龍の子の宝玉
昔々あるところに、
それはそれは美しい龍がおりました。
七色に光る鱗を持ち、その瞳はまるでダイヤモンドのよう。
銀の鋭い鉤爪と牙、黄金の角、そのひげは万病に効く薬の元にもなるとか。
“龍が天をかけるだけでその土地は豊かになり、金の周りが良くなる”
そんな伝承から、龍は天からの使いとも呼ばれてきました。
しかし、後の利益よりも目先の利益、ある日人間は欲に負けて、遂に龍達を討ち取ってしまったのです!
龍は全ての部位が高値で売れます。
だから皆は龍を討ち、鱗を剥がし目をくり抜いて爪や牙を売ってしまうのです。
そこから、龍は沢山狩られました。
何万といた龍が何十という数になりました。
もう、人の前に龍は姿を見せませんでした。
そこから時がたち、人は龍を忘れました。
龍は伝説の生き物となったのです。
__________
――――これは、そんな伝説の生き物となった一匹の子龍の話。
――龍がいました、それもとてもとても大きな。
龍の寿命は例外なくきっかり1000年です。
その龍は、あと少しで1000年を迎えます。
でもその龍には、子供がいました。
…まだ、卵からかえってもおりません。
龍は久方ぶりに人間界に降り立ちました。
それも小さな小さな貧しい村に。
龍は、自らの七色の鱗を3枚剥がし、
いいました。
〝この3枚の鱗と引き換えに子を育てよ、愛を注げば子はこの村にとって有益なものとなる、欲を注げば子は村にとって災害となる〟
と。
鱗と大きな卵をそっと置いて、
龍は村人の返事も聞かずに去っていきました。
村人は困り果てました。
村は助け合いの精神で成り立ってきました。
だから村人に、誰か、いやたとえそれが人でなくとも見捨てるという選択肢はありませんでした。
だから村人は大切に大切に龍を育てました。
七色の鱗一枚を売ると、懐が潤いました。それで龍の家を作りました。
すると土地が豊かになりました。
龍が生まれました。龍に愛情を注ぎました。
すると商売がうまくいきました。
冬の日は、龍と共に薪を運びました。
春の日は、龍と共に山菜掘りに出かけました。
夏の日は、龍と共に野菜を収穫しました。
秋の日は、龍と共に食べ物を蓄えました。
龍はとにかくたくさん食べ物を食べました。
お金はかかるものの村人たちは嫌な顔せず沢山食べ物をあげました。
それを何年も繰り返したある日。
遂に鱗もお金も尽きてしまいました。
冬の日でした。
それでも村人たちは龍を一番に考えて食べ物を上げました。
食べ物がなくなりました。
それでも村人は、龍を大切にしていました。
でもそんなある時、一人の若者が言いました。
〝そうだ、!子の龍の鱗を、何枚か貰えば良いのではないか…?〟
しぃん……と、場が静まり返りました。
ぴたりと、吹き抜ける冬の風さえ止まったようでした。
…そこに、もう一人。
〝龍よりもまず私たち人間が生きることのほうが大事なんじゃないのか?でなければ龍も何も養えまい。〟
と、誰かがいいました。
それが、皮切りになったのか、はたまた少しでもそんな事を昔から考えていたのか。
一人また一人と村人たちは若者に次々と賛成し始めてしまいました。
子供である龍にそれは酷ではないかと言う者は、いませんでした。
村人がおずおずと龍をみました。
龍は、ここまで育ててもらった恩もあって、すぐにぶちりと取った鱗を差し出しました。
村人たちは口々に感謝を言いました。
鱗がなくなりました。
また龍は鱗を差し出しました。
鱗がなくなりました。
龍は鱗を差し出しました。
鱗がなくなりました。
龍は鱗を差し出しました。
鱗がなくなりました。
龍は____
龍の鱗が全てなくなりました。
龍の鱗は生えては来るものの、この龍はなにゆえまだ子供です。鱗の再生速度も大人とは段違いです。
龍は始めて鱗を渡すのにしぶりました。
これ以上鱗を取ろうとすると生えかけの鱗を剥がすことになり、そうすると鱗が再生しなくなる恐れがあったからです。
それをみて村人は龍を責めました。
こっちは命ががかかっているんだぞ、とか、お前の食費はどうなるんだ、と脅し、泣いて乞うたりもしました。
村人はすっかり変わってしまいました。
龍はみていられなくて鱗を渡しました。
そこから龍は鱗を渡さなくなりました。
龍が前回鱗を剥ぎ取ったところから鱗が生えなくなってしまったからです。
そうして泣きながら、龍はいいます。
〝ごめんなさい、このままでは私の鱗がなくなってしまいます。ごめんなさい、ごめんなさい、お役に立てなくてごめんなさい。〟
村人は、頷きました。
そして、こう言いました。
〝ああ、大丈夫、大丈夫だ。他の鱗がまた大きくなった時に役に立てるさ。生えなくなった鱗も、長い間太陽に当たらなければ生えてくる。だから、お前は外へでてはいけないよ。〟
と。
それは龍にここから逃げられないように監禁するための口実でした。
逃げられては自分たちが飢饉に陥って困ってしまいます。だからこその策でした。
龍はそれを信じました。頷きました。
村の端っこの高い高い塔の一番下の地下。
龍はそこに閉じ込められてしまいました。
来る日も来る日も。
龍は外へのお出かけを待っていました。
しかし、そんな日は訪れません。
心做しかご飯の量も減ってきているような気がして、気分も沈みました。
塔の外では龍が逃げないように分厚い鎖が巻かれており見張りまでついておりました。
その鎖が解かれるのは3度の食事の時だけです。
そんな時龍は思いました。
僕がそとにでられないのは、
僕のたかく売れるうろこが、
そとできずついて、
たかく売れなくなってしまうからだ。
…だから、
僕がもっとたかく売れるものを作りだせば、
うろこがなくなってもよくなれば、
僕は、そとへ、行けるのではないか、と。
そこで。
龍は、まだ母龍と一緒だった頃に卵の外から教わった秘伝の技を思い出したのです!
龍の鱗は、
龍だけが持つ〝魔力〟というものを流し込むことで、まるで粘土のようにドロドロに溶けてしまいます。
そこから不純物を取り出していって龍は汚れなき水晶を作る事が出来てしまうのです。
それにはとっても多くの鱗が必要で、魔力というのはその龍の生命力でもあるので、
無くなったら死んでしまいます。
だから汚れなき水晶は何十年に一つしか作ることが許されていません。
子龍は育ち盛りです。
ですから本当はお外で沢山遊ぶ時期なのですがそれを我慢して頑張って一つずつ一つずつ鱗を重ね合わせていきました。
そしてその努力は遂に実を結び、龍は水晶を作り上げました。
それを見た村人たちはその水晶が余りにも輝いて見えたので“宝玉”と呼び、それを龍の鱗の何十倍もの値段で売り、
さらに龍に量産するよう言いました。
いつの間にか龍の塔の守りは前よりもっと厳重になってしまい事態は龍の願わぬ方向へと向かって行っていました。
それでも龍はコツコツ水晶を作り続け、いつの日か外に出られる日をずっと待ち望んでいます。
何年も何十年も何百年も。ずっと。
もう村人達は、貴方を金のなる木としか思っていないのというのにね。
おしまい
拙い文ですが、最後まで見てくださってありがとうございました。
どうか皆様がひとときでも楽しめたらいいな、と思います。
いつか続編も書きたいな、なんて。