第45話 伝えたい言葉より先に、距離を詰める人がいる
放課後。
水瀬彩花は、机の端をぎゅっと握りしめていた。
(……今日こそ言おう。
昨日みたいに“好き”って言葉を誤魔化されたままじゃ……嫌だ)
胸の奥で決意が小さく燃える。
そして心を決めて立ち上がった瞬間――
「彩花、帰る? 一緒に駅まで行こうか」
悠真が穏やかに声をかけてきた。
呼吸が止まる。
(い、今……言えってこと……?
ここでちゃんと言うの……?)
鼓動が跳ねるが、口が上手く動かない。
「う、うん……行こ……」
自分でも驚くほど弱々しい声だった。
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◆放課後の帰り道。ふたりきり……のはずが
学校を出て歩き始めた直後だった。
「悠真くーんっ!!」
遠くから全力で手を振って走ってくる女子の姿。
「……え、白鷺さん?」
彩花は凍りつく。
白鷺ゆり――アニメ版のヒロイン声優で、原作者“黎明”のガチ勢ファン。
もちろん、悠真=黎明だとは彼女はまだ知らない。
だがその熱量は異常レベルで高い。
「よかった……! 今日スタジオ近いから、ワンチャン会えるかなって思って……!」
息を切らしながら笑顔で駆け寄るゆり。
彩花の胸がざわめく。
(なんで……ここに……?)
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◆白鷺ゆりの距離感、0センチ
「悠真くん、昨日はありがとうございました!
先生の“間”や意図、すごく演じるのに役立って……!」
「あ、うん。少しでも参考になったならよかった」
にこっと微笑む悠真。
ゆりは恥ずかしそうに頬を染めつつ、
距離を詰めて覗き込む。
「今日って、帰り一緒に歩いたり……ダメですか?」
「え、別にいいけど――」
「っ!」
彩花の心臓がズキンと痛んだ。
(もしかして……私、邪魔……?)
足が止まりそうになる。
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◆彩花の“恋心”はまだ誰にも知られていない
ゆりは悠真の横にぴったり並ぶ。
「今日の新台本、先生に先に見てほしいシーンがあって……
もし迷惑じゃなければ、途中まで一緒に……」
「いいよ。見ながら帰る?」
「はいっ……!」
ふたりの距離は近すぎる。
彩花は、声を出すことすらできなかった。
(……つらい……
昨日、あんな勇気出したのに……
まだ何も言えてないのに……)
一歩踏み出す前に、
別の誰かが悠真の隣を奪っていく。
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◆それでも、歩みは止められない
ゆりと悠真が楽しそうに話す声が前で響く。
彩花は数歩だけ後ろを歩きながら、胸の奥を押さえた。
(……でも……負けたくない……
私だって……ちゃんと伝えたい……
“尊敬”じゃなくて……“恋”だって)
昨日よりもずっと苦しくて、
昨日よりもずっと強い想い。
歩幅の小さな少女は、
でも確かにその恋を諦めてはいなかった。
(言うんだ……絶対。
次こそ……私は伝える)
唇をかみしめながら、彩花は前を見た。
揺らぐ想いを抱えたまま――
恋の戦いは静かに、確かに始まっていく。




