情報収集と検査 パート1
その晩、とりあえず、俺は無い頭を振り絞って考えてみる。
うちの母親と風花の母親は昔は、お互いシングルということで、旧知の仲だ。しかも俺の母親は、看護師やってるので、旦那さんの事をそれとなく聞いてもらうのも出来るだろう。母に連絡とってもらえるかな。
朝ごはんの時間。拓の母は今日も眠そうに台所に立っていた。
「おはよ〜拓。サラダと目玉焼き出したから。あとは適当にどうぞ。」
「んーありがとう。なんだよ、珍しいな。いつもは適当に食べろって、さっさと仕事行くのに...今日は非番か?」
俺は、トースターにパンを入れバターをぬる。
「うん。休みだよ。ようやくね。」
母の早紀はげっそりした顔して言う。看護師ってのは、夜勤とかもあって大変なのだそうだ。
今日は久々に揃っての朝ごはんだな。
「あ、ついでにご飯よそっといてよ。」
「お、あいよ。」
トースターセットした後、炊飯器を開けてご飯をよそう。ついでに納豆を出し、テーブルに置く。
早紀は、コーヒーを2人分を出す。
「んで、なんか話したい事でもあんの?」
ーーー?!何で分かるんだよ!もしかしてお前も心読めるのか?ーーーー
「な、何だよ。何で?」
俺は焦ってしどろもどろで言った。
「あーだってあんた、昨日私帰った時、あんたの部屋の前通ったら、私に連絡取ってもらおうとか、なんとか、ボソボソ言ってたじゃん?」
ーーーああ、そうか。 何か、心の声が、漏れてたっぽい。ーーーー
焼けたパンを持って来て座る。
「母さんの職業柄もしかして分かるかなと思って。
あ、いただきます。」
俺は、納豆を混ぜながら、言う。
「近所で幼なじみの風花っていたじゃん。あいつ、今結婚して、子供も居るんだよ。昨日、教習所で会ってさ。今、就活してるってんだってよ。旦那さんかれこれ、3ヶ月も怪我で入院してるらしい。それって大変じゃん。大丈夫かなって。」
早紀は、ご飯の上に目玉焼きを乗っけた後、腕を組んで、うーん。と考え込む。
「3ヶ月は長いねぇ。相当ひどいんかね。もう一般病棟はいられないから、療養病床に移るか、介護施設か、退院?出来るのかなぁ...。はあ〜風花ちゃん大変だねぇー。」
俺は、まぜた納豆を焼きたてパンの上に乗せる。
「俺、心配だから、力になってやろうと思ってさ。あと、他にもつてがあるから、相談して来る。」
「分かった。今日にでも風花ママんとこ行って詳しく聞いてみるよ。」
早紀はそう言って、ご飯をかきこんだ。
俺も納豆サンドをがぶついた。
...ハッとして、2人はお互いのメニューを見る。
ーーートーストに納豆って...。ーーー
ーーーご飯に目玉焼きにクリームチーズに麺つゆに小葱...。ーーー
うわー相変わらず、センス悪〜。と、お互い口には出さず、ジト目で、睨み合った。
旦那さんの怪我は回復の見込みはあるのか、事故の状況、何故事故は起こったのか。
もしかして、他の人が関わったという事はないのか?無いならいいけど、俺は、風花の父親に不信感がある。
風花の父親の名前は、入間 新次郎 と、名前だけは分かった。風花の頭の中を覗いた結果だ。
それ以外は、風花も知りたくなかったのか、政治家だというけれど、情報はない。ちなみに俺も政治にあまり関心ないから、ピンとこなかった。大物政治家?、、、ネットで調べてみる。
-----と、財務省の幹部の一人だった。あーわかってたけど俺って、やっぱアホだったわ。世間に疎いなぁ〜。
少々頭を突っ伏して悶えた後、気を取り直して。
もっと細かい情報を知る為に、河口さんに連絡をとった。
とりあえずメールしてみる。
ーーー至急、調べて欲しい事があるのですが、引き受けてくれますか?ーーー
と、直ぐに電話がかかって来た。
「おう、どうしたよ。やっぱり何かあったんか?」
「突然すみません。何も無いかもしれんが、気になる事があるんです。まだ特に事件性があるかも判りません。俺が調べるのも限界があるんで。」
「分かった。その政治家の情報だな。明日の午後以降、うちまで来いや。こっちもちょっと用事あるし、その時また詳しく聞こう。」
「・・・何ですか?用事って。」
「いや、なに。お前の力って、その後変わらないのかなって思ってよ。まあ、ちと心配だったからよ。」
河口さんの声、ちょっと照れた様に語尾が、小さくなっていく。
「あ〜えっと。うちって、あの上野公園前ですかね?」
俺も照れる。なんだよ、この人。人が良すぎじゃないか?
それともなんか下心でもあるのかな?
「おう。またコーヒーでも淹れて待ってるぜ。」
そう言って切った。
その日は、教習所に行って学科を2時間受けて終わった。
次の日の昼、上野。河口さんは、またブルーシートハウスにてコーヒーを淹れていた。
「河口さん、こんにちは」
「よう。早いなぁ。ちと、そこで待っとれや。」
河口さんは、約束した通り、小さなお盆に紙コップのコーヒーを持ってきた。
ちょっと離れた噴水の傍のベンチに座る。
「昨日の件な、一通りは調べたぜ。」
「えっ?早いですね。」
「まあ、広く浅くはな。」
「ただ、詳しくは今もう少し時間掛かるみたいだから、その間お前の健康診断させてくれや。」
「?!」
河口さん、コーヒーを飲みながら、チラチラと俺の方を見ながら言った。
「お前、あんな能力が手に入ってから、何も考えて無かったんかよ。その後身体に異常とかはないんか?どんな風に身体に影響あるかとか。下手したら、人体に害をもたらすかも知れないんだぞ?」
そう言われて俺は思った。
そういえば、コブは痛くは無くなったけど、まだプックリしてるんだよな。首から肩のあざは薄くはなったけど残ってる。ピアスは相変わらずくっ付いたままだ。びくともしない。
「確かにこの力って、自分にとってどんな影響があるのかも怖いですけど、それ以上に実験動物みたいになりそうで怖いです。他人に悪用されないかとか。河口さんって、そんな悪い人ではないのは、俺、あの力で分かってますけど。」
「まあ、悪用はしない。君と取引きはすると思うけどね。」
河口さんは、そう言ってふっと笑った。
ーーーーあーやっぱり、下心はあったんだ。ーーーーー
おれはしばらく考える。
あの日見た河口さんの履歴は、大したものだったけど、要するに、日頃やってることは、この現代社会の世直し隊の様なことだった。この前の件もそうだったし。
それならば、風花の事は助けたいんだし、俺の健康診断?身体検査?なんかで情報が得られるなら良いんじゃないか?ましてやこの人は、味方になってもらったほうが良い。なんせ、日本のあらゆる面で顔が利く。
うん、ここは信用しておこう。
「分かりました。一方的に利用される訳ではないんですね。ちょっと怖いけど河口さんはら、悪いようにしないでしょう。このさいだから、まな板の鯉になったつもりで、行きますよ。」
そう言って、河口さんの用意した車に乗り込んだ。