表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
召喚術師、成り損なう。α  作者: 優麗
第1章 魔道具師の戦い
1/39

第0話 化学の敗北

暫くは毎日投稿予定です。

よろしくお願いします。

 それはまるで『写真』のような『カード』であった。


 カードと言っても、社会人にとって馴染み深いだろうキャッシュカードやクレジットカードの類ではない。

 また、当然のようにポイントカードとも違う。そのカードを使ったとしても何らかのポイントが貯まるようなことはない……が、ヘイトなら一山いくらレベルで溜まるので、あながち間違ってはいないのかもしれない。交換先が『嫉妬』しかないポイントカードってどうかと思うけども。


 それでもあえて分類分けするならば、それはトレーディングカードが最も近いだろう。手のひらサイズの長方形、表面には多種多様なモノ(・・)が現実と区別出来ないほどのリアルさで描かれている。


『現実と区別出来ないなら、それは写真なのではないか』と思うかもしれないが……それは違うと断言しよう。

 なぜなら、そこに描かれている大半がこの世に(・・・・)存在しないモノ(・・・・・・・)だからだ。



 表面が『写真のよう』なら裏面はと言うと、デザインの欠片も無い白一色。シンプルを通り越して開発段階のカードなのではないかと思える程の味気無さである。

 それをなぜトレーディングカード……トレカに分類したのかと言うと、このカードには常識では考えられない特殊な機能が2つばかり付いているからだ。


 その内の1つが『カード内の世界に入り込める』ことである。

 どのような原理でそのような非現実的な事象が引き起こされているのかは、未だに解明されていない。そして、それはこれからも解明されることは無いのかもしれない。化学はカードの前に敗北している。


 それでも、『仕組み』が分からなくとも『使い方』さえ分かるなら使う側にとってはさしたる問題ではないだろう。

 事実、カードの所持者が『カード内に入りたい』と願うだけでカードの世界に入り込めてしまえるのだ。


 カード内の世界はそれこそカードによって大きく異なるが、今のところ人に直接的な害のある世界は見つかっていない。『直接的な』と前置きしたのは勿論、間接的になら害が出ているからだ。


 例えばカードの表面に『酒池肉林』が描かれていたなら、カード内の世界では何時でも何度でも『酒池肉林』を堪能できる。その上、カードの世界でしか味わえないモノも多く存在するのだから、精神的な方面にまでまるっきり害が出ないなんてことはあり得ない。

 世の金持ちが(こぞ)ってカードを欲しがるのもそれが理由なのだろう。



 だが、それでも俺にとって重要なのはもう1つの機能にある。それこそが、『カードのデザインを実体化』できることだ。


『召喚』と呼ばれているその現象により、今ではエルフやドワーフ、果てにはドラゴンやゴブリンと言った空想上の生き物(フィクション)は実在しない生物ではなくなった。

 夢は現実となったのだ。



 ただし、夢を実現出来るようになったとしても、それを使いこなす土台が無ければ意味は無い。要するに召喚獣を使役できても使役して行うべき事がなければ宝の持ち腐れ、と言うことである。

 或いは、戦争の道具である。


 そうはならなかったことを幸運と呼んで良いのかは俺には判断出来ない。なぜなら、そこ(・・)も戦争に負けずとも劣らない犠牲者を出しているからだ。



 カードを十全に扱える異界。畏怖と畏敬を込めて『ダンジョン』と呼ばれるその場所こそ、世界の法則から外れた命懸けの試練場にして憧れの集う地。


 カードを筆頭に数多の財宝が眠るダンジョンは人々の夢と希望で満ち溢れていた。

 常識で考えれば人の手では届き得なかった奇跡にさえ手が届くかもしれない。その可能性を感じられるだけでも、ダンジョンに人が集まるには十分だったのだろう。



それが、(おびただ)しい犠牲者の上に成り立っていたとしても。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ