第13話 クラス2サモナー:ヒューマン個人戦3
クラス1の魔道具師が、クラス2の召喚術師に挑む。一見すると無謀に思えるかもしれないが、実際のところはそうとも限らない。と言うのも、1vs1戦では『魔力の使用は対戦が開始してから』と言うルールがあるからだ。
このルール自体は『魔力保持量によるゴリ押し一辺倒で勝敗が決してしまう事を避ける為』と『より実戦形式での対戦になるように』との理由から設けられたとされているが、ここで重要なのは魔道具は所持しているだけであれば魔力を消費しない事。
つまり、魔道具師は魔道具を身に付けた状態から対戦に挑めるのに対して、召喚術師は対戦が開始してから召喚獣の召喚に魔力を充てなくてはいけないのだ。
当然ながらこの差は大きなアドバンテージである。それなら召喚術師も魔道具を使えばいいと思うかもしれないが、人が魔力を放出できる蛇口の大きさには限りがある。召喚獣を呼び出すための時間稼ぎに魔力を使うのでは本末転倒なのだ。
なればこそ、対戦開始直後は間違いなく魔道具師が優勢。
(身体は問題なく、動く……!)
魔力によるアシストを受けた俺の全力疾走は僅か数秒でトレーニングルームの半分を走破する。
流石はポーションの効力だ。階層渡りとの戦闘で受けた怪我だけでなく、疲労までもが無くなったように感じる。俺の移動速度は召喚術師にとっても予想外だったようで、その表情からは『驚愕』の文字が読み取れた。
(クラス2の召喚獣を召喚するには、だいたい30秒近い魔力の溜め時間が必要なはず。)
術師と召喚獣の相性が良ければその時間は更に短縮される。しかし、それでもあと数秒で召喚術師の目前へと到達出来る俺の方が行動は早いだろう。このまま速攻封殺してしまえれば話も早い、のだが……。
「召喚!!!」
相手は腐ってもクラス2の召喚術師。易々と勝ちを譲ってくれる訳は無い。俺と召喚術師を繋ぐ直線上の空間に召喚獣が出現する際特有の歪みが発生した。
そう、クラス2の召喚獣を召喚する時間がないのなら……まずはクラス1の召喚獣を召喚すればいいだけなのだ。
◇◇◇
召喚術師の初手はクラス1召喚獣、スケルトン。相性に対する影響がほとんど無いので誰にでも召喚できる上に召喚に掛かる時間と魔力コストが少ない。
決して強い召喚獣ではないが、時間稼ぎとして最初に召喚するには十分な召喚獣と言えるだろう。
ただし、1vs1戦で使用できる召喚カードの枚数は5枚までと決まっている。その1枠を俺でも倒せる強さの召喚獣で消費してくれるのであればそれはこちらとしても願ってもない事だ。
スケルトンは動き出すことも無く、召喚術師と俺を遮るように仁王立ちしている。このまま一直線に進めば間違いなくスケルトンと衝突する事になるだろう。
……召喚位置が絶妙だ。これ程近くに召喚されてしまえば避けるためには一度速度を落として曲がらないといけない。しかし、それでは召喚術師に時間を与えてしまうことになる。
(クラス2の名は伊達では無いってことか。)
対人戦、取り分け魔道具師との戦いに慣れているように感じる。恐らくは格下の冒険者に絡むのも今日に始まった話では無かったのだろう。……だが。
「なァッ!?」
対人戦に慣れているのは召喚術師だけでは無い。定石に従うならスケルトンを避けて召喚術師に向かうところを敢えてそのまま直進。スケルトンへと突っ込むと……俺の身体はスケルトンをすり抜けた。
俄には信じ難い現象ではあるけれど、これは俺が何かをした訳では無い。
実の所を言うと、『召喚』で目の前の空間に召喚獣が居るように見えても、実際はまだ別の空間に居たのだ。
『召喚境界』と呼ばれる、こちらの世界とあちらの世界の間にある層を突破する事で召喚は成立する。それまでは互いに干渉することさえ出来ない。つまりは、このようにすり抜けられるのだ。
これは近接戦闘を行う魔道具師でもなければ知り得ないテクニックだろう。そして、知っていたとしても実践する魔道具師は更に少ない。
(これで召喚術師の裏をかけたかっ?)
スケルトンで時間稼ぎする予定だったのを根本から崩したのだ。スケルトンの召喚位置は絶妙だったが、俺に対しての最適では無かった。その事が召喚術師が浮かべている焦りの表情と言う、目に見える形で表に出ていた。
……ただ、そう感じていられたのも束の間である。あと1秒もあればまた結果は違っただろう。
背中から空間の揺らぐ感覚が伝わってくる。俺の右足と左手の一部がスケルトンに重なった状態で、スケルトンは召喚境界を越えたのだ。
(あ、それは……)
ヤバい。そう思うよりも一足早く、召喚獣は召喚境界を突破する事で完全にこちらの世界に具現化する。
この突破と言うのは要するに召喚境界を破壊している訳だが……召喚境界が破壊されると、召喚獣が出現した時以上に空間が歪む。
そして、この時の歪みには重なるように存在するものを弾き飛ばす性質がある。この性質があるからこそ召喚獣は仁王立ちしていたのだ。そうでも無ければリスポンキルの餌食である。
……まぁ、つまりはどういう事かと言うと、
「ぐぅ……ッ!?」
俺の身体は右足と左手だけに物凄い勢いが加えられた事で不規則な回転を伴いながら吹き飛ばされるのだった。台風時の風車だってもう少し秩序だっていただろう。そりゃあ、実践する魔道具師が少ないわけである。吹き飛ばされる方向が召喚術師側だったのは幸運だが、姿勢の制御ができるほど生易しい速度ではない。
(受身の姿勢を取りたいが……!)
思っていたよりも召喚術師との距離が近い。流石に召喚術師の目の前で受け身の姿勢を取るのは無防備が過ぎるだろう。それならば体勢を崩したままでも、このまま突っ込んだ方が脅威に成り得る。
召喚術師とのファーストコンタクトはぐるぐると回る視界の中で行われることとなった。




