第10話 気づきたくなかった予感
翌週の放課後。
東雲悠真は、学校の隅でひっそりと文庫本を読んでいた。
(※作品を“自然に”作ってしまうのは私生活の中だけであり、
学校でノートにメモを取るような描写は避け、地味男子設定を守ります)
そんな彼を、遠くの廊下からじっと見つめる瞳があった。
――水瀬彩花。
クラスの中心にいる、美人で真面目な優等生。
そして、東雲にとっては
「告白して振られた相手」。
本来なら気まずい距離感になるはずだが――
彩花は、なぜか最近ずっと東雲を目で追っていた。
理由は一つ。
(……最近の“黎明”の活動……明らかにおかしい)
アニメ化発表。
主題歌決定。
声優が異常に熱を入れて語っているSNSタグ。
そして――
今日。
彩花は SNSである投稿を見てしまった。
『黎明先生と、歌手の黒瀬リラさんと制作打ち合わせ』
写真は顔が伏せられている。
だが――後ろ姿、身長、髪、服の雰囲気が…
(……東雲くんに、似てる……気がする……)
彩花は自分に言い聞かせようとした。
(そんなはずない……
東雲くんは地味で、取り柄もなくて……
“私が振った相手”なんだから……)
しかし胸の奥がざわざわする。
その時、友人の美奈が声をかけた。
「ねぇ彩花。最近の“黎明”の写真見た?
なんか……地味な高校生っぽくない?」
「えっ」
言われた瞬間、心臓が跳ねた。
「彩花の好きな作家さんだよね?
タイプ的に東雲みたいな感じじゃない?」
「なっ……なにそれ」
顔が熱くなる。
「いやだって、彩花……
告白してきた東雲のこと『取り柄がない』って言ってたけど……
この写真の雰囲気、ちょっと似てない?」
「似てない!」
彩花は思わず声を上げた。
しかし胸のざわめきは止まらない。
(……違う。違うよ。違うってば……)
東雲が“天才作家”なわけない。
そんなわけない。
そう繰り返しながら、視線は教室の隅に座る東雲へ向かう。
彼は文庫本を読みながら、ふっと微笑んでいた。
その横顔が――
SNSで見た、顔を隠された“黎明”の写真と重なる。
(……なんで……
なんで少しだけ……雰囲気が似てるの……?)
胸が高鳴る。
それを“恋”だと認めることは、彩花にはできなかった。
なぜなら――
自分が振った相手に惹かれていると認めるのは、
プライドが許さなかったからだ。
しかし疑念は消えない。
(……一度だけでいい……
東雲くんの、放課後の様子を……見てみたい……)
そう思ってしまった瞬間、
彩花は道を踏み外し始めた。
自分でも気づかぬまま――
“真実に近づく側のヒロイン”へと変わり始めていた。




