第13話 距離を縮める勇気
放課後の教室。
彩花は再び、そっと東雲悠真の机のそばに立っていた。
胸の奥はざわつき、手のひらは少し汗ばんでいる。
昨日までの「振った相手」という理性と、胸の中のざわめきが入り混じっていた。
(……やっぱり……気になる……
この人、本当に……ただの地味男子……?
それとも……あの“黎明先生”……?)
彩花は勇気を振り絞った。
思わず、声をかける。
「東雲くん……ちょっと……お話いいですか?」
悠真は本を置き、顔を上げる。
いつも通りの自然な笑顔。
「ん? いいけど、何の話?」
その自然体に彩花は胸を打たれる。
心臓が高鳴る。
「えっと……あの……昨日の話じゃなくて……その……」
彩花は言葉を詰まらせ、机の角に指先を押し当てる。
悠真は首をかしげ、待っているだけ。
(……やっぱり、勇気を出して聞かないと……)
彩花は小さく息を吸い、言葉を続けた。
「……その……放課後、ちょっとだけ……相談があるの」
悠真は頷く。
「うん、分かった。じゃあ少し時間あるし、ここでいい?」
彩花は驚きつつも、頷く。
胸がドキドキと波打つ。
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◆心の動揺
彩花は心の中で、自分の感情を整理していた。
(……やっぱり……この人、ただの東雲くんじゃない……
どこか“違う”……
無意識に作品で人を惹きつける……
もしかして……あの人……本当に……)
一方、悠真は特に何も意識していない。
ただ自然体で、彩花を見つめる。
(……相談? なんだろう、ちょっと楽しみだな)
彩花はその自然体にさらに動揺する。
自分でもわからない胸の高鳴り。
だが、これが彼女の心を動かしていた。
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◆小さな接触
二人は教室の隅に腰を下ろす。
彩花は少し距離を置きながらも、目を逸らせない。
「えっと……相談っていうか……その……
ちょっと聞きたいことがあって……」
「うん、何でも」
悠真の声は穏やかで、変な力が入っていない。
彩花はその穏やかさに安心しながらも、心臓が早鐘のように打つ。
(……やっぱり……この人、普通なのに……
でも、なんだか……特別……)
彩花は小さな一歩を踏み出した。
自分でもまだ理由は分からない。
ただ、この瞬間――
東雲悠真の正体を知りたいという気持ちが芽生え始めていた。




