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27.形勢逆転!?




「ユーシア、すまない……。君の傷を抉るような発言をさせてしまって……」



 お城の廊下を歩いていると、旦那様が申し訳無さそうに頭を下げ謝罪をしてきた。



「そんな、旦那様が謝ることなんて無いですよ!? 寧ろ、私の方こそごめんなさい……。私の所為で、旦那様や伯爵家が悪く言われたり非難されてしまうかも……」

「そんなことはどうでもいい! 仮にそんな馬鹿げたことを言ってくる奴がいても、君は全く気にしなくていい。ウルグレイン家の皆が、君のことを心から慕っていることは、これからもずっと変わらないから。俺も、何があっても君を愛してるから」

「……っ!!」



 私は旦那様のその言葉に感極まり、堪え切れずブワッと涙が溢れた。

 涙が止まらずしゃくり上げる私に、旦那様は小さく苦笑すると廊下の柱の蔭に連れて行き、私の身体をギュッと抱きしめる。

 そして唇で私の涙を拭うと、そのままそれを重ねてきた。


 私が泣き止むまで、旦那様は何度もキスをして慰めてくれた――





「――って、誰かに見られていたらどうしてたんですかっ、もうっっ!!」



 再び、広い廊下を二人並んで歩く。

 私は恥ずかしさの余り両手で顔を覆いながら、旦那様にぶぅぶぅと文句を言っていた。



「俺は別に誰かに見られても良かったぞ? あのまま廊下の真ん中でしても良かったんだが」

「ヒィッ! 考えただけで頭が沸騰しそう……!!」

「はははっ」



 私の反応に旦那様が楽しそうに笑う。そんな彼を、擦れ違うお城の使用人さん達が驚愕した様子で二度見してくる。

 ……? 何だろう、そんなに旦那様の笑顔が珍しいのかな? 私にはいつも笑ってくれてるけど……。



「――さて、戻ったら父の捜索を再開するか……。全くどこをほっつき歩いてるんだか、あの放浪親父は」



 私は旦那様の言い方に、思わずプッと吹き出してしまった。



「じゃあ私は、新しいお菓子開発を成功させて、旦那様の舌を唸らせてみせますね! 覚悟していて下さい!」

「ははっ! ――あぁ、楽しみにしてるよ」

「――はっ、そのイチャイチャも演技かよ?」



 突然後ろから聞こえてきた声に、私達はバッと後ろを振り向く。

 そこには、柱に寄り掛かって腕を組む第一王子の姿があった。



「……まだ何か用でも?」



 冷めた顔で、同じく冷たく言い放った旦那様を無視し、王子は私のもとに歩いてきた。



「アンタ、ランブノー男爵の娘だったんだな?」

「……えぇ、そうですが……」

「ランブノー家は代々、『回復魔法』を持って産まれると聞いた。アンタの姉も『回復魔法』を使えた。けど、アンタは使えなかった。そうだよな?」

「……どうして……」

「どうして知ってるかって? そんなの簡単だ、ついさっき牢獄の中にいるランブノー男爵に聞いてきたんだからな」

「っ!?」



 王子は口の端を持ち上げながら、私をジッと見下ろしている。

 ……この人は一体、何を言おうとしているんだろう……?

 


「もしかしてさ、実は使えないんじゃなくて、別の魔法を持って産まれてきたんじゃねぇか? 例えば、『回復魔法』の正反対である『破壊魔法』とか」

「……っ!?」



 私が小さく息を呑んだのを王子は見逃さなかったらしい。口元の笑みを更に大きくさせ笑う。



「ははっ! やっぱりそうか。なら益々アンタが欲しくなったぜ、お嬢さん。――今すぐにな」



 そう言うや否や、王子は私の腕を掴んで強く引っ張ると、私の身体をその腕の中に閉じ込めた。



「あっ!?」

「ユーシアッ!! ――貴様ぁッッ!!」



 旦那様が激昂し、王子に掴み掛かろうとするより早く、彼はニヤリと笑うと懐から何かの巻物を取り出した。



「……っ!? それは移動ロール――」

「じゃあな、伯爵。お嬢さんは貰っていくぜ。お前と違ってたっぷりと可愛がってやるから安心しな?」



 王子が嘲笑いながらその巻物をバサリと開くと同時に、空間が捩れたような感覚に陥り、私の意識は闇に呑まれていった――





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