第9.5話 合宿
第9回の収録中。3rdステージが始まる前のころ。
この大会、ともに1stステージリタイアという結果に終わった宮崎マリンと長谷川健一。
「長谷川さん、実は今回のSASUKEの大会前に、私と結衣ちゃんで合宿をしたんですが、次回は長谷川さんもどうですか?」
「宮崎さんと、氷川さんの2人が一緒か。」
「できればもっとメンバーがいたらいいな、って思うんですけど。」
「神戸君が一緒なら行くかもな。俺、結婚してるし。だから女性と泊まり込みは引け目を感じるっていうか。」
「そうでしたね。長谷川さん、結婚してましたもんね。あの第4回大会のとき…。」
「あらためて思い出すと恥ずかしいことしたな、俺。」
「恵さん、こんなかっこいい旦那さんがいて幸せだと思いますよ。ああいうプロポーズ、女の子なら誰でもあこがれます。」
第9回大会の収録終了。
最終競技者神戸勝樹がまさかのランブリングダイスリタイアという結果で第9回大会は幕を閉じた。
「神戸さん、次のSASUKE前に、私と結衣ちゃんで合宿をしようと思うのですが、神戸さんもどうですか?神戸さんが来るなら長谷川さんも来ると言ってました。」
「合宿ねー。なんのために?」
「それは皆さんで攻略法とかの情報を出し合って、ともにSASUKE完全制覇を目指そうと。」
神戸さんはSASUKE完全制覇への想いは誰よりも強いことを知っていた。しかし
「悪いけど俺は参加できないな。SASUKEを完全制覇したい、それは誰でも同じなのはわかる。だが自分の目標は自分だけの力で達成したいんだ。君たちはいわば敵、ライバルみたいなもんだし、あまり敵に自分の手の内を知られるのも嫌なんだよね。」
「でも長谷川さんとはガソリンスタンドでよく会ってた盟友だったじゃないですか。」
「そうなんだけど、これは本人の前では言ってないんだけど、長谷川君の完全制覇も俺はあまりいい気しなかった。やっぱり自分がしたかったんだよね。」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
第10回大会前、マリンと結衣は今度はマリンの地元、長崎で会った。
「結衣ちゃん、ようこそ、私の住む街へ。私の家に招待するね。」
「楽しみだな。マリンちゃんの家に行くの何年ぶりだろう?」
「そのときはここじゃなかったけどね。」
お互い同じ街に住んでた小学4年生のときと違って、今は離れた場所に住んでいる。だからSASUKEの収録当日と、こういう合宿のときしか会えない。
「でもたまにしか会えないからこそ、結衣ちゃんと会える日をいつも楽しみにしてるんだ。」
「私もだよ。」
まりんの家
「まりんちゃんと一緒にSASUKEに出てる氷川結衣です。お久しぶりです。」
結衣はまりんの母に挨拶した。
「結衣ちゃん、久しぶり。大きくなったのね。」
居間ではSASUKE第9回大会の競技終了後、長谷川さんと神戸さんを合宿に誘ったことを話した。
「ということで神戸さんを合宿に誘ったんだけど断られちゃいました。」
「私は2人きりのほうがいいから、これでよかったんだけどな。」
「なんか男子に告白してフラれた気分だよ。」
「え?マリンちゃん、神戸さんのこと好きだったの?」
「そこまで好きじゃないよ。でも、ちょっといいな、って思うとこはあるし、神戸さんも私と同じ目標に向かって突き進んでる人だと思ったから。」
「でも神戸さん、自分の夢は自分だけの力でかなえたいって。私は結衣ちゃんと一緒にSASUKE完全制覇って目標を達成したいんだけど、私は変わってるのかな?」
「変わってないよ。私とマリンちゃんと同じだから。でも神戸さんみたいな人もいるのも普通だと思う。」
マリンは結衣を自作のSASUKEセットがある場所に案内する。
これは1stステージの終盤エリア、そり立つ壁のセットだ。
「私そり立つ壁はそこまで自信ないんだよね。これが原因でタイムアップになったことあるし。」
「私は毎日神社で石段登りトレーニングをしてるからそり立つ壁はそれなりに得意なんだけど。」
「そうなんだ。私もやろうかな。でもこの近くにそんな長い階段とかあるのかな。」
次は2ndステージの最終エリア、ウォールリフティングを仮想したセット。
「私一番苦手なのはウォールリフティングなんだ。パワー系は苦手。第7回はここでタイムアップになったしな。」
「でも前は問題なくクリアできてたじゃん」
「それはまあ、練習の成果あったのかな。」
次は3rdステージの最終エリア、パイプスライダーのセットだ。
「これは結衣ちゃんにも言っておきたいんだけど、パイプスライダーは、片方を順手、片方を逆手で持って進んだほうがいいんだよ。」
「私はまだパイプスライダーまで来たことないからよくわからないな。」
「でも次はそこまで行くかもしれないし」
「そうだね。クリフハンガーをクリアできたら、次はパイプスライダーだね。」
「ってそのやり方、神戸さんのやり方じゃ。そのせいでゴール地点に届いてたのに、ゴールから落ちちゃったことあったじゃん。」
「あれはバランス感覚が悪かったんじゃないかな。やり方は間違ってなかったんだよ。順手と逆手で持ったほうが、反動をつけるときバーが後ろに後退しにくいんだよ。」
「わかった。順手と逆手だね。」
「ねえ、クリフハンガーについては何かアドバイスないの?」
「足の使い方だね。」
「え?足?」
「クリフハンガーといえば腕や指先を強化することに目が行きがちだけど、足の使い方も重要なんだよね。体重移動だから、こうやって横に移動するように足を動かす。」
「まあアドバイスできることはこのくらいで、あとは練習あるのみかな。」
「そうかー。マリンちゃんのクリフハンガーのフォーム綺麗だよね。あれ見ると落ちないだろうな、って思えてくるし。私は3rdステージの後半になると、肩がきつくなるんだよね。胸のせいかな。」
「そうか、結衣ちゃん、おっぱい大きいもんね。私は…」
マリンが自分の小さい胸を触る
「でもそのくらいの胸のおかげで、ぶら下がり系が強いんだろうね。」
「そうなんだろうね。」
「気にしてたらごめん。」
あのあと2人で温泉にも行った。結衣ちゃんの胸に圧倒されそうになる。
でも結衣ちゃんは胸が大きいの気にしてそうなので触れないでおこう。
このときの詳細はいつかスピンオフが出たときに書くことにしよう。
夏には結衣ちゃんと海に行こうか。でも私、水着はスクール水着しか持ってないんだよな。水着を着たらまた結衣ちゃんの胸に嫉妬しちゃうのかな。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
SASUKE出場を目指す1人の少年がいた。
水無月裕樹。
姉はアイドルの水無月詩織。幼少期、姉の一番のファンは弟の裕樹だった。姉がアイドルになることが一番の夢。
だが彼にも夢はあった。野球選手という夢。小学生のころは少年野球チームに入っていたことがある。
しかし裕樹は小学生のとき交通事故に遭い、下半身の一部を麻痺。その後賢明なリハビリをしてきた。事故後、野球をやめた。
ある日、家族と野球観戦をしていたときに、球場で売り子のアルバイトをしていたあの人との出会いを果たす。
「ビールいかがですかー、美味しいビールはいかがですかー」
それが彼に新たな夢を与えた。
SASUKE出場を決意した裕樹。しかしなかなか公募に通らない。
第9回、第10回大会の一般公募に落選した。
詩織「またダメだったのね」
裕樹「うん、でも何度でもチャレンジするよ。」
その後、裕樹はSASUKE第11回大会前に行われる予選会への出場を決意する。