24.容疑者はまさかの!?
ウルグレイン家に戻った後、私達はすぐにヴォルターさんに事のあらましを説明した。
私はそれに加え、レスカさんは私と町の人達を守る為に奮闘してくれたことを強調し伝える。
ヴォルターさんは私達の話を聞き終わると、私に深く頭を下げ、
「レスカの命を守って下さって本当にありがとうございました」
と、感謝の言葉を口にした。
ヴォルターさんの声が少し震えているように感じて、レスカさんを見ると、彼女もそれに気付いたみたいで。
「父さん……」と呟き、瞳を潤ませる彼女を見て、私は少し羨ましいと思ってしまった。
……私には、心配してくれる親なんていなかったから……。
その後、どうやら魔力を使い果たしてしまったらしい私は急激な眠気に襲われ、その場に倒れるように眠ってしまったことまでは覚えている。
パチリと目を覚ましたら、そこは見覚えのあるベッドの上だった。
ゆっくりと上半身を起こし、「ん〜〜」と大きく伸びをする。
『おはよう。ぐっすり眠っていたね、もう夜だよ。魔力はすっかり回復したみたいだね』
「おはよう、フワ。うん、お蔭様でスッキリとした気分だよ。ここは――」
……やっぱり、ここって旦那様のお部屋だよね。
ヴォルターさんかレスカさんが私をここまで運んでくれたのかな?
『執事さんがあのお姉さんに任せていたよ。「わたくしですと、旦那様に睨まれてチクチク言われそうですので」とか言ってた』
「……? どういうことだろう?」
『さぁ? よく分からないね』
「うん……」
それにしても、何故に私の部屋じゃなくて、旦那様のお部屋?
『私が寝る場所』イコール『旦那様のお部屋』になってしまっているのかしら……。それはそれで何とも言えない……。
ふと枕の横を見ると、私の着替えが置いてあった。
これもレスカさんが用意してくれたのかな? 今日は一日中動いて汗をかいていたから、この気配りがとても嬉しい。
早速、部屋のシャワーを借りて身体をサッパリとさせる。
着替え終わって鼻唄を口ずさみながら髪の毛を拭いていると、不意にガチャリと扉が開けられ、軽装の旦那様が姿を現した。
「ユーシア!? 目を覚ましたのか!!」
立っている私を見て旦那様は目を見開きそう叫ぶと、部屋に飛び込んできて私の両肩を掴んだ。
「身体は大丈夫か!? 何ともないか!?」
「あ……はい、もう大丈夫ですよ。一眠りしてシャワーも浴びたら、心も身体もスッキリしました。心配して下さってありがとうございます」
「そんなの当たり前だろう!? 君は俺の大事な人なんだから!」
「……旦那様……」
ギュッと強く抱きしめてくる旦那様に、私は嬉しさが込み上げてくるのを感じた。
――あぁ、私は何を羨ましがっていたんだろう。
こんなにすぐ近くに、こんなに私のことを心配してくれる人がいるのに。
私は旦那様の広い背中に手を回し、今の想いを素直に口にした。
「旦那様、大好きです。心から愛しています」
「……ユーシア……」
唐突な告白に、旦那様は目を瞠って微笑む私を見下ろす。
そして、負けじとするように唐突に唇が奪われた。荒々しく貪るような口付けに、息が段々と上がっていく。
こ、この人は本当毎回毎回突然に……っ。
しかも、長い……長いってーーっ!!
ちょっ、何で私の胸に手を置くの!? 何で妖しく動かしてるの!? 何始める気なのっっ!?
慌てて旦那様の胸を両拳でトントン叩くと、彼はハッとして顔と手を離してくれた。
「す、すまない。また理性が飛んでしまってたようだ」
なるほど! 旦那様の理性は低いんじゃなくて飛んで脱走するんですね!?
首輪して切れない紐で繋げておいた方が良いと思います!
――あっ! そうだ、旦那様に謝らなくちゃ……。
「旦那様、ごめんなさい。約束を破って、魔法を使ってしまいました……」
「そんなのはいい! 君はレスカ嬢と町の者達を救ったんだ。謝る必要なんてこれっぽっちも無いんだ」
旦那様はシュンとする私の頭を優しく撫でると、私を抱き上げソファに座らせた。
……いや、この短い距離は普通に歩いてこれましたよ……?
「夕食を食べていないから腹が空いただろう? 俺もまだだし、ここに持って来させるから一緒に食べよう」
「……! はい、ありがとうございます!」
使用人さんが持って来てくれた夕食を二人で美味しく食べながら、旦那様はゴブリンがあの森に現れた理由を話してくれた。
「ゴブリン大量発生の原因を早急に調べたところ、地面の奥深くに大規模なゴブリンの巣があったことが判明したんだ」
「えっ、ゴブリンの巣がっ!?」
「中に入って確認したんだが、ゴブリンが一匹もおらず、地面には大量の武器と砂みたいなものが散らばっていた。砂が山になっていた箇所が一つあったから、恐らく巣の主であるキングゴブリンもいたんだろう」
大量の砂!? それって――
「もしかして、私の魔法で……?」
「あぁ。君は地上のゴブリンだけでなく、地底のゴブリンも全員倒していたんだよ。あの規模の巣だと、恐らく百匹以上はいただろう」
ひゃ、百匹もウジャウジャとっ!? 想像しただけで怖過ぎる!!
「君が魔力切れを起こしたのもその所為だ。それでもとんでもない量の魔力を持っているぞ、君は。上級の魔導師以上だと思う。巣の主もゴブリンも全て綺麗に一掃したし、今後はこの領でゴブリンの被害は出ないだろう。本当にありがとう、ユーシア」
「い、いえ、そんな……。地底のゴブリンは本当に偶然で――」
感嘆して礼を言ってきた旦那様に、私は自分の状況をまだ呑み込めず小さく首を振った。
確かに、魔法の対象を『ゴブリン全員』にしたけれど、まさか地底の巣の中にいたゴブリンまでもがそれに含まれていたなんて……。
「あ……そう言えば、どうして地底にいるゴブリンが地上に出てきたのですか? 今まで一度も出てこなかったのに――」
「それは、森の中に地面を深く掘り起こした跡があったんだ。そこからゴブリンの巣へと繋がってしまい、奴らがよじ登ってきたみたいだ」
「掘り起こした……?」
「そう、人為的にな。調べると、各地でそういった現象が起きているらしい。それらは全て掘った跡だけで、うちと違って被害が出ていないのが幸いだった。その中で、掘った穴の近くに人がいたという目撃情報があったんだ。その者は灰色っぽい水色の長髪を後ろに結んでいて、丸っぽい眼鏡を掛けていたと」
「おぉ……。それはものすごく有力情報ですね! その髪の色は珍しいし、調べたらある程度絞られるかも!」
私の興奮した口調に、旦那様は正反対の様子で額に手をやり下を向き、大きく溜息をついた。
「? どうされましたか、旦那様?」
「そいつは……多分、俺の父だ」
「…………へっ??」




