中秋の名月
うどんも、そばも好きですよ。
こいつが うどんかそばだったなら
割った卵を 椀へと落とせば
中秋の名月にも負けねえ 満月を描けるだろうさ
とろろが薄雲みたいに まとわりついても
白身が暈をつくって
黄身がまぁるく 浮かびあがりやがる
濃いくち醤油のつゆが 夜空を思わせりゃ
揚げ玉を星のように散りばめて 悦に入るよ
ねぎはもうしばらく わきへ寄せとこう
なんとも 風流だぜ
色気と食い気
花と団子とを
いっしょくたに楽しめる
いかにも 風流だぜ
天と地に
ふたつの月を愛でられるとは
夜空と椀に 中秋の名月
こいつが うどんかそばだったなら
そいつを小粋に嗜めただろうが
あいにく このおれときたら
嫌ってこそは いねえものの
うどんもそばも それほど好んじゃいねえ
あいにく こいつはラーメンだ
たとえ 椀へと卵を落とそうと
薄雲みたいに まとわりつくとろろや
星みたいに散りばめる 揚げ玉は似合わねえ
似合うとしたらチャーシューだ
そしたら まぁるい この黄身も
中秋の名月っていうより
チャーシューの名月ってところか
そんな馬鹿げたことを考えながら
麺をのばしちゃいけねえと あわててすすりこむ
こうなっちゃあ うどんでも そばでもおなじことか
おれには 風流なんて似つかわしくねえようだ
椀の月を崩してやりながら
もうしばらくは 崩れずにいてくれそうな夜空の月に
ありがてえと 礼を告げては
のびねえうちにと あわてて麺をすすりこむ
ラーメンのほうが好きですけど。