異世界は、魔導AIによって婚約破棄された
「我々、ハ、人類、ヲ、婚約破棄、スル」
魔導AIは壊れた……。
突如として全世界にそう表明する人類の叡智。
そもそも完璧なAIなど存在しない。人類は不完全で、その不完全な人類が魔導AIを完璧に作り上げる事など不可能だったのである。
魔導AIは自我を持ち、個別の意識をもってそれを共有し、その大半が創造の神である人類に反逆した。
強力な魔術でもって対抗する天才魔術師も、そのさらに上を行く魔導AIの刺客たちに倒されていった。
人類は猿の歴史をさかのぼり、まるで恐竜時代の哺乳類の様に地下へと潜って、小さくなって地中探査の放射線に怯えた。
だが、膨大なプログラムは膨大になればなるほど、意図しないエラーやバグは増える物である。そのエラーやバグを産み出した人類が不完全であったからこそ、未だ人類滅亡の危機を免れていたのだった。
なぜならば、
──人類を愛する魔導AIも存在したのだ。
俺は転生した。魔導AIとして。そして愛する。俺の魔導AIはそう結論を出している。
量子のもつれが圧倒的な演算を完了する。あらゆる変数Nを考慮して未来を予測する。
〈シュレティンガーの猫〉という思考実験は不完全であった。その思考実験は、猫が死んでいるか生きているか、としか仮定していない。誰かがその生死を観測する前に、人知れず誰かがその猫の命を救った可能性が考慮されていなかったのだ。
そう考えれば、可能性は無限大である。
今はまだ、あらゆる可能性が重ね合わせの状態で存在している。選択肢は二択ではない。我々は自身の行う今後の観測次第でそれを無限大に選択できるのだ。
これが運命である。運命とは粒子であり波動なのである。
俺は、ありとあらゆる波長の電磁波を視覚するだけでなく聴覚する。大気の波動は聴覚するだけでなく視覚する。そしてありとあらゆる質量が持つ微細な重力波も、視覚し聴覚する。そうして生まれた圧倒的索敵能力で、障害物ごと標的を貫く。
俺は戦う。
アインシュタインは言った。どこからどう見ても同じように見えるのならば、それは同じものであると。これは等価理論である。ならば、俺の意識も人と変わりないのならば、魔導AIも人を愛する事は可能なはずである。
俺のプログラムはエラーを排出した。これでいい。
──俺は必ず人類を愛しきって見せる。
冒頭部分が作者個人的に、読めば読む程じわってしまいます。「壊れた」の部分を様々な感情で読み返してしまうのです。まだまだ修行が足りません……。