無自覚天才の日常
放課後の自宅。
悠真東雲は机に向かい、ペンを走らせていた。部屋は静まり返り、窓から差し込む夕陽が原稿用紙をほんのりと染める。
「次のキャラクターは、もう少し葛藤を深めて…」
無意識に生まれるアイデアが、紙の上で物語の形を成していく。
彼にとって執筆は自然すぎる日常の一部であり、努力という意識もない。
ただ、目の前に物語が現れ、手を動かす。それだけだった。
一方、クラスでは目立たない存在の東雲。
机に座る姿は静かで、友達付き合いも普通。教師からも「大人しい生徒」と認識される程度で、クラスメイトの記憶には特別残らない。
だが、Web上では話が別だ。彼の創作は匿名で投稿され、瞬く間に読者を熱狂させていた。
その熱狂的ファンの一人が彩花だ。
毎日のようにスマホで新作を追い、コメントやランキングを確認する。
「また新作…! 本当にすごい…」
彩花は心から作品を楽しんでいたが、投稿者が同じクラスの悠真だとは夢にも思っていない。
夕方、悠真は一息つき、窓の外を眺める。
「次はどんな展開にしようかな…」
創作の熱は尽きず、無自覚の天才ぶりが今日も自然に生きていた。
学校では目立たない普通の高校生――それが彼の日常であり、天才作家としての匿名性を守る盾でもあった。
彩花は、そんな悠真の存在に気づかないまま、今日も作品に夢中になり、心を躍らせる。
そして、読者としての彼女の熱意が、後に訪れる運命の告白や心理の揺れの伏線になっていくのだった。




