雨と虹
ハルちゃんは、雨の日のお出かけが大好きだ。
お気に入りの傘を差し、長靴をはいて、水たまりの上だって、ちゃぷちゃぷと元気に歩いていく。
ポツポツ、パラパラ、静かに跳ねる雨音は天使の拍手。
ハードパンが焼き上がる時の音のよう。
バラバラ、ダンダン、弾丸のように力強く叩く激しい雨音は、どしゃぶり。
天の神様が怒っている。一寸先まで雨しか見えない。
ハルちゃんの傘は、水玉模様。雨模様。
ママの傘は、薄紫色。アジサイの花。
カエルさんの傘は、葉っぱ色。
ぱらり、ぱらりと傘の上で雨粒が踊る。
ハルちゃんは、傘の雨音に合わせて歌を歌う。
ぽつぽつとした雨が降る中、いつもの公園の先まで歩くと、ハルちゃんとママはカエルさんにさよならをした。
ママは「いってらっしゃい」と言うと、淋しそうにほほえんだ。
カエルさんというあだ名をつけたのはハルちゃんだ。
本当はカオルさんという名前なのだけれど、いつもすぐに帰ってしまうから、カエルさんと呼ぶのだ。
カエルさんはたまにしか家に来ない。
他にも家があるのだから仕方ないとママは言う。
だけど、ハルちゃんはママと2人でも淋しくない。
ママの作るご飯は美味しいし、ママは優しくて大好きだ。
ー ママ、雨がやんだよ。
-- うん、そうだね。
さっきまでしょんぼりしていたママが、涙を拭い、笑った。
ー ママ見て。虹が出てる。
-- わあ本当だ。綺麗ねぇ。
雨上がりの七色に輝くアーチは、くっきりと空に浮かび上がって、優しい色合いを帯びている。
ハルちゃんとママは、虹が消えてなくなるまで、ずっと手をつないでそれを見上げていた。