作戦会議と結果
それから、1時間後、その狭い一室に、体格の良い男が2人と、大きなキャリーケースを持った眼鏡の男が到着した。
市川さんと呼ばれる?眼鏡の30代位の男性はパソコンを出し、何やら、操作し始める。
河口のおじさんは、扉を開けて、
「くーちゃん、お茶5つー。」
と、言った。 コッペパン屋のくーちゃんは、
「はーい。少々お待ち下さい。」
と、トレーにお茶を乗せて運び入れる。
河口さんと俺、体格の良い警備員さんの2人が椅子に座り、市川さんは、プロジェクターと、パソコンの操作をしつつ、折り畳みの椅子にすわる。小さなテーブルには、お茶が5つ置かれた。壁に地図が映る。
「さて、今回は、監禁されている子の救出ということだが、組織や団体の繋がりなどは無い様だ。ということでこのメンバーだけでいけると思う。犯人が在宅中に一気に乗り込み解決で、問題ないだろう。」
河口さんが事情説明と、救出作戦の説明をする。
「犯人の名前と住所から、顔と、行動パターンを調査中です。あと、警察の方にも、直ぐにでも駆けつけてくれるように手配できます。」
「...ですが、本当なんですか?監禁されているというのは?我々の指示で警察は動きますが、もし間違ってたなら、さすがに不味い事になりますよ。」
市川さんと、警備員のどっしりとした体格の方の人が言った。
慌てて俺は言った。
「本当です。信じてもらえないかもですが、俺見えたんです!顔もわかります。彼女の名前と顔も。彼の頭の中にクッキリでしたから!早く助けてあげたい!」
皆、ちょっと疑わしそうな顔だ。
「市川君。試しにその彼女、捜査願いとか出てるか見てくれ。」
河口さんは、お茶を啜りつつ言った。
信じてないと言うより、皆を納得させる為に言っている様だ。
市川さん、パソコンに名前を入力する。
「あ、出てますね!半年前から...。」
皆、ゾッとしたような顔で俺を見る。
居こごち悪いなぁ〜。
「さあ、納得したところで、先進めようか。
多賀君、犯人の顔が判明したが、これであってるかい?」
早速モニターに出た。
「そうです。この人です!」
拓は、そう断言した。
「それじゃあ、時間も惜しいし、作戦会議始めようか。」
河口さんが、厳かにそう言った。
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相馬 智は、信じていた。彼女は、いつかは、自分の事を理解してくれると。今は束縛してしまっているが、必ずいつかは、またあの笑顔を向けてくれるはずだと。
買出しも終わったし、早く帰って安心したい。
その マンションは、とある警備会社と契約していた。何かあると住民は、しっかりと訓練し武装した保安員を呼ぶ事が出来るので、治安の悪そうな東京に住むのには安心だと、人気の物件だ。
でもまさか、そんな安心安全な住処に、住民の方が、犯罪者となって人1人を閉じ込めて置くなんて、夢にも思わなかっただろう。
インターホンを鳴らす。
「宅急便です。」
ーー応答なし。ーー
犯人が、不在なのは確認済み。不在連絡票をポストに投函。その際、小型カメラを中に仕込む。
ふむ。やはり、玄関先からは彼女、見えんか。外出中は、部屋の中から出られないようだな。
犯人が帰宅後、作戦開始といこうか。
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それから、一時間後、その部屋の住民、相馬が 自宅に帰って来た。
部屋の鍵を開ける。リビングのテーブルに買物袋を置き、寝室の方へ向かう。
「くるみ、いい子にしてた?ご飯買ってきたよ。」
彼女の拘束をといたのか、リビングに連れて来た。まだ、銃が何処にあるのかわからない。
警備員の2人は、配達員のフリをして、インターホンを鳴らす。
「宅急便です。ハンコお願いします。」
相馬は、舌打ちしつつ、彼女に手錠をはめ、テーブルに固定した。
ドアのロックをかけた状態で、ドアの隙間を開ける。そこにハンコをヌッと差し出し、
「荷物は、そこに置いといてくれ。」
と、1人の配達員が、ロックを大きなハイパワーペンチをガッツリ挟んでぶち切った。ドアを大きく開ける。
「くそっ!」
相馬は、一瞬呆然としたが、次の瞬間には彼女の元へ走り出す。
配達員のもう1人が、煙の出るボールを部屋に投げ入れる。ボールは転がって、リビングの方向へ行くと、直ぐに部屋の火災報知器が鳴った。
それを合図に警官が、部屋に向かう事になっていたのだ。
配達員の2人は、相馬を追って、リビングに飛び込む。
相馬は、懐から銃を取り出し、彼女の首に手を回し、振り返って頭に銃を突きつけようとした。
が、その銃を持った手を目掛けて1人が、野球ボール大のプニプニしたものを投げた。
割れたボールは、そのまま銃ごと固まった。
!
「なんだ!くそっ。何しやがる!」
そう言って、配達員の方に銃をむけるが、どんなに力を込めても、引き金は引けないでいる。カタカタと、手が震えていた。
「はい、残念でした。もう終わりだよ。」
相馬は、がっくりと、崩れ落ちた。