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11.家族がどうなろうとも、私は




「……ユーシア、今のとんでもない魔法は何だ……? 君は魔法が使えなかった筈では――」



 ウルグレイン伯爵が目と口をポカンと開けながら私に訊いてくる。

 バッチリ見られてしまったし、もう隠す必要は無いか……。



「……ランブノー家は代々、回復魔法を持って産まれてくるのですが、何故か私はその正反対の破壊魔法を持って産まれたんです。それは家族も誰も知りません。子供の頃に興味本位で一回だけ使ったことがあるのですが、その凄まじい破壊力に酷い恐怖を抱き、もう二度と使わないと決めていました」

「そうだったのか……。辛い思いをさせて悪かった。けれど、君のお蔭でウルグレイン領――いや、この世界から危機は去ったんだ。他の場所で暴れないように、何とかここで引き止めていたんだが、どうやって倒そうか考えあぐねていたんだ。町の者達もこれで安心して暮らせるよ。君はこの世界の救世主だ」

「そんな、救世主だなんて言い過ぎですよ……」

「謙遜するな、本当のことだ。“勇気”を出してくれてありがとう、ユーシア」



 ウルグレイン伯爵は微笑み、私を正面からギュッと抱きしめ直すと、額と両頬にキスをしてきた。そしてクイッと顎を持ち上げられたと思ったら、唇にもキスをされた。



 ……んんっ!? 何だかウルグレイン伯爵のスキンシップが激しい……。

 今までの素っ気無いツンケンな態度はどこへ行ったの!?

 そしてチューが長い……長いって!! ちょっ……問答無用で深いヤツに進化するのは止めて!? まだ息継ぎの仕方が分からないんだって……っ。


 ていうかさっきから本人の許可無くキスしてる! それダメ! 許可はちゃんと取りましょう伯爵様!?



 そんな心の声も空しく、唇と口内をじっくりと堪能された私は、息も絶え絶えになりウルグレイン伯爵の胸にクタリと寄り掛かった。

 彼は上機嫌で私の髪を頭上から撫で、そこに顔を埋める。



「あぁ、心底可愛いな……。すぐにでも襲い掛かりたい」



 脅威になる存在がまだここにいましたーーっ!!



「さっき俺が君に言ったことは真剣だ。俺は君を本当に愛している。だから俺と結婚して欲しい……ユーシア」

「伯爵様……」



 私は真面目な表情のウルグレイン伯爵を見上げた。



「その前に教えて頂けますか。貴方が最初に『愛することはない』と仰った理由を」

「……あぁ……」



 ウルグレイン伯爵はバツが悪そうに頭を掻くと、ポツポツと話し始めた。



「俺には五歳の時に大切な子がいたんだ。本当に可愛くて、大好きで、俺は暇さえあればその子とずっと一緒にいた。子供心にその子を愛していたんだ」

「……伯爵様に、そんなお人が……」

「けれど俺が七歳の時、森でその子と遊んでいた俺に、突然魔物が襲い掛かってきた。恐怖で身動きが出来なかった俺を、その子が身を挺して庇ってくれたんだ」



 ……ん? どこかで聞いたことのあるような……。



「その子は命を失い、俺は生き残った。俺は自分を責め、悲しみと苦しみで一杯になった。その時決めたんだ。こんな辛い思いをするなら、もう誰も絶対に愛さない、と」

「伯爵様……」



 私は胸の前でグッと握り拳を作ると、ニコリと笑顔を作った。



「伯爵様が私を愛すると仰るのなら、私は貴方より先には絶対に死にませんよ。辛い思いはもう二度とさせません。向かい来る魔物は粉砕魔法でやっつけますし、健康にも気を付けます。勿論伯爵様もですよ? 貴方がヨボヨボのお爺ちゃんになって天に召される姿をちゃんと見届けますから安心して下さい! そして、天国でその子と仲良く暮らして下さい。私は貴方が幸せならそれで十分ですから」



 私の言葉をウルグレイン伯爵は驚いた顔つきで聞いていたけれど、やがて潤んだ蒼い瞳を細め、フッと吹き出した。



「君は本当に……愛しくて堪らないな。俺は叶うなら、君と同時に天に召されたいよ。――あぁ、言い忘れていたが、その子は『猫』だよ。君の髪のようにフワフワした栗色の毛を持つ、とても利口な猫だった。俺の『親友(とも)』だよ。天ではその子と一緒に暮らそう。君も絶対に好きになる筈だ」

「…………!!」



 『猫』っ!? 人間じゃなかったのね!? 紛らわしい言い方をしないで伯爵様っ!?



 ――じゃあ、やっぱりその子は――



「そうだユーシア。君に訊きたいことがあったんだ。君の実家のランブノー家にはもう未練は無いか?」

「え……?」



 未練? 何でそんなことを訊くんだろう?



「はい」

「ランブノー家が――君の家族がどうなろうとも?」



 私はその問いに一瞬息を止め、家族の顔を思い浮かべた。


 ……真っ先に浮かんだ顔は、どれも私を侮蔑する醜く嗤う表情だった。



「――はい」

「……分かった。――ヴォルター!」

「はい、ここに」



 ウルグレイン伯爵の呼び掛けと同時に、ヴォルターさんが風のようにヒュンッと現れ、私は心臓が飛び出るほどビックリしてしまった。



「集めておいたランブノー家に関する例の書類をまとめて出しておいてくれ。俺はユーシアを我が家に送り届けた後、ランブノー家に向かう。貴方も同行して欲しい」

「畏まりました」



 ヴォルターさんは優雅に一礼すると、また風のようにサッと消えていった。


 ……ヴォルターさん……貴方一体何者ですかっ!?





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