表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/59

3.空は眩しく

 学校までの道は、いつもよりずっと眩しく感じた。

 まるで、澪の平凡だった日常をあざ笑うかのように。


 「あのさ、制服着てたけど……入学手続きとかどうしたの? 本当に通えるの? 戸籍とか、書類とか、普通に必要だよね?」


 「うん、それは大丈夫。僕、こう見えて手回しはいいから」


 「手回しってレベルじゃない……。ていうか、ほんと何者?」


 「魔法使いだよ?」


 「いや、そこはまだ信じてないんだけど」


 澪は眉をしかめながら歩きつづける。

 でも、横に並ぶ少年の姿は、夢でも幻でもなく、朝日をちゃんと浴びて影を落としていた。


 「まあ、話を戻すね。自己紹介って言ったでしょ?」


 「うん……一応、聞くだけは聞いてあげる」


 カイは満面の笑顔で澪のほうを向いて、両手を広げるようにして言った。

 

 「僕はね、この世界とは別の世界から来た、ものすごーく強い魔法使いなんだ。でもある日、とっても意地悪な魔法使いに呪いをかけられて、流れ星にされちゃったんだよね」


 「あ、昨日も言ってましたよね……うん?」


 「で、宇宙をさまよって、地上から誰かが願い事をしてくれると、そこに降りられる。

 地上に降りたら、百日間で百個の願いを叶えないといけないっていう、そういう決まりなの」


 「百日で、百個の願い?」


 「うん。全部叶えられたら、僕の呪いは解けて、自由になれる。だから――」


 カイはウインクして、指先で空を指した。

 「澪の願いも、ちゃんと叶えなきゃいけないんだよね。僕がこの世界にいられる間に」


 「……なんか、設定がソシャゲっぽい」


 「えっ、それ褒めてる?」


 「褒めてない」


 そうは言いながらも、澪の頭の中で考えていた。

 百日で百個――つまり、毎日一個ずつお願いすれば……


 「……もし本当にあんたが魔法使いだとして、願いを叶えてくれるんだったら、こっちも都合いいじゃん」

 澪はリュックの紐をぐっと引き直して言う。

 

 「願い事を百個叶えれば、あんたは呪いが解けて元の世界に戻れる。私は――」


 「うん?」


 「私は、家に居候がいるストレスから解放されて自由になれる。……win-winじゃん」


 「澪ちゃんに、そんなに嫌われてるとは思わなかったなあー」

 カイは楽しそうに笑って、歩幅を合わせた。


 「あ!それならさ」

 

 澪が顔をしかめるように振り向く。

 「一日で百個まとめてお願いしたらいいじゃん。 一気に叶えて終わらせてくれたら助かるんだけど?」


 「うーん、それがね――」

 カイは首を傾げて、指を一本立てた。

 「ルール上、一日にカウントできる願いは一個だけなんだよ」


 「……は? なんで」


 「知らないよ、僕が決めたわけじゃないし」

 カイは笑って肩をすくめた。

 「どれだけまとめて叶えても、“今日の分”はひとつ。だから、どうしても百日はかかっちゃうの」


 「……非効率にもほどがある……」


 「ホントに。でもそういう仕様なんだよね。

 というわけで、しばらく――よろしくね? 澪ちゃん」


 「百日……」

 澪は天を仰いで、深く長いため息を吐いた。


 「なんで……なんで私の大事なこの時期に、こんなややこしいこと降ってくるの……」


 「この時期って?」


 「あと約二週間後。

 部活の……ソフトテニスの団体戦のインターハイ予選があるの。個人戦では負けたけど、団体戦でまだ全国に行ける可能性は残ってる。

 去年は、ほんのちょっとの差で逃したから……今年は、絶対に行きたいの」


 カイは隣で小さく「へえ」と呟いた。


 「そっか、ラケットケースもってるもんね、それソフトテニス用のラケットなんだ」


 「……ん?」

 違和感が、足を止めさせた。


 「今、なんて言った?」


 「え? ソフトテニスやってるんでしょ?」


 「……ソフトテニス、分かるの? あんた、自分で“異世界から来た”って言ったよね? ソフトテニスなんて、この世界のスポーツでしょ?」


 カイは悪びれもせず、にこりと笑った。


 「僕、いろんな願いを叶えながら、この世界を100年くらい流星として飛び回ってるからさ。だから、意外とこの世界のこと、詳しいんだよね。てへ。」


 澪は無言でジト目を向けた。


 「うさんくさ……」


 「え、ひどいなあ。実績はあるよ? この世界のあっちこっちで、いろんな願いを叶えてきたんだから」


 「じゃあさ――」

 澪はふいに歩みを止め、腕を組んでカイを見上げた。

 「なんでその呪い、まだ解けてないの? 百年も願い叶えて回ってて、まだ足りないってどういうこと?」


 カイはほんの一瞬だけ、視線を外した。

 すぐにいつもの調子で笑うけど、そのまなざしの奥に、ふっと影が差す。


 「うーん……まあ、いろいろあるんだよ。ルールが細かくて。

 ただ願えばいいってものでもなくてさ」


 「曖昧すぎ。怪しすぎ。そんなんでよく今まで信じてもらえたね?」


 「いや、信じてもらえたことは一度もないけどね?」


 「信じてもらえてないのに、願いだけ叶えたってこと? 謎……」


 「それと――」

 カイはふと、真顔になる。

 「僕のいた世界と、ここの世界では、時間の流れが違うんだよね」


 「……は?」


 「こっちで百年経ってても、あっちじゃまだ数年しか経ってない。

 本当は、わりと最近のことのはずなんだ。

 けど……僕にとっては、もう遠い昔の出来事みたいに思える。

 呪いをかけられたことも、あの世界での全部も――百年、独りでさまよった分だけね」


 「……ちょっと待って」

 澪はじっとカイの顔を見つめた。

 「もしかしてあんた、見た目こんなだけど――中身、けっこう歳いってたりする?」


 カイは一瞬だけ、いたずらっぽく笑うと、人差し指を口元に立てた。


 「さあ、どうだろう? 年齢なんて、見た目がすべてじゃない?」


 「こわ……。中身が百歳のイケメンとか、ホラーでしょ……」


 「ちょっと傷つくなあ」


 「いやだって現実問題で――」


 それ以上は言えなかった。

 角を曲がった先に、学校の門が見えてきたから。


 制服を着た生徒たちがちらほら歩いていて、日常がその先に続いていることを思い出させてくる。


 ……でも。

 澪のとなりには、“非日常”の象徴みたいな存在が、当たり前の顔で歩いていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ