第12話 気づく心と、近づく影
放課後の教室。
机の間を彩花はそっと歩きながら、心の中で何度も考えていた。
(……やっぱりおかしい……
あの写真……
なんであんなに似てる気がするの……?)
目の前には、いつも通り地味で控えめな東雲悠真がいた。
本を開き、文字を追うその姿は、学校ではただの“存在薄男子”に見える。
しかし彩花の胸の奥はざわつく。
(……でも……東雲くん、あんな風に文章を生み出せる人に似てる気がする……
無意識で、天才で……でも普通……)
彩花は机の角に指先を押し当て、ゆっくり息を吐く。
自分でも理由が分からない。
理性では「ありえない」と理解しているのに、心は勝手に動く。
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◆偶然の会話
その時、悠真がふと顔を上げた。
「彩花さん、どうかした?」
突然呼ばれ、彩花はぎょっとして顔を上げる。
「え、えっと……別に……」
言い訳のように呟くが、顔は赤い。
悠真の自然体の笑顔に、胸がさらに高鳴る。
「ふーん、別に……か」
悠真は目を細め、軽く笑っただけ。
その無邪気さが、彩花をさらに混乱させる。
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◆小さな確信の兆し
彩花は思わず心の中でつぶやいた。
(……もしかして……
東雲くん、私が振ったあの人……
作家……なの……?)
その瞬間、胸の奥がひりつくように熱くなる。
それは尊敬と、わずかな恋心が混じった感覚だった。
だが、彩花は自分に言い聞かせる。
(……違う……違うよ……
だって、私が振ったんだから……
地味で取り柄もない東雲くん……)
それでも視線は悠真から離れない。
足が自然と彼の机の近くに向かう。
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◆偶然の接近
「彩花さん、近い……」
悠真の声は、軽く驚きながらも自然体。
彩花はドキリとして、少し後ずさる。
「ご、ごめん……ちょっと通っただけ……」
彩花の声は震えていた。
でも心の奥は、確実に動いている。
(……やっぱり、私は知りたくなってる……
東雲くんの正体を……)
彩花は知らず知らずのうちに、
自分の感情を素直に受け入れかけていた。




