第44話 すれ違う温度差と、止まらない恋心
翌朝。
教室に入った水瀬彩花は、胸に違和感を抱えたまま東雲悠真の席をちらりと見る。
(……昨日、あんな風に告白したのに……
どんな顔して会えばいいの……?)
心臓が落ち着かない。
しかし、悠真はいつも通り――いや、本当に“いつも通りすぎる” 表情で席に座っていた。
「おはよう、彩花」
「……っ、おはよう……」
あまりにも自然な笑顔。
告白の余韻も、ぎこちなさも、照れも……一切ない。
(なんで……!?
なんでそんな普通でいられるの……!?)
彩花は思わず机を抱えるようにして目を逸らした。
---
◆悠真の中では「すごく嬉しい話を聞いた日」
休み時間。
何気なく近づいてくる悠真。
「昨日の話、嬉しかったよ。
彩花にそんな風に思われてたんだって知れて」
「っ……!」
その言葉ひとつで、胸がまた熱くなる。
でも――
悠真の雰囲気は“恋愛の返事”ではなく、“尊敬されて嬉しかった人”のそれ。
(……ダメだ……
この人、本当に分かってない……
好きって言ったのは……尊敬とかじゃなくて……)
彩花はぎゅっと拳を握る。
(でも……そうだよね。
私なんかが告白しても、悠真は――)
「彩花、どうかした?」
「なんでもない!」
声が思わず大きくなり、悠真は驚いたように瞬きをした。
---
◆周囲のクラスメイトの温度差
「なぁ水瀬、なんか昨日から様子変じゃね?」
「東雲と何かあったのか?」
女子たちは興味津々。
彩花は慌てて首を振る。
「な、なんにもないから!」
しかし、周囲の視線はどこか含みを帯びている。
(だめ……知られたら……
“地味な東雲に告白した”なんて絶対に言えない……)
心が詰まりそうになる。
---
◆東雲の天然すぎるボディブロー
昼休み、悠真が弁当を取り出しながら言った。
「今日さ、昨日言ってた“ありがとう”のこと、もっとちゃんと話せたらと思って……」
「え……?」
「彩花の気持ち、ちゃんと受け止めたいからさ」
そのまっすぐな瞳。
冗談でも、優しさを取り繕った雰囲気でもない。
ただ――
“本気で人の気持ちを大切にしたいだけ” の、東雲悠真。
(……だから……困るんだよ……
そんな風に優しくされたら……)
心の距離は縮まったのに、
“恋の温度差” だけが残酷に広がる。
---
◆彩花の決意
窓の外を見ながら、彩花は小さく息を吐いた。
(……このままだと……またすれ違っちゃう……
私、ちゃんと伝えないと……)
胸に手を当て、決意を固める。
(尊敬とかじゃない。
あなたの才能だけじゃない。
……私は、東雲悠真“本人”が好きなの)
その決意は、少し震えていた。
でも確かに――
昨日より一歩、大きく前へ踏み出していた。




