりには分かってしまった。
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◆彩花の意地
彩花は歩幅を少し広げ、
ゆりと悠真に追いつく。
「ねえ、悠真くん……」
「ん?」
ようやく勇気を出した声。
でも、タイミングが悪かった。
ゆりがすぐに割り込む。
「先生、ここのキャラの気持ちの話も……!」
「あ、うん、このシーンは――」
彩花の言葉は、自然に押しつぶされてしまう。
(……私……やっぱり……
入っていけない……?)
胸が苦しくなる。
それでも諦めたくはなかった。
(言わなきゃ……また昨日みたいに逃げる……
言いたいのに言えない私のままじゃ……変われない……!)
心のどこかで、強く思っていた。
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◆白鷺ゆりの“宣戦布告になりかけた言葉”
歩きながら、ゆりは何気なく尋ねた。
「先生って……好きな人とか、いますか?」
悠真はきょとんとした。
「え? いないけど……」
その返答を聞いた瞬間、
一歩後ろで歩いていた彩花の心臓が大きく跳ねた。
(……いない……?
本当に……?)
一方で、ゆりはホッと息をつく。
(よかった……まだ誰のものでもない……
じゃあ……私が――)
だけど同時にちらっと彩花を見る。
彩花もまた、ほんの少し頬を赤くしていた。
(……やっぱり、この子……絶対悠真くんのこと……)
ゆりの心に小さな警戒心が灯った。
静かに、確かに火花が散った瞬間だった。
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◆そして、彩花の決意が固まる
三人で歩く微妙な空気のなか、
彩花は胸の中で強く誓う。
(負けない……
伝えるんだ……
昨日勇気が出なかった分……
次こそ絶対……!)
声優の専門的分析でも。
台本の話でも。
距離の近さでも。
自分は勝てないのかもしれない。
それでも――
「好き」という気持ちだけは誰にも負けない。
(頑張らなくちゃ……本当に……)
彩花は、自分の恋と真正面から向き合いはじめた。




